4. 彼の変化

 毎日のように迎えに来ていた彼女がこなくなり、


 彼が定刻になると走って出て行くようになり、


 しばらくすると

 退社時間ピッタリに仕事を終わらせるようになった。


 今週になったら

 仕事中にぼんやりしていることが多くなって

 残業になることが多くなった。


 私だって残業の多いから声をかけて仲良くなることは可能だ。

 でも彼らの中は部署の中で公認のようなものだ。

 理由があってのことだろうし、略奪にはなるのだろうか。

 法律的にはまだセーフだけど、心の中にチクリと違和感。

 これでいいのだろうか。


 彼をよくいえば、素直でわかりやすい人。

 悪く言えば仕事とプライベートを分けられない子供。

 朝峰は仕事ともにやってくる。


「それでも気になるんだ。あの先輩のこと」

 残業書類片手にやってきた朝峰に見透かされてしまうぐらいには、

 周りにただ漏れしているようだ。私の気持ち。

「……まぁね」

「いい加減あきらめなって。

 仕事とプライベートの区別のつかない奴、将来有望じゃないぜ」

 まるで自分が有望株であるかのいいようだ。

 やはり職場恋愛は難しい。いろいろと。切り替えも気持ちを隠すのも。

「そうね。合コンでも行こうかな」

「俺とかどうよ?」


「ノーサンキュー。友人の伝手で今度お食事どうかって言われているの。

 イケメンで大企業勤めらしいわ」

「え? おれはどーなんの?」

 純真な朝峰には優しい彼女を見つけてほしい。

 略奪を一度でも考えたことのない女性と。

「次に入社してくる新人に期待するのね」

「……羽を授けるドリンクは今日から無しな」

「えっ? ケチすぎません? そんなんじゃモテないわよ」

 もしわたしが先に恋人ができたら、

 朝峰に独身で美人な知り合いでも紹介してあげよう。

 凹んでいた同僚にドリンクをおごってくれたお礼に。

 そんな会話をしていてやっと吹っ切ろうとしていた。



 そんなある日、憧れの彼に声をかけられた。

「桜木君、相談があるんだ。今日の夜、いいかな」

「どのようなことでしょうか?」

「仕事にかかわることなんだ。ビル内のレストランで、

 そう遅くまでかからないから頼む」

「ええ、まぁ」

 やっと諦められるとおもっていたのに。

 一つため息をついて残りの仕事に向かいあう。

 今日は残業は無しだ。

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