第5話

「天にまします我らの父よ、願わくば、み名の尊ばれんことをとかなんとか……意味もわからんと、言うてたわ。きっこちゃん、時々、外人の神父さんが幼稚園に来てはったの覚えてる?二人とも抱っこしてもろうたことがあったな。」

「覚えてるわ。初めて見た外国人やもんな。教室の壁にマリア様とか天使の絵が飾ってあって、きれいやったな。なんや、別世界やった。」

「それやのにおやつは和風のそばぼうろやった。」

「とこちゃん、よう覚えてるな。ほんま、和洋折衷やったんやな。」

「きっこちゃん、和洋折衷ていうたら、幼稚園の発表会、歌の時もあったけど、年長の時に劇やったやろ。」

「せやったな。ふたりとも舌切り雀の意地悪ばあさんの役で。アハハ、子供心にもがっかりしたのを思い出したわ。」

「大変だあ~、驚いたあ~、つづらの中身は宝物~、きっこちゃんと二人で頭に手ぬぐいかぶって、手広げて、足はがに股で、歌って踊るの、ほんまに嫌やった。キリスト教の幼稚園で、なんで舌切り雀やねん。今でもトラウマや。」

「うちは、とこちゃんと一緒でうれしかったけど。それより、つづらからお化けが出てきて、びっくりしてひっくり返るおばあさん役の慶子ちゃん、嫌がって泣いてたな。あれより、ましやて思てたわ。」

「でもな、きっこちゃん、お父ちゃんもお母ちゃんも、お姉ちゃんはマリア様やったのに、お前は舌切り雀の意地悪ばあさんの役かあて、がっかりするし、それもこたえたわ。」

「とこちゃん、それは、先生が背の順番で決めたんや。背の低い子が雀、うちらは真ん中やったからおばあさん、各クラスの背の高い子が聖劇に選ばれたんやと思うわ。よう考えてみたら、背の高い子て、生まれ月も早かったやろ。ほら、聖劇て、セリフ難しいやんか。子供の時の数ヶ月て、すごく差があるし、ちょっとでも、大きなってる子を選んだだけやて。マリア様の役の佳織ちゃん、四月生まれで、一番、背高かったで。」

「そうやったんや。確かに、お姉ちゃん、背は高かった。うちは、お姉ちゃんは美人やから、マリア様やと思てたわ。ハハハ、なんや、あほらし。」

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