第2話 就職活動

「先程の通知の通り、1週間以内に就職先を見つけてもらわなければなりません。軍への入隊希望であれば話は別ですが」

 軍というのは自衛隊みたいなものなのだろうか。

 響きからしてそうだよな……。絶対に入りたくはない。

「勿論、軍はないです。就職先はどうやったら見つけられるのでしょうか?」

「職業安定所に行くことです。そこで色々な職業を見つけることができるでしょう」

 職安かー、今の会社に勤めたのもここがきっかけだったっけ。


 トゥルルトゥルル

「おっと失礼」

 電話か? 手帳のようなものを取り出して話し始めたぞ。

「ええ、はい。そうです。新人の転生者に今……わかりました。すぐに向かいます」

 急用だろうか。


「あ、申し訳ございません。こちらの手帳から私へ連絡ができます。何かありましたらご連絡下さい」

 渡された手帳を開くとフォルスターの顔が映っていた。

 生中継でもしているかのように、目の前のフォルスターがそのまま手帳に映っている。

 原理はわからないけど、すごいなこれ。これで今誰かと会話していたのか。


 更に職安の地図を受け取り、俺はそこに向かうことになった。

「それでは私は別の仕事があるのでこの辺で」

 最後に幸運をと言うと、フォルスターは瞬時にその場から消えた。


 随分とあっさりとした説明だった。後は自力で何とかしろと言うことか……。


 今から1週間以内。仮に最終日に就職が決まらず、採用結果待ちだったらどうなるのだろうか?

 いや、そんなこと考えていても仕方がない。軍に入るのだけはごめんだ。

 とりあえず、地図に書かれた指示通り進もう。


 歩き始めると、様々な動物が見えるようになってきた。

 揃いも揃って二本足で歩いていて、正直気持ちが悪い……。

 カット専門と書かれた散髪屋にはハサミを持ったハゲタカがいるし、「スーパーおいでやす」には品出しをするネコやウサギがいた。


 こんな動物たちと一緒に働くことに想像ができないな。

 地図の通りに行くと、「職業安定所」と横看板を掲げた平屋が見えてきた。扉二枚が全開となっていて、入口に受付らしきヒツジが立っている。


「いらっしゃいませ。職業をお探しですか?」

 声色からしてメス(女性)だろう。しかし、活舌も良いし人間が同時吹き替えをしているかのようだ。

「はい。この世界に来たばかりで」

「あー、転生者の方ですね! ようこそ白の国へ。こちらの番号札を持ってお待ち下さい。順番になりましたらご案内いたします」


 番号札は25番と書かれていた。

 白の国ね。さっきの通知にも書いてあったけど、国だから相当広いのだろうか?

 何とか三世、四世みたいな国王もいるのかな。

 俺の他に転生した人間もいるのだろうか。


 中に入ると3つの窓口があって、その前に席がいくつか用意されていた。何だか現実の職安を思わせる。

 空席に座ると横から老人のようなフクロウが話しかけてきた。

「おや、人間じゃないかね」

「ええ、そうですけど」

「ここにいるということは、職をお探しじゃな?」

「はい。1週間以内に就職しなければならないようなんです」

「ふむ。それは転生者制度じゃな。ありゃーちと厳しすぎる」

 眉毛が長すぎて瞳がよく見えないが、感じのよさそうなお爺さんだ。


「わしは懐石料理屋を開く予定でのう。従業員を雇用するための登録申請に来ているのじゃ。申請が通っても最短で1週間後。採用するにも君の期限には間に合わんのう」

「お気遣いありがとうございます。そうですね、丁度1週間なので……今度開店された際には是非食べに行きますよ」

「この国の郷土料理は美味いぞ。地図はあるかの?」

 俺はフォルスターからもらった地図を出した。


「この辺りじゃな」

 お爺さんはペンを持ち、地図に丸印を付けてくれた。

 それとほぼ同時に、受付から声がかかった。

「番号札25番の方、3番窓口へどうぞ」

 あ、俺の番号だ。

「お主、名前は?」

「青山佑人と申します」

「真面目そうで良い子じゃ。わしはゴフクだ。良い職が見つかることを祈っとるぞ」

「はい! ゴフクさん、またお会いしましょう」

 お爺さんはニッコリ笑って、別の窓口に向かっていった。

 俺は仕事の癖で名前を忘れないように、地図の丸印の横に"ゴフク"と筆記した。


 さて、3番窓口はと。

 これまたヒツジの担当者だ。ヒツジが運営しているのだろうか。

「どうぞお掛け下さい」

 メガネをかけたおじさんと言う感じだ。

「担当させていただきますヒツジのツツジと申します。さて、今回ご利用は初めてですか?」

「初めてです。先程転生したばかりで、とりあえずここに来るように促されました」

「あー、フォルスター氏のご紹介者様ですね」

「あれ、伺ってましたか?」


「転生者サポーターと、ここ職業安定所は提携をしていましてね。転生者制度はご存知かと思いますが、ここがスタートラインになるのです」

「ふむふむ」

「青山佑人様ですね。前職はどういった職種を?」

 現職なんだけどな……でも死んだからもう在籍していないのか。

「業務用の酒屋で発注業務を行っていました」

 まぁ現実世界での経験を活かすには、同じ職種でスキルを発揮するのが一番だよね。新たにやりたい職種なんて特にないし。


「そうでしたか。この世界にも飲食店は多数ありますので、卸す業者はありますでしょう」

 ちょっとお待ちください、と言うと大きな冊子を開き、職種一覧から調べ始めているようだった。

 アナログか!

 飲食店を経営しているならば、自社で製造していない限り、卸会社があるはずだ。

 食材、飲料、調味料、食器、箸やフォーク、スプーン、おしぼりは当然のことながら、冷蔵庫や電気、ガス、水道……様々な業者が介入している。


「青山様、どうやら登録している会社はないようです」

「え!? もしかして、この国には卸という概念が存在しないのですか?」

「いえ、卸はございます。恐らくですが、職安に登録していないのでしょう」

 ああ、そういうことか。

 現実世界でも色々な求人や転職サイトがあるし、それと一緒で手数料が発生するから登録しない会社があるのかな。


「ちなみにですが、就職に関する情報や紹介ができるのはここだけでしょうか?」

「ここだけですね」

 やはり。これは自力で探すしかないのか。厄介だな……。

「わかりました。とりあえず、今回は希望職種があるので実際に飲食店に行って聞いてみます」

 これが一番手っ取り早く、1週間という期限に間に合わせる最善策だ。

「ご助力できず申し訳ございません」

「とんでもないです! 仕組みがわかっただけでも助かりました」

「ご不明な点や就職に関する不安などございましたら、またお越しください」

「ありがとうございます!」


 俺は職安を後にすると、フォルスターからもらった地図を片手に飲食店を探すことにした。

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