4-短編
那住錆
ドクトリン-裏
世に埋もれる場所へ踏み込めば、上空から耳をつんざく音が聞こえ、散り散りに四散する。嘔吐きそうな酸っぱい臭いが充満している暗い廊下を、カンテラに導かれながら先に進めば、目的の部屋へと辿り着く。
青年が看守から受け取った鍵で扉を開けると、急所を晒し四肢を縄で縛り付けられ、四方へと皮膚を引っ張り上げられた、全裸の吊るされた男が出迎える。その男は、充血し切った濁った瞳を大きくそれでいて鈍く開き、側に近づく青年に蔑視の視線を向ける。
舌を縄で挟まれ絶え間なく垂れ流される液体は糸を引き、男が威嚇をすればする程滑稽に映ったのか、青年は薄く口元を緩ませ、男の耳元でご褒美だと囁く。そして、青年は手に持っていた葡萄の皮で作った液体入りの瓶を、男の咽喉へ突き刺す。
男にとって息を吸うには流れてくる液体を飲む干すしかないが、これ幸いと状況に甘んじる。だが、溺れる寸前で瓶を取り上げられ、びしゃりと音をたてて地面へ吐瀉物を垂れ流す。
暫くの間、鼠が死臭を嗅ぎ分ける音だけが部屋に響き、男と青年の心理攻防戦が繰り広げられている。青年は、股間擦れに銃弾を撃たれても口を割らない男に大袈裟に溜息を吐き、斧で太ももから急所に向かって皮を剥いでいく。
尿と血の混じる水浴びで体を洗い流す男に、汚れも気にせずに男の頬を優しく撫で、青年は沈黙を破る。
「どうして泣いてるの?」
今まで男の様子をじっと観察していた”青年”は、悲哀に満ちた声音で状況に似つかわしくない言葉を投げ掛ける。それは、” 壮丁“である男の自尊心を砕くには十分だった。
4-短編 那住錆 @a_nox_b
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