第4話

「きっこちゃん、前にも言うたけど、うちの家は、お父ちゃんとお母ちゃんが夫婦で養子に来てんねん。せやからな、お父ちゃんもお母ちゃんも跡継ぎのことばっかし考えて。お姉ちゃん、短大でて、商社に勤めて。あの通りの美人やさかい、お嫁にくださいて、家まで来た人、ぎょうさんいたんや。せやのに、お父ちゃんもお母ちゃんも、婿に来てほしいの一点張りや。うちの家、お金持ちでもないに、お婿さんが来るわけないやんか。お姉ちゃんがかわいそうやった。」

「とこちゃんかて、傍で見てて辛かったやろ。」

「せやけどな、三男坊で、婿に来て、しかも親と一緒に住んでもええて言うてくれる人があらわれてん。お姉ちゃんが勤めてる会社の取引先の人で、お姉ちゃんにひとめぼれしたんやて。お姉ちゃんの上司の人を通じてうちの家に言うてきやはったんや。」

「その人がクリスチャンなんか?」

「きっこちゃん、その人の家族全員がクリスチャンやねん。二人のお兄さんはクリスチャンの人と結婚してはるねん。婿入りはするけど、信仰は捨てへんていうのが、たった一つの条件やて言わはって……」

「とこちゃんのお父ちゃんとお母ちゃん、びっくりしやはったやろ。」

「せやねん。お父ちゃんもお母ちゃんも御先祖様のこと、どないするねんて、大騒ぎや。」

「せやろなあ。目にうかぶわ。」

「でも、お姉ちゃんがな、御先祖様のことは自分がするし、相手の人と一緒に教会にも行くて……」

「せやった。とこちゃんのお姉ちゃんが行かはった聖光女学院、キリスト教やったな。」

「それに、きっこちゃん、うちらが住んでいる地域、昔、まだ、村やったころ、村長さんの高田さんがクリスチャンにならはったんやろ。」

「そうやな。うちもお父ちゃんから聞いたことがあるわ。代々、庄屋さんやった高田さんの跡取り息子がクリスチャンになって大騒ぎになったけど、そのかわり、田舎の村に、キリスト教の老人ホームと幼稚園ができたんやな。」

「高田さんの家の人は、先祖代々のお墓参りをして、お寺で回向して、日曜日には教会に行ってはる。昔からのお墓の横に、キリスト教の十字架のお墓が仲良う並んでる。うちらも、小さい時から見てたやん。同じことをしたらええて、お姉ちゃんが言うて、お父ちゃんとお母ちゃんが納得してん。今、離れをお姉ちゃんらが住めるように、改築してんねんで。」

「そうか。よかったなあ、とこちゃん。」

「きっこちゃん、うちらも、幼稚園はキリスト教やったもんな。」

「ほんまや。懐かしいなあ。ベレー帽かぶって、紺色のスカートはいて……そや、お祈りもしたな。」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る