第66話 国王との一幕
数多の護衛を引き連れて現れた王族。その最後尾に隠れる少女こそ、俺がこの世界で最も愛するクレセンシアだ。
輝く金の髪、愛らしい顔、華奢な身体。俺の好みド真ん中を撃ち抜く容姿は、一月前に見た時と同じく誰よりも美しい。
やっぱり好きだなぁ。
例えるなら太陽に照らされるようなもの。クレセンシアが身に纏う圧倒的な輝きが優しく心を満たしてくれる。
シュナイゼルやハイアンと同レベルの圧を纏う国王陛下がいて、しかしそれよりも目を引くのがクレセンシアなのだから、彼女が生まれ持った素質には驚きしかない。
この場の全員が立場上の関係で国王陛下にへりくだりながらも、視線はクレセンシアに向かっていた。
「政務が予定より早く終わったので試合の様子を見に来ただけだ。我らを気にすることなく、普通にしていると良い」
国王陛下は全体にそう言い渡すと、今まで誰も座らずに空席となっていた貴賓席の最上段に腰を下ろした。
それに続いてクレセンシアを含めた残りの王族も次々に座っていく。
この間、まだ俺達は礼を維持したままであった。誰もくつろがない。誰も騒がない。ひたすら王を立てるようにへりくだり―――
「ちょっとノルウィン!何で追いかけてこない、の、よ―――」
突如として静寂を割く声が聞こえた。それはさっき俺にからかわれてどこかへ走り去って行ったサラスヴァティのもので、最初は大きく響き、そこから尻すぼみになっていく。
「ぁ、うそっ、どうしよ」
王族が来たことを知らなかったサラスヴァティは、すぐに自らの失態を悟って顔を真っ青にして立ち尽くした。
場は凍り付いていた。
貴族達が何やら口走り、護衛は鋭い視線をサラスヴァティに向けている。
不味い。不味い。
俺がクレセンシアに非礼を働いた時ですら護衛が剣を抜いたのだ。
今ここにいるのはこの国で最も偉い存在。もし気の短い奴が王族サイドにいたら、本当に打ち首になるかもしれない。
考えるより先に身体が動いていた。
走り出してサラスヴァティを庇うように立ち、必死に脳みそを働かせて絞り出した言葉を叫ぶ。
「まだ礼を知らない子供なのです!何卒、なにとぞご容赦を!」
俺一人が何かを言って覆る事態とも思えないし、クレセンシアを含む王族への不敬を働いたサラスヴァティを庇うなど馬鹿の極み。クレセンシアの護衛になりたい俺が、なんで王族に歯向かうような真似をしているのか。
もしかしたら、クレセンシアよりも、サラスヴァティの方が大切なのかもな。
「よい。待て」
動き出した護衛を言葉で引き留め、国王がゆっくりとこちらに歩いてくる。
近付くほどに増す重圧。何故かいま護衛を止めたが、彼の意思一つで俺とサラスヴァティの首がまとめて飛ぶのだ。
そう思うと恐怖しかない。
「少年、名は何と言う?直答でよいぞ」
「ノルウィン=フォン=エンデンバーグと申します」
「何故そこの小娘を庇った?それがどのような意味を持つかは理解しておるのか?」
「理解した上での行動でございます。理由は、大切な人だからです」
「······ふむ。そうか。ならよい。別に罪に問う気もないのでな」
「ぇ?」
思わず聞き返すと、国王は少しだけおどけた様子で口を開いた。
「アルマイルやシュナイゼルからそなたの話はよく聞いておる。どのような人物か気になったから少しだけ試したのだ。なに、随分と真っ直ぐで心地よい少年ではないか。次の試合も励めよ」
え?え?あれ?
なんか俺褒められた?
重圧から解放され、どっと冷や汗をかきながら深呼吸を繰り返す。
王が許すと言ったため、護衛達も剣を収めてもとの立ち位置に戻っていった。
どうやら本当に許されたようだ。
いや、え、なんで?
「さ、サラス。取り敢えず座りましょうか」
「······ぅん」
サラスヴァティの手を取ってルーシー達の方へ戻る。ちらりと見えた俺のペアの顔は、少しだけ赤いような気がした。
―――――――――――――――――
あと数話で予選が終わり、本線に移行していきます。
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