旅仲間のお嬢様がゴリラでも大丈夫ですか?
たける
プロローグ
──目の前には、巨大なゴリラが白目を向けながら倒れている。その巨大なゴリラを横目に、二人の若者が言い争いをしていた。
「わたくしは、ゴリラではないと何度言ったら分かるんですの」
顔を真っ赤にしている彼女は「アリス」──貴族のご令嬢。髪の毛は金色で、瞳の色は宝石のように綺麗な碧眼。生まれつき魔力を持っていなかったらしく毎日筋トレをした結果、ゴリラみたいなパワーになっちまった。
「どこの世界に、こんな巨大なゴリラを素手で倒す貴族の令嬢がいるんだよ!このゴリラ女!」
そのゴリ……ではなく、アリスに向かって暴言を吐いているのはこの俺「マルス」──アリスとは幼馴染みで、近所に住んでる。髪の毛は銀色で、瞳の色はワインのようにくすんだ赤眼。人並みには魔法が使えるかな。
「ムキッー!」
サルのように怒るアリスは見ていて面白い。
「ほら落ち着けよ、バナナでも食ってさ」
「もう我慢なりませんわ!お父様に頼んで、あなたの家を焼き払ってもらうことも出来ますのよ」
「なに物騒なこと言ってんだ!貴族であることを利用して、平民を脅すとか最低だな」
貴族の権力を利用した上に、親に頼るのはどうかと思う。
「まあ、地面に這いつくばって許しを請うのであれば許して差し上げてもいいですのよ」
「断る!俺は、貴族の圧力に屈したりはしない!」
「その余裕どこまで続くのか、帰るのが楽しみですわ」
「その減らず口叩けなくしてやるよ、ゴリラ女」
なんで巨大なゴリラが白目を向いて倒れる自体になったのか、事の発端は今朝まで遡る……。
家のドアが勢いよく開かれ、俺はドアの方を見た。チッまた壁にひびが入った、勘弁してくれ。
「ご機嫌よう、マルスはいらっしゃるかしら」
「おいおい、朝っぱらから騒がしいやつだな。一体なんだアリス、何か俺に用か?」
朝からドヤ顔を見せつけられ、アリスにイラッときた。
「最近、森に異変が起こっているのは知っているかしら?」
「地震やら山火事が起こってんのは知ってるけど……」
「知っているのなら話が早いですわ、今から森の奥に行ってみま……」
「結構です、お引き取りを!」
「そうはいきませんわ!」
間髪入れずにドアを閉めようとしたのに掴んできやがった。
「クソッ!なんて馬鹿力だ、ドアが……壊れる」
「はああああ」
「うおっ!」
抵抗していたが、圧倒的な力の前では無力だったようだ。金具が外れ、俺はドアもろとも吹っ飛ばされた。
「あ……あら?軽く押したつもりでしたのに……」
「このゴリ……ラ…………」
頭が痛い……確か、ドアを必死に閉めようとして吹っ飛ばされた……ような……?
「ここは……森?って、なんで俺引きずられてんだ!」
「あら、起きましたの」
俺は体をロープでぐるぐる巻きにされ、ずるずると荷物のように運ばれていた。
「あのー、そろそろ解放してくれませんかねえ」
「ようやく、着きましてよ」
「人の話し聞いてる?てか、どこに向かってたんだよ!」
「森の奥まで進んでいましたら、遠くに建物みたいなものが見えましたので、立ち寄ることにしましたの」
なぜか、アリスはうきうきとしている。まるで、子供が珍しい物を見つけてはしゃぐような……。
「は?今……、森の奥って言ったか?」
俺は気絶している間に、森の奥へと運ばれていたらしい。
「ああああああああああああああああああ」
アリスは叫ぶ俺を無視しながら引きずって行く。
「神殿……ですわ」
「嫌な予感しかしねえよ!誰か助けくれ!」
「さあ、行きますわよ」
俺はアリスに立たされ、強引に神殿へ連れてかれた。
「意外と明るいな……」
神殿の中は光魔法の類いなのか、理由は分からないが明るい。
神殿の奥へ歩いて行くと、扉を見つけた。扉はもちろんアリスがこじ開ける。ぐにゃりと歪んだ扉の先には広い部屋が待っていた。
きょろきょろと辺りを見回すと、中央に大きな黒い物体とバナナの皮?が落ちている。
「何だありゃ?」
「ちょっと近くで見ませんこと?」
「せめて、このロープをほどいてからにしてくれ」
観念した俺は、やっと束縛から解放された。
「誰かさんにロープでぐるぐる巻きにされたせいで体中が痛え」
「仕方ないですわよ、あなたが気絶してしまったのですから」
気絶させたのはお前だろうが!と話しているうちに大きな黒い物体の前までやって来たわけだが、寝息のような音が聞こえてくる。音のする方へ回ってみると、その正体が分かった。
「デカいゴリラだな」
「大きなゴリラですわ」
いくらなんでもデカ過ぎるだろ……。
「なんでこんな所にデカいゴリラがいるんだよ」
「もしかしたら、この神殿に住んでいらっしゃるのかも知れませんわ」
「もう行こうぜ、このデカブツが起きたら何されるか分からねえぞ」
「そうですわね。暗くなってきましたし、そろそろ屋敷に帰りましょうか」
起きる前に帰ろうとした時、地鳴りと共に地面が揺れ出した。
「地震か?デカいぞ!」
「急いで下さいまし」
慌てて、部屋の入り口まで戻ったが天井が崩れてきた。
「クソッ!入り口が塞がれちまった。あーあ、まずいなこりゃ」
「まずいですわね」
察するとおり、こういう時にはお約束と言うものがある。
「なあアリス、一斉に振り向かないか?」
「ええ、いいですわよ」
「「せーの!」」
振り向くとそこには、さっきまで眠っていたはずの大きな黒い物体がこちらを見つめていた……
「「ああああああああああああああああ」」
俺達は巨大なゴリラを見て、一目散に逃げ出した。
──ここで、読者の皆さんにも巨大なゴリラの言葉が分かるように翻訳していこうと思う。
「ウホウホ、ウホウホ」
(久しぶりの人間だ、何しに来たんだろうか)
「何か、ウホウホ言ってるぞ」
「きっとナワバリを侵されたと思って、怒っているんですわ」
「ウホッウホウホ……ッウホ、ウホーーーー」
(ちょっなんで逃げるんですか……って、うわああああ)
逃げながら後ろを振り向くと、巨大なゴリラが勢いよく手を振りかぶって来た。
「おい、あのゴリラ攻撃してきたぞ!」
黄色い何かを踏んづけていたような気がしたが、気のせいだろう……
「もう少しで死ぬところでしたわね」
「どうすんだ、もう逃げ場がないぞ」
「仕方ないですわ、ここで倒しましょう」
「倒しましょうって、こんなやつどうやって……え?」
「はああああああああ」
何かを溜めるようなかけ声と共に巨大なゴリラの顔めがけて飛んで行くアリス。
アリスのパンチが炸裂し、聞いたこともないような音がした。
どうやらアリスの放った渾身の一撃は、巨大なゴリラの顎にクリティカルヒットしたようだ。
渾身の一撃を食らった巨大なゴリラは、倒れると同時に壁に頭を強く打ち付け、白目を向いたまま動かなくなってしまった。
「すげえな、やっぱりお前ゴリラだな」
そして、現在に至る……
その後どうにか別の出口を見つけた俺達は、巨大なゴリラを尻目に屋敷へと帰った。
この時はまだ誰も知らなかったんだ、巨大なゴリラを倒したことによって起こる悲劇を……
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