第183話 無事の証明
「……か! 大丈夫か!? おい、坊主!」
シュナイゼルの叫び声で意識が覚醒する。どうやら闇に呑まれた後、俺はシュナイゼルに抱き抱えられていたようだ。
「はい、なんとか」
「バッカ、お前心配かけやがって……って、おま、それ、目」
「目?」
シュナイゼルが俺の目を見て驚愕する。それは彼だけではなく、遠巻きにこちらを見るハイアンやガルディアス、オブライエンの部下たちも同じ反応を示した。
あ、そうか。あっちの世界で紅い槍を託された時、目と髪に変化があったんだよな。
そういえば槍はどこにあるんだろうかーーそこまで考えた時、胸の内で何かが激しく燃えていることに気付いた。憎悪、怒り、狂気、殺意。気を抜けば思考を赤黒く塗り潰しそうな怨讐の念、その塊こそあの槍だと悟る。
多分、念じれば手元に出てくるのだろう。直感でそうと分かる。
髪と目の色の変化はそれによるものだろう。
「特になにもないので、たぶん大丈夫だとは思うんですけど……」
「回復術士とアルマイル呼んで来い!」
シュナイゼルが早速部下に指示を飛ばしている。これだけ被害が出たのに俺のためだけに医療班を呼んで良いのだろうか?
ーーって、あれ?
おかしい。シュナイゼルの指示だというのに誰も動かない。
「何やってる!? こいつが死んだらどうなるか分かってねえのか!?」
「分かっていないのは貴様の方だ。シュナイゼル」
シュナイゼルの叫びを冷たく切り捨てたのはハイアンだった。彼は蒼電を纏い、剣をこちらに向けて言葉を続ける。
「テメエ、何のつもりだ?」
「ノルウィンが味方である確証がない。敵ならば斬る他ないだろう?」
「あ?」
「馬鹿め。戦場で情に絆されるとは。それでも大将軍になる男か?」
大将軍。その言葉に現役であるガルディアスが反応する。
「シュナイゼル。悪いが今はその男の言う通りだ」
「閣下まで……」
ガルディアスの言葉にハッとする。今更気が付いたが、この場のほぼ全員が俺に悍ましい化け物を見るような目を向けていた。ガルディアスとハイアンは疑い半分といった所か。
例外はーーオブライエンの部下達が、俺の味方をするようにこちら側に歩み寄って来た。
「お前たち、何を考えている?」
老兵達の動きを見たガルディアスの問い。
「主の遺志はノルウィン様の中に御座います。故に敵味方はどうでもいい。ただそれがある方に我らは付きましょう」
「亡霊共が、揃いも揃って馬鹿しかいないのかアルカディアは」
ハイアンの呆れたため息が戦場に響く。
雰囲気は最悪一歩手前だった。ガルディアスはいつでも俺を殺せるように槍を構え、ハイアンも状況次第では戦える構えを取り、オブライエン派の多数がそれを迎え撃つ体勢。
俺が敵である確証がないから、まだ緊張が爆発していないだけ。何か一つ、僅かでもきっかけがあれば、この場が地獄となるのは間違いない。
どうすればいい? 現状の原因である俺に出来ることはないのだろうか。
皆は俺の状態に疑念を抱いているようだが、当事者である俺は現状問題ないことを何となく悟っていた。
髪と目、それから燃え盛る憎悪の炎こそ抱えたものの、今すぐにどうにかなるモノではないのだ。
ただ、それを周囲に納得して貰うのはかなり大変だろうな。
当事者である俺が言って信じて貰える訳が無い。さあどうすべきかーー
その時だった。
「ほなワイが調べればええんとちゃう?」
狐顔の女魔術師が、目を細めてこの場に乱入してきたのは。
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