写るもの、鬱らないもの

@mmmmooo

あんたへ

高校三年の夏。今年は一段と暑い気がする。鬱陶しい汗と蝉の声。6畳半の部屋で扇風機を回しながら、ただ時が過ぎるのを待っていた。


夏休み、そんな日々がずっと続けばいいってずっと思ってた。でも今はどうだ。そんな気持ちは一瞬部屋に入り込んだ風と共に過ぎ去った。


私は、このながい夏休みを、少なくとも8年、過ごしている。



歳は重なる、時間は過ぎ去る。そんな日々の中で私は何か変わっただろうか。

夏が過ぎても終わらない夏休み。私はよく人生について考える。考えて考えて頭がおかしくなってしまった。

あんたは自分の人生について考えたことあるか?いままでのこと、将来の事。もっと深く言えば自分の死についての事。考えたことがないならそのほうがいい。




これは私の人生の話。長くて短い、そんな私だけの話。

あんたの知らない一人の人間の、あんたが知る必要のなかった、あんたの価値を変える、そんなもの。まあ、あくまでもフィクションなんだけど。




今思えば生まれた時から私の人生に希望はなかった。あんたはどうだ。

特に理由はない。後付けの理由で十分だろう。

小さなころの私は所謂いい子だった。成績もよく気が使える。そう、都合の良い人間だった。ただ日々のプレッシャーに押しつぶされそうになった。実際つぶされてた。周囲からの期待の目、母からの言葉の圧。父はいなかった。そんな日々の中で私の人生は早くも限界を迎えた。

初めて死のうと思った。10になる頃だった。ちょうどそのころ私は学校に行けなくなった。無理はない。鬱病だった。だが不登校、鬱というレッテルを貼られたわが子を、母はどう思っただろうか。不登校は甘え、怠け。そんな認識が私にも、きっと他の誰にでもあった。死にたかった。

おっと、これはあくまでもフィクション。小学生の私はピンピンしていた。

あんたはどうだろうか。あんたのそばには不登校、鬱病、社会不適合者がいただろうか。あるいはあんたがその当事者か。そんな奴らがいた時、あんたはどうしてた?鼻で笑ったか?同情したか?危機感を覚えたか?


まあいい。私はこの最悪な日々から長い長い夏休みが始まった。


思い出したくもない。ここで執筆をやめたいぐらいだ。


それからというもの、腕を切ったり、精神科にお世話になったり、今もお世話になってるよ。母からの罵倒も絶えず。精神は常に限界。中学、高校、記憶がない。駅のホームで電車が通過する度に飛び降りたくなる。夜は寝れない。毎晩泣く日々。先の見えない8月31日の夜。永遠に続く表現すらできない感情。


これが現実だ。今ももがき苦しむ少年少女は数えきれないほどいる。あんたはどうだ。もしあんたも私と同じような永遠の夏休みを過ごしているならこう言おう。


あんたの苦しみ、悲しみ、怒りとかそんなもんは私には分からない。でもあんたの気持ちに寄り添って、あんたを苦しめる奴らを罵る事はできる。

あんたの自死を止めることも肯定することも、あんたの人生を保証することもできない。ただひとつ。さいごに。



互いに生き延びて、笑ってやろうぜ。


なんて奇麗事言えて受け入れられる状態じゃないんだろうけどね




吐き出したいことはこれで全部。まったく、息が詰まった。



これは僕の愛した彼女の人生の話。長くて短い、そんな彼女と僕だけの話。

あんたの知らない一人の人間の、あんたが知る必要のなかった、あんたの価値を変える、そんなもの。まあ、あくまでもフィクションなんだけど。


永遠に続く夏休み。それは缶ジュースのつまみにはちょうどいいのかもしれないな。なんて。

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