第二話:王都ルミナス
人々の賑わう声が聞こえる。──ここは、王都ルミナス。ルミナス王国で一番大きな城下街で、商業や漁業などあらゆる貿易の中心地と言われるほど盛んな街。
そんな中、俺はと言うとアリスの面会に来ていた……
「なあアリス、もう少し手加減しろよ」
「わたくしは、無罪ですわ!ここから出して下さいまし!」
まるで檻に閉じ込められたゴリラのように鉄格子を揺らすアリス。当然のように、鉄格子が歪む。
「もう勘弁してくれ、何本鉄格子を曲げたら気が済むんだ」
看守の人が、泣きながら腕を掴んでくる。他の牢屋を見ると、入り口の鉄格子が何本も曲げられていた。恐らく、アリスが抵抗して折り曲げたのだろう……何という怪力。
なんでアリスが牢屋にいるのかと言うと……
王都ルミナスへ着いた俺達は、国王に災いを封印する方法がないか聞く為に城へ向かっていた。
「たくさんの出店があって、飽きませんわね」
「そりゃあ、王都だしな。あれ見てみろよ、お前の大好きなバナ……」
言い切る前に、俺の頭に拳が振り下ろされた。
頭のコブを擦りながらしばらく歩いていると、人が増えて混雑してきたな。
「こんなに人がいるんじゃ、迷子になりそうだな。まあ、迷子になる奴なんて子供くらいだろうけどな」
横を向くと、いるはずの人がそこにはもう居なかった……
「おい、嘘だろ!どこに行きやがった、あのゴリラ女」
探そうとも思ったが、人が多過ぎて無理だと早々に捜索を諦めた。恐らく、アリスも同じ考えだと……思うことにした。
「まあいいや、城に向かうか」
「何だ貴様!」
どこか遠くから、争う女性の声が聞こえる。
「なんだ? 路地裏の方からか?」
あまり面倒事は嫌だが、背に腹はかえられない。俺は、叫び声がした方へ向かった。
入り組んだ路地裏を道なりに進んで行くと、奥でフードを被った女性が男に連れて行かれそうになっているのが見えた。
「何をする、離せ!」
「いい女だな、売りに出せば金になる。 大人しくしろ!へへへっ」
「フレア!」
俺は、不意を突いて魔法を放った。爆発と共に、襲っていた男は地面に倒れた。どうやら爆発の衝撃で気絶したらしい。
「おい大丈夫か、怪我はないか?」
「戯け、この馬鹿者!危うく、私まで爆発に巻き込まれる所だったぞ。だが、そなたには救われた感謝する」
「それだけ言えるなら、怪我はなさそうだな。ひとまず、ここから離れるか」
道すがら、衛兵に人が路地裏で倒れてると伝えた。きっと、捕まえてくれるだろう。
路地裏を出て、ようやく落ち着ける場所にたどり着いた。
「ここまで来れば、大丈夫だな。俺の名前はマルス、よろしくな。んで、あんたの名前は?」
「私の名はルミナ……そう、ルミナ」
「ルミナは、なんで襲われてたんだ?」
「城から……じゃなく、家から出たら急に襲われた。逃げていたら途中で捕まって……」
「そこに、俺のフレアが飛んできたってことか」
まあ、俺が放ったフレアがルミナに当たる可能性もあったが黙っておこう。
「そんで、これからどうするんだ?俺は、はぐれちまった仲間を探すついでに城に行くけど」
「なら、私も同行する」
「決まりだな、そんじゃ行くかルミナ」
城に向かう途中、出店でバナナを数本買った。もちろん、アリスをおびき寄せる為ではない。単純に小腹が空いたので買ったのだ。ルミナにもバナナを渡そうとしたが、遠慮したのか断られた。ちょっと悲しい。
「やっと城に着いたぜ、この街広すぎなんだよ」
俺達は、城の入り口まで来ていた。結局、城に来るまでの道中でアリスを見つける事は出来なかった。全く、どこへ行ったのやら。
「さて、こっからどうやって国王に会えばいいのか。普通に会って貰えるとは思えねえよな」
「その点は心配ない」
「なんでそんな事が……」
俺が言い切る前に、ルミナが衛兵の前に立つ。ルミナがフードを外すと、驚いた顔をする衛兵が敬礼をして城の扉を開けてくれた。
「ルミナ、お前何者だよ!」
「行けば分かる、いいから行くぞ」
俺達が城の中を歩いていると、巡回している衛兵達がこちらに敬礼をしてくる。ルミナは、幹部か何かなのだろうか……今は考えるのを辞めよう。
俺達は、城の中央にある王室前へやって来た。扉の前にいた、衛兵達が扉を開ける。
中は、広い部屋と天井にはシャンデリアが飾られている。奥には、豪華な椅子に座りこちらを観察するように見る男がいた、国王陛下だ。
中央にひかれた赤い絨毯を歩いて行く。よく見ると、陛下の前でひざまずく金髪の女性がいた。
「やっと見つけたぞアリス!こんなとこで何してんだ」
「見れば分かりますわ……」
「オッホン」
ヤバイ、アリスへの怒りで陛下がいることを忘れていた。
「国王陛下、失礼致しました」
心臓をバクバクとさせながら、とっさに跪き無礼を詫びる。
「よい、話はそこにいるアリスから聞いておる」
どうやら、先に来ていたアリスから予め事情を聞いていたらしい。
俺が安堵していると、後ろからルミナが前へ出る。
「父上、ただいま戻りました」
「ルミナス、どこに行っておったのだ」
「見聞を広める為、街を散策しておりました」
彼女の本当の名前は「ルミナス」──国王陛下の一人娘。髪の毛は水色で、瞳の色は海のような青色。身元がバレないように偽名を使っていたらしい。
「嘘だろ……」
今までタメ口で話してた相手が、実は一国の王女だったとか洒落にならない。
「ルミナス様!なぜ、マルスと一緒に……」
「マルスには賊から助けてもらった」
「なんと、怪我などはしておらぬか?」
「幸い、怪我はしておりません」
「マルスよ、娘を救って頂き感謝する」
「国王陛下、頭をお上げください。私は、当然の事をしたまでです」
陛下が平民である俺に頭を下げたので驚いた。
「ところで国王陛下、アリスから話を聞いたとは思うのですが、災いを封印する方法をご存知でしょうか?」
「そうであったな、封印の方法についてだが残念ながら知らぬ」
「そう……ですか」
「だが、砂の国ラハリアなら何か情報があるやもしれん。ラハリアは、我が国と同盟を結んでおる。きっと、力になってくれるはずだ」
それを聞いた俺とアリスは、顔を見合わせる。
「アリス、次の行き先はラハリアだな」
「ですわね」
封印の情報はなかったが、次の行き先が決まった。
「それでは準備がありますので、わたくし達はこれで……」
「アリスよ、一つ頼み事を聞いてはくれぬか」
「頼み事ですの?」
「うむ、ラハリアに行くのならこの手紙をラハリア王に渡してくれぬか」
「この手紙をラハリア王に渡せばよろしいですのね、分かりましたわ」
「貴族であるお主なら、ラハリア王も受け取ってくれるであろう。では、頼むぞ」
陛下がアリスに手を差し伸べた。握手を交わすのだが、アリスの圧倒的な握力の前に陛下の指の骨が折れた。
「ああああああああ」
痛みで叫ぶ陛下の声を聞き、衛兵達が王室へ入ってくる。アリスは取り抑えられ、そのまま牢屋へ連行されていった。
そして、現在に至る……
幸いにも、俺の活躍により国王の娘を助けたと言う名目でアリスは釈放された。
「全く、俺が居なかったら今頃お前は牢屋暮らしだぞ」
「わたくしは、無罪ですわ」
アリスは頬を膨らませながらブツブツと無罪を主張してくる。
「行き先は決まったんだ、いいから行くぞ」
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