第68話 予選終了
それからさらに複数の試合が行われたが、勝ち上がった中にこれはという選手はいなかった。
本選で気を付けるべきはルーシー、サラスヴァティ、レイモンド、リーゼロッテの四人で、特にヤバイのがルーシーとリーゼロッテ。この二人は魔術を用いた戦闘でも普通に負けられる。
少し対策が必要かな。
まあルーシー相手じゃ何をしても勝ち目なんて無いんだけどさ。
俺に出来るのはトーナメントの初期に当たらないことを祈ることだけだろう。
アルマイルが俺の対戦相手を弱くなるよう操作するらしいけど、それもどこまで信用できるか分からないし。
武術大会幼少の部の予選が終わり、闘技場を埋め尽くす観客が少しずつ退場していく。
既に王族達は去っており、貴賓席の貴族達も次々に立ち上がっては移動を開始する。
残っているのは余韻に浸る者や知り合い同士で今日の試合を熱く語り合う者たち、それから場をわきまえずに商談などをする一部の者だけ。
俺達もそろそろ帰るべきかな。
「お坊っちゃま。お迎えに上がりました」
「あ、執事さんだ」
談笑に加わっていたレイモンドが笑顔を浮かべて立ち上がる。
「お迎えか?」
「うん。パパとママは忙しいから、いつもあの人に色々して貰ってるの」
「そっか。じゃ、また今度だな。本選だから二日後か?」
「そうだね!またねノルウィン君。あと、サラスヴァティさんとルーシーさんも」
「また今度ね」
「······またこんど」
レイモンドも帰宅していき、いよいよ人が少なくなってきた貴賓席。俺達はシュナイゼルの迎えを待ちつつ談笑を続ける。
「いやぁ、にしても今日は疲れたな」
「ホント楽しかったけど、これが毎日は疲れるわ。たまにでいいわね」
「······私は、毎日でもいい」
「出店で買い食いできるからだろ」
「······それも、ある。けど、色んな人の、剣を見れた。よさそうなのは、あんまり、なかったけど」
「ああ、そっちか。確かに見てて面白かったよな。参考になるかは微妙なところだけどさ。俺槍だし」
槍に落とし込めそうな動きはメモしながら試合観戦をしていたが、同じ剣を扱う分ルーシーはより真剣に見ていたのかもな。
「······サラスは、どうだった?」
「そうねぇ」
ルーシーにどうと聞かれて、サラスヴァティは感想を捻り出すために考え込む。しばしの熟考、それから何故かふと俺を見て、僅かに顔を赤くした。
自覚はある。
多分国王陛下を前に大切な人ですとか言ったのを意識されているのだろう。
「照れてる?」
「そんな訳ないでしょう」
「あれ、意外と普通の反応された」
「だって、私が恥ずかしがってるの見たいだけじゃない。絶対になにも言わないわよ」
「じゃあやっぱり意識はしていると」
「あっ、ぅ、うるさい!」
何故だろう。
この暴れ馬のようなお嬢様をからかうのが楽しくてやめられない。
度を越えると暴力が飛んでくるけど、ギリギリを攻めた時の反応の可愛さがクセになるんだよなぁ。
なんだ俺、変態みたいだな。気のせいか。自覚はない。ないったらない。
「······あ、来た」
ルーシーが顔を上げて貴賓席の出入口を見た。遅れて俺も近付いてくる巨大な存在感に気付く。
今日、多くの強者を見た。リーゼロッテのような選ばれし存在も目にした。
だからこそより目立つ圧倒的な頂点。大人と子供、その差は勿論あるだろう。しかし俺達が成長した時に、この怪物に追い付けている想像がつかない。
「よお」
ようやく迎えに現れたシュナイゼルは、片手を上げてこちらに手を振った。
随分と格好いい登場だが―――
「パパ遅い!」
「······おかげで、お腹空いた。はやく」
早速娘二人にどやされてがっくりと肩を下げる。次の時代の最強も娘の前では形無しだ。
「悪い悪い。一応俺って運営側だから、色々と仕事が残ってたんだわ」
「そういえばガルディアス大将軍と一緒にいましたもんね」
「そういうこった。取り敢えず帰るぞ。あと、まあ、なんだ」
ポリポリと頭をかいたシュナイゼルは、どこか言いにくそうな顔で口を開く。
「本選出場おめでとうな。お前らの試合、全部見てたぜ。最高だった」
ああもう、この不器用パパったら。
仕事で家族の時間が取れない分、こういう時に引け腰になるんだから。
まあ、二人が嬉しそうに笑ってるからいいか。
―――そんなこんなで、取り敢えず予選は無事に終えることが出来たのだった。
――――――――――――――
明らかにウルゴール邪教団の構成員やろって子供が前にちろっと出てきました。ノルウィンが強いと思った中に彼がいないのは、暗躍する奴が目立つのはおかしいってことで実力を隠しているからです。ちゃんと本選に残ってます(ネタバレにならないネタバレ)
今日はあと一話更新頑張ります。
ではでは~
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