第190話 出会い

 ノルウィン=フォン=エンデンバーグの登場に城内が騒然とする。


「化け物かッ」「これで十歳だと?」


 噂は今日までに聞いていた。各地を巡り、戦地に現れるたびに英雄的な戦果を残す少年の話は、常に社交界の話題の中心であった。


 一部では疑う声が上がるほど圧倒的な武勇。もしそれが本当であれば、一体どれほどの強さを持っていることになるのか。


 その答えが今、彼らの目の前にあった。


「はじめまして、王城の皆々様。我が剣を王女殿下に捧げられるこの日を、心待ちにしておりました」


 膝を折って最敬礼の体勢を取るノルウィン。


 敵意はない。武器も携帯していないのに、十歳の少年がただそこにいるだけで周囲を威圧する。


「これはまた、随分と高めてきたな」


 ガルディアスは成長したノルウィンを推し測るように見つめた。


 発する雰囲気はこの場に集まる師団長を既に超えている。軍団長も幾人かは呑み込まれており、そのスケールは子供どうこうではなく、世界基準で見ても突出したものであった。


 平時の状態でこれなら、本気の貌を見せた時にはどれほどの強さを発揮するのか。


(素晴らしい強さだな。それに加え……)


 ノルウィンが放つ雰囲気、そこに宿る既視感にガルディアスや古い世代の者たちが懐かしむような顔をする。


「この感覚……」


「なんだ、昔に感じたことがあるような……」


「そうか、お前たちはちょうど入れ替わりの世代だったから知らないのか」


「軍団長はご存知なので?」


「知ってるも何も忘れられんよ。俺達の世代は奴が頂点だったのだから」


「やつ?」


「オブライエンだ。ガルディアス大将軍閣下が台頭されるまでは、大将軍は当確と言われていたか」


 中年の軍人と老齢の軍人による会話。その内容の通り、ノルウィンが纏うオーラはどこかオブライエンに似ていた。


 零度の雰囲気。燃え滾るように限界を超えるのではなく、どこまでも冷たく、揺らがず、自らを限界まで研ぎ澄ましている。


 それもまた到達点の一つだろう。ガルディアスらとは登る山脈が違っただけのこと。


(オブライエンと同じだと? これのどこが同じだ。我ら英雄と同質の存在感を纏いつつ、オブライエンが生涯をかけて見出した強さをも宿しているのだぞ。最早我らの時代では計り知れん)


 ガルディアスはノルウィンを通して新時代の到来を感じる。今はまだ経験値の差で勝っているだけ。今がピークの自分たちとこれから伸びる新時代、どちらが未来で

勝っているかなど論ずるまでもないだろう。


 それほど今のノルウィンは突出しているのだ。


 そんな彼の背後には、彼を守るように多くの部下が立ち並んでいた。


 ハイアンが友好の印に貸し出したフランケルや、元オブライエン派である老兵達、さらにはこの2年で増えた新顔。


 一人として雑兵はいない。部下たちが纏い持つ雰囲気は既に一流以上。


 個としての強さ、群れの強さ、群れのボスとしての強さ。ノルウィンは十歳にして大将軍に必要な要素を既に揃えていた。


 彼がそこまで頑張ってきた理由はただ一つ。今日はその願いが報われる日である。


「ッッッッッッッッッ!?!?!?!?」


 それまで平然としていたノルウィンが突如として大きく取り乱す。未だ最敬礼を取る彼の目には、たった今奥の階段から降りてくる一人の少女が映っていた。それ以外は、何も映っていなかった。


 階段を降りる度に揺れる金の長髪。太陽のように眩しい美貌。身に纏う最上級のドレスですら彼女の美しさには釣り合っていない。そもそも神ですら造れないであろう美貌に釣り合うものなど、この世に存在するはずがないのだがーー。


「クレス、たん」


 ようやく、この時がやってきた。

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