第6話 SF桃太郎

 権兵衛さんはいつも通り茂吉どんとの密会をしていた。権兵衛さんは茂吉どんに語り出した。

「この時代、おら達に子どもは授からないかも知れない。けれども、お天道様が登って、また登ってを何度も繰り返して、年老いた男女でも、女子同士でも、男同士でも子どもが授かれる時代がやって来たら、その時代におら達二人は生まれ変わるだ。そして、子どもを授かったら名前は太郎にしよう。太郎は親が二人とも男だから誰にも負けない強い子どものはずだ。太郎はでっかい桃に乗って時間の川を遡って昔に行くんだ。おら達の仲を引き裂く様な人の心に巣くう鬼が現れる遙か昔に行くんだ。太郎の世話は今時の若い

もんには任せられん。おらの両親ぐらいでないとあかんな。むかし、むかし、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。すると時間の川を遡った太郎の大きな桃がどんぶらことお婆さんのもとに流れてくるだ。お婆さんは桃を家へ持ち帰って、お爺さんとお婆さんは太郎を育てるだ。青年に育った太郎は鬼を退治する為にお婆さんの作った黍団子を腰に付けて旅に出るのだ。本当の親のおら達は太郎を守る人間の言葉を話せるきじ、猿と犬を太郎の生きる時代に送るんだ。太郎を見分けるのは腰に付けた黍団子なのだ。太郎が旅をしているときじが現れて、『お腰に付けた黍団子一つ私に下さいな』と人間の言葉で話しかけるのだ。太郎は、『あげましょう。あげましょう。これから鬼の征伐について来るならあげましょう。』と黍団子一つきじに渡して、きじを家来にするのだ。旅を続ける太郎の前に猿が現れて、『お腰に付けた黍団子一つ私に下さいな』と人間の言葉で話しかけるのだ。太郎は、『あげましょう。あげましょう。これから鬼の征伐について来るならあげましょう。』と黍団子一つ猿に渡して、猿を家来にするのだ。更に旅を続けると犬が現れて、『お腰に付けた黍団子一つ私に下さいな』と人間の言葉で話しかけるのだ。太郎は、『あげましょう。あげましょう。これから鬼の征伐について来るならあげましょう。』と黍団子一つ犬に渡して、犬を家来にするのだ。鬼退治の為に時の川を遡って昔にやって来た太郎達が鬼に負けるわけ無い。人間の心に鬼のいない良き今の時代が訪れるだ。」

「そうだな、おら達の子なら、今の時代を変えられるな。」

二人の永遠の愛を確認しながら、茂吉どんが言った。

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新解釈SF桃太郎 渡邉 峰始 @T-Watanabe2021

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