第65話 まさかの再会
「勝ったわ!私も勝ったわよ!」
試合を終えて貴賓席に戻ってきたサラスヴァティが、満面の笑みを浮かべてこちらに走ってきた。
「おめでとうございます」
「なによ、全然驚いてないじゃない!」
「そりゃ、サラスヴァティ様が勝てるって信じてましたから」
「ふふ、それなら許すわ。ねえルーシー!あなたも見てたでしょう?私勝ったわ!」
本当に嬉しくて堪らないのだろう。
サラスヴァティは普段では絶対に見られないほど興奮しているようであった。
「······み、見てた。ちょ、止まって。お肉が喉に、詰まるっ」
「あ、嘘!?」
「こんな時まで食い意地張ってるからだぞ」
「······でも、動くと、お腹減るし」
「ノルウィンはルーシーに厳しすぎるのよ!ねえ、あなたもそう思うでしょう?」
ご機嫌な勢いでサラスヴァティはヴァーゼル(シュナイゼルの副官。今は俺らの護衛任務中)にまで話し掛けた。
「そうですね。私もそう思います」
「ほら言ったじゃない。二対一で私たちの勝ちね!」
「はいはい、分かりましたよ。俺の負けです」
ご機嫌なサラスヴァティも可愛くって、今なら何を言われてもこっちまで気分がよくなってしまう。
無事に全員予選を突破できたわけだし、これでひと安心って訳だ。
「あ、ノルウィン君!」
三人で談笑していると、サラスヴァティから少し遅れて貴賓席にやって来たレイモンドが俺に手を振った。
歴史のある侯爵家の長男。彼はとんでもなく高位な存在な訳だけど、まだ六歳ではその認識も薄いらしい。
俺のような木っ端の貴族に懐き、ダッシュでこちらに向かって来る。
「み、見てましたか?僕、勝ったんですけど······」
「見てたよ。レイモンド凄い強いんだな」
「あ、えへへ。そうかなぁ」
「そうそう。あと、俺に敬語なんて使わなくていいよ。俺達友達だろ?」
「本当にっ?そっか、僕たちトモダチかぁ。トモダチ、トモダチ」
アルクエでのレイモンドは、ストーリー開始時点ですら友達がいなかった。
まだ幼い彼は俺の言葉に心底驚き、本当に嬉しそうにトモダチという言葉を噛み締めていた。
なんていうか、子供って純粋だから騙しやすくて罪悪感がやばいな。
ちゃんと友達になろうとするレイモンドと比べて、俺には打算があるわけだし。
ま、まあこれも全てクレスたんの未来のためなのだ!
既にサラスヴァティとルーシーは俺の仲間だし、ここにレイモンドが仲間になってくれたら心強いんだけどなぁ!
「あ、そうだ。こ、これなんだけど―――あっ」
レイモンドが握り締めていた手紙を俺に渡そうとして顔を歪める。ここまで掴んで走ってきたのか、グシャグシャになっているそれを俺に渡すのが失礼だと思ったらしい。
「どうしたの?それなに?」
だから安心させるように笑い掛け、俺は優しく先を促した。
「ぁ、えっと、さっきママとパパにね、友達ができたって言ったんだ。そしたら、ママもパパも喜んでて、それで、今度お食事に誘ったらどうって言ってて、これ、えーと」
要するにお食事会の誘いって訳か。
末長く仲良くしたい俺としては願ったり叶ったりなイベントだな。
「いいの!?じゃあ今度レイモンドの家行くよ!サラスヴァティ様とルーシーも呼んでいいかな?」
「うん!二人さえ良ければだけど、どう?」
「まあ、私はいいわよ」
「······私は行きたい」
「やけに積極的だな」
食い気味のルーシーに突っ込みを入れると、天才少女はまたもや食い気味に答えた。
「······だって、ごちそうあるし」
「食い意地張りすぎだろ」
「······否定はしない。でもチャンス」
ルーシーの言葉にそんなもんかと納得して向き直ると、レイモンドは俺とサラスヴァティ、そしてルーシーを交互に見つめては、不思議そうに首を傾げていた。
「どしたの?」
「ぁ、その、サラスヴァティ様?には敬語なのに、そっちの人には仲良さそうに話してたから、どうしてかなって」
「あー」
そういえばそうだなぁ。
出会った瞬間から敬語で、それを今日まで継続してたからなぁ。
特に他意はないんだけど―――
ん?
妙に視線を感じて振り向くと、横でサラスヴァティが俺を睨み付けていた。
「な、なんですかね?」
「そういえばそうよ。何で私にだけ敬語なのよ。未だにサラスヴァティ様って呼ぶし。ルーシーはルーシーって言ってるじゃない」
「えーっと、じゃあサラス?」
「ッ」
「いや顔赤くして恥ずかしがるならそんな要求してこないでいいじゃないですか」
「うるさいわね!これからはサラスって呼びなさい!ルーシーだけずるいし、その方が話しやすいでしょ!敬語もなし!」
「分かったよサラス」
「ぁ、う。や、やっぱなし!」
「分かりましたサラス」
「~~~ッ!!うるさい馬鹿!」
顔を赤くしたまま、サラスヴァティはドシドシと俺から逃げるように歩いていってしまった。
「······ノルウィン、楽しんでる?」
「ちょっと、いやかなり楽しかった」
「ぇ、ノルウィン君、いまのが楽しかったの?」
「まあね。そろそろ座って次の試合でも見るか」
多分放っておけばサラスヴァティは戻ってくるので、俺達三人はそのまま横並びになって席に着いた。
そうしてしばらくは談笑していたのだが―――突然周囲が騒がしくなる。
「なんだろ」
周囲を見渡すと、貴族達が皆同じ方向を見て、そして全員が立ち上がって貴族の礼を取った。
なんだなんだ?俺もやった方がいいのか?
慌てて周囲に倣って礼をとる。ヌボーッとしたままのルーシーの頭を軽くはたき、突然の変化に狼狽えてなにも出来ずに固まるレイモンドの背中をつつき、二人にも急いで礼を取らせた。
「······なに?」
「いや、分からんけど―――」
そう答える途中、俺の視界を焼くほどの強烈な輝きが見えた。
いや、それは輝きではない。輝きに錯覚してしまうほど圧倒的な存在感だ。
シュナイゼルやハイアン、ガルディアスのような重厚感はない。あれは戦士特有のそれなんだろう。
今見えているこれは、もっと高貴な、ただひたすらに輝かしいオーラだ。
「皆の者、顔を上げたまえ」
多くの護衛を従えて現れた集団。その中心に立つのは、頭に王冠を被った初老の男性であった。
きっと彼が王なのだろう。とてつもない輝きを感じさせる彼は紛れもなく傑物で、ベクトルは違えど頂点に近い存在感があった。
だが、俺の目を奪ったのはそんなくそどうでもいいメッキみてぇな目に悪いチカチカする奴じゃない。
なんだよ。勝手に人の視界に入って光るとか。害虫か?蛍のほうが無害な分綺麗だぞ。
って、話がそれた。
俺は、集団の後方に隠れるようにして立つ少女、クレセンシアから目が離せなくなっていた。
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