第35話 交渉開始!
カイネと手を組み、ウルゴール邪教団の手先を倒す。
その目標を掲げた俺は、早速作戦会議に移ったのだが―――
「しばらくは逃げ回って、少しずつ味方を増やしていこうと思うんです」
開口一番、そう口にするカイネに、思わず言葉を失う。
いやまあ理屈は分かる。
相手に対してこちらの戦力はあまりにも心許なく、まずは準備期間が必要なのだろう。
しかし、あまり悠長にしている暇はないのだ。
ウルゴール邪教団の目的は、ほぼ間違いなくクレセンシアだろう。
奴らが大掛かりな作戦を実行するとしたら、王女と接触出来るチャンスがある一ヶ月後まで。
つまり、それが俺たちにとってのタイムリミットである。
ただ、この推測はアルクエの知識があって始めて成り立つもの。
それを知らぬ者たちにそのまま伝えることは出来ないから、俺は仕方なく嘘をつくことにした。
「多分、そんなのんびりした作戦じゃ間に合わないと思います」
「小僧、若様のご意見を何だと思っておる!」
「まあまあ爺や、こんな聡明な子が、意味もなく否定をするとは思えないよ。一旦話を聞いてみよう。ボクたちはもう仲間でしょう?」
「む、むぅ」
俺のことは警戒してるけど、主であるカイネには逆らえずに黙り込む爺や。
俺的には面倒な相手だが、こういう疑り深い人間は組織に一人は必要だろう。
トップがカイネのように人情深いタイプである場合は尚更そう。
心強い存在だ。
「ノルウィン。ボクの作戦がダメな理由を教えてくれませんか?」
「あの、俺が奴らに連れ去られたって話はしたじゃないですか」
「はい」
「その時に会話を盗み聞きしたんですけど、奴ら、一ヶ月後を期限に何か大きな事をしでかすつもりみたいなんです」
「それは、聞き間違いでは無いんですよね?」
「はい。確かに聞きました。その内容までは把握できませんでしたが、奴らの企みなんてろくな物ではないでしょう。それを達成させる前に、確実に潰しておくべきだと思います」
「······なるほど。困ったね。もしかしたら裏社会をさらに引っ掻き回すような事を考えているかもしれないし」
思案顔で黙り込むカイネ。
一向に打開策が見つからないのか、いつまで待っても口を開く気配がない。
「若様、無理をして短期決戦に挑んではなりませんぞ」
「そうだね。皆の安全を第一に考えるならそうだ。でも奴らの出方次第では、その安全すら失われる可能性がある」
なんというか、俺の嘘で作戦が変更されるのは申し訳ないな。
まあ、一ヶ月後の動き次第でこちらにまで危険が及ぶのは本当だから、提案したこと事態は悪くないと思うけどさ。
しばらく俺たち三人で意見を出しあってみたが、これといった案は浮かばなかった。
カイネ曰く、現在確認出来ている白仮面の男は全部で六人。
そしてほぼ確実にそれ以上の人数がいると思われる。
今の俺たちに、それだけの相手と戦う戦力は無いのだ。
シュナイゼルの助けを待つという選択肢もあるが、俺がウルゴール邪教団に狙われている現状で、いつ来るかも分からない助けに縋る訳にはいかない。
最強の力なく、自らを守る手段が必要だ。
「俺たちだけで勝てないなら、協力を募るっていうのはどうですか?」
だから試しにそう提案してみると、二人とも否定的な表情を浮かべた。
「それくらい考えたがな、無理なのだ。最大規模を誇った組織が潰された事で、残った者の多くは反抗心を失いおった」
「多くは?じゃあ、まだ抗う意思がある連中もいるんですよね」
「あるにはあるが、私達とは敵対関係にあった組織なのだ。既に共闘の依頼は出したが、『滅んだ貴様らがどうやって俺と並び立つ?交渉ならまともなカードを揃えてから来い』と断られた」
「でしたら、もう一度行きましょう」
「話を聞いておらんかったのか?私はいま―――」
「聞いた上でです。今、こっちには俺がいます」
「小僧一人に何が出来る!?」
多分、なんだって出来るぞ。
「これじゃダメですかね。俺たちと組めば――――」
俺は、俺が持つカード全てを二人に説明した。
「それなら、多分大丈夫、ですかね?」
「た、確かにそれだけの利点があれば、いかに奴らとて無視は出来まい」
俺の話を聞いた二人が納得する。
こうして、俺たちはカイネたちと敵対していた組織に協力を募ることとなった。
⚪️
カイネパパの組織と敵対していた裏社会組織、《アンノウン》。
カイネパパの組織が潰された今、最も裏社会の覇権に近付いている連中だという。
俺たち三人は、そんな組織の中核に訪れていた(この間、子供達はもう一人の戦闘員と共に隠れている)。
これまで俺が見てきた裏社会は廃墟同然の光景ばかりだったが、アンノウンの本拠地に近付くに連れて道は整備され、建物も頑丈な物が増えていく。
人手と金に余裕を感じる光景だ。
最悪の治安を誇る裏社会でこれだけの街並みを維持できるなら、確かに強力な連中なのだろう。
「爺やさん爺やさん」
「貴様が私を爺やと呼ぶな。殺すぞ」
「ちょっと爺や!」
「ぐっ」
緊張をほぐすために爺やで軽く遊びつつ、俺は本題の質問を投げ掛ける。
「アンノウンって、裏社会トップではなかったんですよね?なんで奴らに潰されてないんですか?力ある組織は全部潰しておくべきだと思うんですけど」
「それは、我らとアンノウンの方針の違い故であろうな」
俺を睨み付けながらも、カイネの手前質問に答えなければならない爺や。
正直この人の不憫さが堪らない。
「方針、ですか」
「そうだ。若様のお父上、私にとっての主であったヨーグ様は、実力があれば誰でも引き入れるお方であったのだ。それが組織の繁栄に繋がったのは間違いないのだろうが······」
「最終的には、仮面の連中を招き入れてしまったと」
「そうだ。外部の連中に頭を取られるほど私達は無能ではない。だが、内部からの暗殺までは······いや、結果的に主を討たれたのでは無能か」
いつかの時を悔やむような顔で、爺やは言葉を繋げる。
「すまない。話が逸れたな。ヨーグ様と比べ、アンノウンの首領であるハイアンは疑り深い人間なのだ。よほど信頼出来る者以外は遠ざけ、絶対に己には近付けないと言われておる。故に組織の規模は小さいが、その分少数精鋭で個人の能力は我らにも優るだろうよ」
なるほど。カイネパパの組織はそうして滅び、一方で敵に入り込む隙を与えないアンノウンは、今もこうして健在であると。
はぁ。
俺、そんな疑り深い人間に共闘しましょうって言いに行くの?
⚪️
その後、ヨーグの娘であるカイネが来たということで、一応はアンノウンのトップと面会することが許された。
とはいえ疑り深いという前評判通り、俺たちはあらゆる武装を解除し、その上周囲を帯剣したアンノウンメンバーで固められるという、万全の警備を置かれた状況でだが。
本拠地の中心にあった最も大きな建物に案内され、俺たちはその中に足を踏み入れる。
そこにいたのは―――
「ヨーグの娘とそのお守りが、今さら俺様に何の用だ?」
豪奢な椅子に座り、肘をつきながら俺たちを見下ろす青髪の男、ハイアン。発する言葉や雰囲気に、ニコラスやシュナイゼルと同種と圧を感じる。
―――武力と智力のどちらかは知らないが、こいつはマジモンの化け物ってわけだ。
そんな化け物は、俺たちと数十メートルの距離を空けた場所にいた。
ご丁寧に魔術の対策までしてあるのか、彼の周囲にはローブを纏った魔術師が護衛のように付き従っている。
「こ、今回は、ハイアン様のご助力を頂こうと―――」
「それは以前断ったはずだが?貴様らと組む事で俺にどんなメリットがある?」
冷徹な視線できっぱりと断るハイアン。その様子に口を開いた爺やは顔面蒼白になっていた。
ニコラスやシュナイゼルと似た雰囲気を持つ化け物の圧を一身に受け、耐えるので精一杯なのだろう。
横を見ればカイネも言葉を失っている様子。
シュナイゼルでこの圧に慣れている俺が話すしかないようだ。
「私ならば、ハイアン様に利益をもたらす事が出来ます」
「ほう。先程あの仮面の連中と戦っていたガキか。名はノルウィン。エンデンバーグ家に生まれ、最近はかの《暴剣》シュナイゼルの弟子になったと聞くが。そんなお前が、俺にどう利する?」
たった数時間で、全てを調べられている!?
どうやって?流石に、いかなる情報網があろうとも、この時間じゃ物理的に不可能だろう!?
いや、魔術があれば可能か?
ああもう、今はどっちでもいい。
こいつが化け物なのは今のだけでも身に染みて感じた。
俺は、こいつを納得させるだけの材料を吐き出すしかないのだ!
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