<共通ルート ルシアルート> 六章オルドラ国での決戦

 オルドラ国宮殿の別館まで転移魔法を使いやってくると、宮殿の方が騒然としているのが分かった。


「まさか、もうすでに女王が攻め込んできたとか?」


「とにかく敵がいるかもしれないから慎重に宮殿まで向かうぞ」


私の言葉にフレンさんが言うと私達は慎重に足を進め宮殿の入口へと向かう。


「兵士がいないな」


「戦争が起こるということは国王陛下により召集されている可能性がある。俺がまず様子を見てくるからお前達はここで待っていろ」


フレンさんの言葉にルシアさんがいうと私達は草むらに身を隠しながら彼の帰りを待つこととなる。


「もし、すでに城を占領されていたとなると、女王の下に向かうには細心の注意を払いながら行かないといけないだろう」


「もしそうだとしたらルシアさん一人で大丈夫なのかな?」


「大丈夫だ。もし仮に敵に見つかったとしてもあいつなら上手く立ち回れるさ」


フレンさんの言葉に私は心配になり言う。すると彼が安心させるように話して聞かせた。そうね、ルシアさんは頭がいいからきっと大丈夫よね。


そうこうしているうちに様子を見に行っていたルシアさんが戻って来ると、周囲に人がいないことを確認しこちらへと近寄って来る。


「宮殿はすでに敵の手の中に落ちている。国王陛下は捕らえられ牢に入れられたそうだ。城で働いている者は皆ザールブルブ国に掌握され女王の命を聞かなければ罪人として罰せられると脅されているそうだ」


「すでに城は女王の手の中にあるのか……急いで女王を何とかしないと国王陛下の命が危ない」


ルシアさんの言葉にフレンさんが深刻な顔で言う。話の内容が難しくてよく分からなかったけれど、窮地に立たされているということだけは分かった。


「俺の信頼できる部下から女王は玉座の間にいると情報を得た。そこを目指すぞ」


私達は急ぎ足で玉座の間へと向かう。


「待て、兵がいる」


「あれは……俺が話をしてくる。お前達はここで待て」


途中で巡回中の兵士の姿を見たフレンさんが足を止め壁の裏に隠れた。兵の姿を見たルシアさんが言うと彼等の方へと歩いていく。何をする気なんだろう?


「だ、誰だ?」


「待て、俺だ。……俺が城を開けている間に大変な事になったようだな」


兵士が慌てて槍を向けて警戒する。そんな彼へとルシアさんが声をかけた。


「ルシアさん。姿が見えないので心配していたんですよ。てっきり国王様と同じでとらえられてしまったのではないかと」


「別の用事で外に出かけていた。それより、城に戻ってきたら様子がおかしいようだが、これは一体どういうことだ?」


兵士が安心した顔で警戒を解くと親し気に話しかけてくる。どうやらあの兵士達はルシアさんとは仲が良いようだ。


「実は、どういうわけか分からないのですが、ザールブルブ国の王子が行方知れずとなったのは我が国の陰謀だとして友好関係を破棄し我が国と戦争を起こすと言ってきたんです。それで国王は民を守る為捕虜となり牢へ。今や城はザールブルブの女王様の支柱にあります。我々もいうことを聞かないと牢屋送りだと言われて」


「そうか。それで、何でお前達はこんなところを巡回している?」


「それがよく分からないのですが、フレン王子が生きていてこの城へとやってくるかもしれないから見つけ次第捕まえろと命を受けていて、こうして城の中を巡回しているんです」


「よく分かった。フレン王子も罪人に仕立て上げるつもりなのだろう」


「ルシアさんこのままでは貴方も女王様につかまってしまいます。今のうちにお逃げください」


「いや、今の話を聞いてなおさら理由を説明してもらわねばならなくなった。女王様は今どちらにおいでだ」


「まだ玉座にいらっしゃると思います」


「そうか。そこを守っている兵士はザールブルブ国の者か?」


「いえ、それが玉座には兵士は誰も近づくなと言われていて女王の側には魔法使いのカーネルとザールブルブの王国騎士団隊長のベルシリオしかいません」


「そうか、有り難う。お前達は怪しまれないよう仕事に戻れ。それと、俺と会ったことは誰にも言うな」


「はい。ルシアさんもお気をつけて」


ルシアさんと兵士達の話し合いは終わったようで彼がこちらへと戻って来る。


「今の話し聞いていたな。女王のいる場所に見張りの兵士がいないなら忍び込みやすいだろう」


「あぁ。兵士に見つからないよう玉座の間の近くまで転移陣を使い移動しよう。そこからなら問題なく女王の下まで行けるだろう」


私達は頷くと転移陣を使い玉座の間の近くまでやって来た。本当に兵士の姿はなく私達は扉の前へと立つ。


「お母様今、何とおっしゃいましたか?」


「ですから、フレンではなく貴方が新たなザールブルブ国の王となるのです。そう言ったのですよ」


「お兄様が生きているかもしれないのに、そんなことできません」


中から女性と少年の声が聞こえてきて私達は聞き耳を立てる。


「フレンの事はもう諦めなさい。必死の捜索をしたにもかかわらず見つからないのです。生きているはずはありません」


「でも……」


「女王様。探知魔法に反応が、何者かがこの城に潜入したようです」


中から聞こえてきた声に私達は頷き合う。見つかって捕まってしまう前に乗り込んでしまおう。フレンさん達の目はそう言っているように感じた。


「女王、そこまでだ!」


「「「「!?」」」」


声高々にフレンさんが宣言すると中にいた人達が驚いてこちらを見やる。


「お兄様……」


「探知魔法に反応していたのは貴方達ですか」


嬉しそうに顔をほころばせる少年の横に立つ女王がそう言って冷たい眼差しを私達に向けた。


「俺の命を狙いそれを罪なきオルドラ国の王に被せようとは、一国の女王のする事とは思えないな」


「え?」


フレンさんの言葉に少年が驚いて女王を見上げる。


「お母様、今のお話はどういうことですか? お兄様の命を狙ったのがお母様だとは? そんな……」


「アレン!」


女王へと言葉をかけながら一歩ずつ後ずさりをすると急いでフレンさんの側へと駆け寄る。その様子に女王が叫んだ。


「お母様は今までぼくを騙していた。もう、お母様のいうことなんか聞きません。ぼくはお兄様を助けます」


「アレン……なんという愚かな……いいでしょう。私に逆らうというならば貴方にも容赦はしません。あなた達がいなくとも私がこのザールブルブの頂点に立ち女王陛下となり国を護っていけばいいだけですから」


少年の言葉に女王が言うと冷たい眼差しでこちらを睨み付ける。


「実の子どもを平気で殺すというのか。まったくザールブルブの女王は狂っているな」


「お黙りなさい! カーネル、ベルシリオ。あの者達を捕らえよ。翌日見せしめのために処刑するのだ」


ルシアさんの言葉に女王が言うと命令を下す。


「……御意」


「女王陛下の仰せのままに」


カーネルさん達が私達を捕らえようと近寄って来る。


「そう簡単に捕まるほど、俺達はおとなしくない。……フレン、やるぞ」


「あぁ」


「ぼくもお手伝いします」


ルシアさん達が頷き合うとカーネルさん達に向かっていった。きっと戦うつもりなんだ。


私はここから見守る事しかできない。今はただ皆の力を信じて私は両手を強く握りしめた。



「王子二人を相手にすることになるとは……まったく、面倒な事になりましたね」


「貴様、逃げるなよ」


「いやですね。逃げるなんて、そんなことしませんよ。ただ俺は魔法使いですから、貴方ほど強くないので、王子二人を相手に魔法合戦するのは少し厳しいかと思いましてね」


「相変わらず口だけは達者だな。俺に任せて自分だけ楽しようと思うなよ」


何やらカーネルさん達が話し合っているようだがここからでは声が聞こえない。兎に角二人も武器を構えていつでも一戦交える雰囲気となった。


「この二人に時間を駆けている暇はない。一瞬で、片付ける」


「一瞬でって、何か方法があるのか?」


「まぁ、二人とも耳を貸せ……」


ルシアさんが不敵に笑い二人に耳打ちしているけれど、何か良い作戦でもあるのだろうか。頭のいいルシアさんなら秘策を考えているのかもしれないけれど、何をするのか全く分からない。


「王国騎士団の隊長と王宮の魔法使い。お前達が束になってかかってこようが俺達相手に勝算は皆無だ。今のうちに降伏するなら今回の件目をつぶってやろう」


話しを終えると二人とも納得した顔で頷く。ルシアさんが一歩前へと出てくるとカーネルさん達に声をかけた。


「何を言っているのか全く分かりませんね。俺達が貴方方に負けると、そうお考えですか? 王国騎士団の隊長と宮廷魔法使いの長である俺を相手に? いくら王子二人の力を合わせたとしても俺達に勝てるとは思いませんがね。それとも貴方は相当お強いのでしょうか?」


「安心しろ。俺に武力はない。最初から武力で勝とうとは思っていない」


「何?」


カーネルさんの言葉にルシアさんが不敵に笑い言うとベルシリオさんが不思議そうに呟いた。ルシアさん一体何をしようというの?


「俺はただの時間稼ぎだ。まぁ、王子達の力ならばこのくらいの時間があれば簡単に魔法を構成できるだろう」


「っ、まさか!?」


彼の言葉にカーネルさんがはっとした顔で背後にいるフレンさん達を見る。


フレンさん達の手元には魔法陣が現れており、そうして出来上がったそれを発動させた。


「「っ!?」」


部屋中に光が現れるとカーネルさんとベルシリオさんの姿が見る見るうちに小さくなっていく。


「「……」」


光が治まったそこには犬のぬいぐるみに姿を変えられた二人の姿があった。


「動物でもよかったが、俺は動物が嫌いだからな。だが、ぬいぐるみの犬なら平気だ。……さぁ、これで女王貴女だけとなったが、どうするつもりだ?」


「こうなったら仕方ない、あの魔法を使うしかありませんね」


「っ! まさか禁断の古代魔法を発動する気か?」


ルシアさんの言葉に女王がそう言うとフレンさんが叫ぶ。もしかして世界を破壊するほどの力があるという禁断の古代魔法をここで使う気なの?


私達の間に緊張が走る。このまま古代魔法を使われたらこの国も、うんん。もしかしたら本当に世界中が破壊されてしまうかもしれない。罪のない人達が大勢犠牲になるかもしれない……何とかして止めないと。


「っ……俺達が何とかする。フィアナはここから離れろ!」


「ルシアさん? 何とかするって、どうする気なの? 嫌だよ。私最期までルシアさんの側にいる。私だけ逃げるなんて絶対に嫌だ」


ルシアさんが切羽詰まった声で私に話しかけてくる。ルシアさんを置いて逃げろって? そんなことできるはずない。


「こんな時に何言ってるんだ。わがままを言って困らせるな。お前だけでも逃げるんだ」


「嫌だよ。私、ルシアさんと一緒にいる」


私を部屋から追い出そうとする彼に涙ながらに抵抗した。


「ちょっと待った!」


「遅くなってごめんね。何とか間に合ってよかった」


ルキアさんの声が聞こえて来たかと思ったら姉がそう言って駆けこんでくる。


「私封印の魔法を教えてもらったの。今すぐにそれをやるから、だからもう大丈夫よ」


状況がつかめていない私達に姉が言うと踊りながら魔法陣を描き出す。


「これが……封印の魔法? まるで踊ってるみたい」


「えぇ、そうよ。これが昔わたしが見た封印の魔法。その人もこうやって踊りながら魔法陣を描き出していたの。だからティアに協力してもらう必要があったのよ」


私の言葉にいつの間にか側に来ていたヒルダさんがそう言って笑う。


「だけど驚いたぜ。この魔法を知っていてそれを扱ったのがティアとフィアナのお母さんだったなんて」


「え?」


ルキアさんの言葉に私も驚く。お母さんが古代の封印魔法を知っていてそれで世界を護った人だったって?


「フィアナ……アンナさんとルークさんはお前達を守る為にあえて世界中を飛びまわっていたんだ。封印の魔法を扱えるアンナさんは命を狙われていた。だから逃げ回っていたんだ。お前達二人が命を狙われないようにな」


「ルシアさん……そのことを知っていたんですか?」


「王宮で働いていると聞きたくなくても勝手に情報が耳に入って来るからな。その事をご両親から黙っているようにと言われていたんだ。だから、今まで黙っていてすまない」


ルシアさん全ての事を知っていたのね。それでも黙っていたのは私達の事を守る為なんだよね。


「いいえ。そのおかげで私達は今日まで無事に生きてこれたんだもの。今までずっと守ってくれてありがとう」


「フィアナ……」


私の言葉になぜかルシアさんは驚いていたがふっと微笑む。こうして女王の古代魔法発動を阻止すると女王達は牢獄へと捉えられる。


それぞれ罪の重さに応じて処罰を下すとフレンさんは言っていた。こうしてオルドラ国での決戦は幕を閉ざし、ザールブルブにもこの国にも平穏が訪れた。

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