第一話:冒険の始まり
──ここは、ルミナス王国にある王都ルミナスから少し離れた場所の「サルージャ村」
夕方になって、俺達は神殿の一件から屋敷へと帰って来た。
「ただいま戻りましたわ」
「お帰りなさいませ、アリス様」
屋敷へ入ると、メイドが出迎えてくれた。
彼女の名前は「ステラ」──アリスの屋敷で働くメイドの一人で、メイド長を務めている。髪は茶色のセミショートヘア。瞳の色は、闇のように黒い。めちゃくちゃ美人。
「ゴリ……アリス様、お部屋でアルフレッド様がお呼びでございます」
俺は、ステラさんがゴリスと言いかけたことを胸の奥へと閉まった。
「分かりましたわ、マルスのお相手はお任せしますの」
「かしこまりました、マルス様こちらへ」
アリスと別れた後、俺はステラさんに客室へと案内された。
「マルス様、お飲み物でございます」
「あ……ありがとうございます」
何故、俺が敬語で話し辛そうにしてるのかと言うと。アリスには何とも思わないが、ステラさんは別。何と言うか、何を考えているのか分からない所が苦手なんだよ。
「……」
「……」
ヤバイ、どうしよう気まずい。何もせず、こちらを見るわけでもなく。ただ立っているだけなのに、どうしてこんなに不気味なんだ。流石にこの空気は耐えられる気がしない、こっちから話しかけてみるか。
「ステラさん、今日は何をされていたんですか?」
「今日は、お屋敷の清掃をしておりました」
「そ……そうなんですね」
「はい」
「……」
どうしよう、会話が弾まない。更に空気が重くなったような気がした。
しばらく重い空気を味わっていると、二階の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
俺は、この重い空気を脱出するチャンスだと思った。ステラさんに様子を見てくると伝え、二階へと向かった。
「巨大なゴリラを倒した!?何をしてるんだお前は!」
怒鳴り声を上げているのは「アルフレッド」──アリスの父親で、サルージャ村の統治を任されている貴族。金髪黒眼のおっさん。
「だってお父様仕方がなかったのですわ、あの巨大なゴリラはわたくし達を襲ってきたんですのよ」
「私はただ、森の様子を見てきて欲しいと頼んだだけなのに。いいか、森に住むと言われる巨大なゴリラは『猿王』と呼ばれている。かつて勇者と共に災いを封印した伝説のゴリラだ」
「そんな話聞いてませんわ」
「はあ、過ぎた事はもう仕方がない。それに、この村に伝わる伝説を言い忘れた私にも責任がある」
会話が気になり、俺はドアに耳を当て盗み聞きをしていた。会話が落ち着いたタイミングを見計らってドアをノックした。
「入りたまえ」
「失礼します」
「マルス君、ちょうど良かった。今しがた娘を説教していた所なんだが、君にも話しておきたい事がある」
「なんでしょうか」
「この村に伝わる伝説についてなのだが」
そう言うと、アルフレッドは棚から一冊の古い本を取り出す。
「この本に書いてある伝説によると……」
──災いが降りかかるとき 勇者とゴリラ現れん 勇者とゴリラ力合わせるとき 災いを封印せん
「と、このような伝説が残っている。娘の話によると、君と娘が巨大なゴリラを倒したと言っていたのだが……」
アルフレッドが俺を睨みつける。
「いえ、娘さんが一人で全部やりました!」
あっさりと仲間を売る俺を見て、アリスが冷たい視線を送ってくる。
「まあいい、君と娘を責めている訳ではない。ただ、猿王を倒してしまったとなると……世界に危機が訪れるかも知れない」
いきなり何を言っているんだこのおっさんは……。確かに伝説を聞く限り、あのゴリラを倒してしまったのはいささかまずいとは思う。
「それで、俺達は何をすれば……」
「最近多くなった森の異変、恐らくは封印が解けかかっていると考えるのが自然。それに猿王が倒されたとなると、災いを封印するのが難しくなってしまった。そこで二人には各国に行ってもらい、他に封印する方法がないか探して来て欲しいのだ」
ですよねと思いつつ、何となくそんな予感はしていた。俺とアリスは、顔を見合わせて頷く。どの道、猿王を倒してしまったのは俺達なので拒否権はない。
「分かりました、行きます!」
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