第2話

カケルは王国にある辺境の小さな村に生まれた。

両親の内、父親は人類と魔族との戦争に駆り出され帰ってきておらず、母の手ひとつで育てられていた。しかし女性一人で家庭を守り続けるのには限界があり、カケル自身も母を助けるために村近郊に出没する魔物や動物などを狩り、その毛皮や素材などを売ることでお金を稼いで助けていた。

しかし、小さな少年が狩ることができる魔物や動物にも限度があり、あまり高く売ることは出来ず更には、王国が続けている戦争による増税により元々厳しかった生活はもっと厳しくなっていく一方だった。

カケルの母は生活を支えるために狩りを続け、お金を稼いで来るカケルを見ていつも「ごめんね、楽な生活をさせてあげられなくてごめんね…」とカケルに謝ってくる。

カケルはそんな母にいつも


「大丈夫だよ。いつも働いてくれている母さんにただ俺は恩返しがしたいだけだから。母さんは気にしなくていいし、俺も好きで続けているんだ。だから母さんが気に病むことは何もないし、困ったことがあったらいつでも言って欲しい。」


と、返しカケルの母はそんなカケルを見て涙を目に浮かべながら「ごめんね」少し困ったような微笑みをカケルに向けてと返していていた。


そんな生活を続けているカケルだがその生活に不満は無かった。同じ村に住む2つ年下のハルと同い年であるヒロトが居たからだ。

カケルは2人ととても仲がよく、どんな厳しい生活だろうが、母と仲がいい2人が居ることで大変に感じることはあったが不満、不平を言うことなく生活を続けていた。


そんなある日、王都から村にある通達が来た。


「偉大なる国王陛下は先日、預言者様からある予言を受けた。

『今年12の歳となる平民の少年が、その年が15となる時、聖女やその仲間とともに勇者として王国と魔族との戦争に終止符を打つことになるであろう』と

陛下はこの予言を元に、王国全体から今年12となる平民の少年、その全てに勇者となる資格を与える。そしてその資格を持つ全ての少年を王都へ集め、王直々に勇者となるべきものを選定すると」


その通達を聞いた村人たちはとある方向へと視線を集めることとなった。そしてその視線の先には今年12歳となるヒロトとカケルの姿があった。カケルは表面上では驚いた顔をしていたが内心は驚きよりも嬉しさが上回っていた。それはヒロトも同じのようであった。


「カケル、僕達勇者になれるかもしれない。」


「ああ、俺たちが勇者になって魔族を倒すことが出来れば、力をつけることが出来ればみんなを守れる」


「けど、勇者になれるのは1人みたいだよ」


「だからヒロト。どっちが勇者になれるか競走だ。」


「そうだね、たとえカケルが相手だろうが手加減はしないからね!」


「おう!俺も勇者になるために全力で頑張る!俺らのどっちかが勇者になる時まで競走だ!」


「うん!」


カケルは確かに勇者に対しての憧れもあるがまた別の気持ちの方が大きかった


「ここで俺が勇者になって魔族も魔王も倒すことが出来ればハル達も守れるし、勇者として俺が名をあげて強い魔物や魔族を倒せればその報酬で入るお金で母さんを楽にしてあげれるかもしれない」


カケルは勇者としての資格が自分にも貰えるかもしれないと心をはずませながら母にそのことを報告しに行った。

しかし、母から出た言葉はカケルが思っていたものとはまた別の言葉であった。


「カケルが勇者になるなんてお母さんは許しません。」


カケルは一瞬何を言われたかわからなかった。

母ならカケルが勇者になることに賛成してくれると思っていたからだ。カケルは恐る恐る小さな声で「どうして…」と母に尋ねた。


「勇者なんて危険なものにカケルをさせるなんてお母さんは絶対にしたくない。」


「けど、ここで俺が勇者になって魔物や魔族を倒すことが出来るようになれば、母さんだけじゃなくてたくさんの人たちを救うことができるかもしれない。だから俺は勇者になりに王都へ行きたいだ。王都へ行かせて欲しい母さん。」


「ダメよ。絶対に行くことは許しません。」


「なんで...俺が勇者になるだけでみんなを楽にしてあげられるのになんで!!」


「……」


カケルが母を説得しようと話かけ続けるが母から出てくる言葉は全て反対の言葉しか聞くことが出来なかった。

勇者となることを許してくれない母の姿を見てカケルは母の説得を諦め、1枚の手紙を残して王都へ向かうことに決めた

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