<共通ルート ルシアルート> 五章 忍び寄る魔の手
何時まで経ってもヒルダさんもレオンさんも現れないのでいつの間にか私は眠ってしまい、目が覚めたのは鳥が鳴き始めた早朝だった。
「ん……っ! いけない。寝すぎた」
「フィアナ、おはよう。もう少しゆっくり寝ててもいいんだぞ」
慌てて目を開けると姉を起こさないようにそっとソファーから立ち上がる。フレンさんの姿が無くてもしかして私達が眠っている間に連れ去られてしまったのではと不安になっているとルシアさんに声をかけられた。
「ルシアさんフレンさんは?」
「あいつならずいぶん遅くまで頑張って起きていたが、さすがに体力を温存しておいた方が良いと思って、二階の客室に寝かせた。ルキアと俺で交替しながら部屋に人が侵入しないよう見張っていたから安心しろ」
私の言葉にルシアさんがそう言って聞かせる。兎に角フレンさんは今二階の客室にいるのね。ルシアさんとルキアさん交替しながら見張っていたって言っていたけれど、それってちゃんと睡眠がとれていないんじゃ……
「ルシアさん私が起きてますので、どうぞ少し休んでください」
「徹夜で仕事をする事にはなれているからな、心配しなくても大丈夫だ」
徹夜で仕事する事にも慣れてるって……主幹のお仕事ってそんなに大変なんだ。
「それより少し腹に何か入れたい。簡単な物でいいから何か作ってくれないか?」
「分かった。ちょっと待ってて」
お腹を空かせているらしいルシアさんのために私はキッチンへと向かい朝食を作る。後で部屋を見張ってるルキアさんにも持って行ってあげよう。姉達も起きたら食べるだろうから少し多めに作っておこう。
そうして手際よく調理を開始すると塩コショウで味付けした野菜のスープにベーコンと卵を焼きそれをトーストの上へと乗せる。
そうして調理を終えるとお盆に乗せてルシアさんの下へと持って行く。
「お待たせしました」
「ずいぶんと時間がかかったな……簡単な物でいいといっただろう」
スープを煮込むのに時間がかかったからかな。ルシアさんは少しだけ説教するような口調で言うも私が持ってきたスープとベーコンと卵が乗ったトーストを食べ始める。
「……美味いな」
「ルシアさんそんなに驚かなくてもいいんじゃないの?」
驚いた顔で呟く彼に私は尋ねた。そう言えば私が作った料理を食べるのって初めてなんじゃないかな? 小さい頃は姉が料理を担当していたから私は野菜を切ったりするのを手伝っていただけだったし。ルシアさんが宮廷で仕事するようになってから料理を食べる機会なんてなかったもの。
「いや、すまない。その……フィアナも料理ができるくらい大きくなっていたんだなと思うとなんだか考え深くてな。いつまでも頼りなくて危なっかしい妹だと思っていたんだが……気付かないうちに成長していたんだな」
「ルシアさん?」
寂しそうな顔で私を見てくるルシアさん。どうしたんだろう?
「……フィアナ。お前が初めてこの家に来た時、俺はアンナさんとルークさんからお前の事も守ってやってほしいと頼まれた。自分達は旅をしなくてはいけないから家に残すあの子の事を守ってくれと……フィアナが血のつながりが無くても寂しい思いや悲しい思いをしないように、本当の兄弟のように仲良くしてやってほしいと。今だから正直に言うが、始めはお前の事あまり好きではなかった。なにかあるとすぐに泣くし熱を出すし最終的には動物とお話ができるのだと訳の分からないことを言い出すし……だがな。そんなお前を側で見て守ってやることがアンナさん達の留守の間俺が果たさなくてはいけない義務だと思いずっと守ってきた。……その気持ちが変わった事に気付いたのはいつの事だったか……フィアナはいつまでも世話の焼ける子でいて欲しかった。そうじゃないともう側で守ってやる必要がなくなってしまうからな」
「ルシアさん……」
ルシアさんが寂しそうな顔をしたのは私がいつの間にか一人で何でもできるようになって手がかからなくなり、世話が焼けなくなったから……なのかな。
でもいつまでも世話の焼ける妹でいて欲しいと思っていたんだね。私は、何でもやれるようになれば大人の女性として見てくれるんじゃないかなってちょっぴり期待していた。でも、そうじゃなかった。……やっぱりルシアさんは姉が好きだから私の事は女としては見てはくれないんだね。
「……私ルキアさんの所にご飯持って行かないと」
「フィアナ?」
涙がこぼれそうになる顔を隠すように慌ててキッチンへと戻って行った。
「ルキアさんお疲れ様。朝ごはん持って来たよ」
「お、フィアナありがと……って、どうした? 何でお前そんな顔してんだよ」
何とか悲しい思いを押し込めて気持ちを落ち着かせた私はご飯の乗った盆を持ち二階にいるルキアさんの所へとやって来ると明るい声で話しかけたのだが、一発で泣き顔であることを見抜かれてしまった。流石はルキアさん伊達に幼馴染暦が長いわけではない。
「な、何でもないよ。ちょっと玉ねぎが目に沁みちゃって」
「……ルシアだな。あいつお前が傷つく様な事言ったんだろう。まったく……オレが後で叱っておいてやるよ」
「ほ、本当に何でもないから、気にしないで」
ルキアさんの言葉に私は慌てて声をあげて制した。
「お前が大丈夫って言うなら別にいいけど……でも、あいつお前の気持ちわかってないから、平気で傷つけるようなこと言っちまうんだと思うから、今度そんなことがあった時はオレがガツンと一発言っておいてやるからな」
「もう、ルキアさんそんなことしなくていいってば……」
「朝っぱらから元気だな。……お、いい匂いだ。俺もご飯食べていいか?」
私が慌てて断っていると扉が開かれフレンさんが出てくる。そしてルキアさんの手の内にある朝食を見て私にそう言った。
「うん、待っててください。すぐにお持ちしますので」
「いや、リビングに行くから、そこに持ってきてくれれば――」
「いや、キッチンでいいだろう。持ってくるのも大変だと思うし、食器を下げるのもキッチンなら楽だからな」
「そ、それもそうだな」
私が言うとフレンさんが口を開く。彼が話しているというのにルキアさんが割って入りキッチンでご飯を食べるということになった。
そうしてしばらくすると姉も起きてきて皆でご飯を食べる。その後もいたってなにもない午前を過ごし気がつけば夕方となっていた。
「全然仕掛けてこないね」
「そうだな。だが、油断は大敵だ。気を緩めてしまえば相手の思うつぼかもしれない。だから一応ドアや窓の鍵を閉めに行った方が良いだろう」
姉の言葉にルシアさんがそう話す。私とルシアさんとルキアさんでドアや窓の鍵を閉めに回っている間姉とフレンさんは作戦会議をする準備をする事となった。
「二階の戸締りは終わったよ」
「こちらも終了した。ドアの鍵はルキアにかけてもらいに行っているから問題ないだろう」
私が階段から降りてくると一階の窓の鍵をかけ終えたルシアさんと鉢合わせしたので教える。
「うわっ!」
「今の声はルキアか」
悲鳴が聞こえルシアさんが言うと声が聞こえてきた玄関へと駆けていく。私も慌てて後を追いかけた。
「ルシア、フィアナ。良いところに手伝ってくれ!」
ルキアさんが必死にドアノブを抑えていて状況が呑み込めないまま私達は扉を抑えるのを手伝う。
「どうした?」
「何かあったの?」
悲鳴を聞いて姉達も駆けつけてきた。
「何か分かんないけど、扉の外に大量の小動物が押し寄せてきてるんだよ」
「え?」
ルキアさんの言葉に姉が驚いて目を瞬く。扉を開けようとしているのか動物達が前足でドアをひっかいている音が聞こえる。これ、早く何とかしないと扉がボロボロになるんじゃ……
「俺が何とかする、扉から少し離れてろ」
「「「……」」」
フレンさんの言葉に私達は扉から離れる。そのドアを彼が開け放った途端、イヌやネコやうさぎやイタチありとあらゆる小動物がどっと押し寄せてきた。
「っ!」
フレンさんが右手を掲げると魔法陣が現れ一瞬辺り一面が光に包まれる。次の瞬間動物達はおとなしくなっていてちょこんとお座りしていた。
「どうして動物が押し寄せてきたのかしら?」
姉がおとなしくなった動物達を見ながら首をかしげる。この量国中の小動物が押し寄せてきていたんじゃないかってほどたくさんいるよね。
と、その時一匹のうさぎがちょこちょことフレンさんへと近寄っていくのが見えて、何でか分からないけど嫌な予感に体が勝手に動いていた。
「フレンさん!」
「フィアナ?」
私はフレンさんの前へと駆けこむ。彼の不思議そうな声が聞こえてきたがそれと同時にうさぎが私目がけて手に持っていた小瓶を投げつけてきた。
「っ……ゴホゴホ……な、なに?」
瓶の中身がぶちまけられ私にかかるとその煙に私はむせかえる。と同時に頭がぐらぐらして立っているのもつらくなってきた。
「フィアナ!?」
ルシアさんの悲痛な叫び声が聞こえてくるとかすれていく視界の中で生まれて初めて見る彼の焦った顔が見えた気がした。
「ん……」
次に目を覚ますと私は自分の部屋のベッドの中にいた。あれ? 確か玄関にいたと思ったのだけれど、大量の小動物が押し寄せてきたのは夢だったのかな。
「フィアナ! あぁ、よかった」
「目が覚めたんだな」
「どうやら薬がちゃんと効いたようだ」
姉達が安堵した顔で私を見てくる。その横には申し訳なさそうな顔のヒルダさんとレオンさんの姿もあった。でもどうして私こんなに心配されてるんだろう?
「あの……皆如何してそんなに心配そうにしてるの?」
「覚えていないの? 貴女瓶に入っていた薬を被って丸一日ねむり続けていたのよ」
私の言葉に姉が説明する。丸一日も?
「え?」
「ごめんなさいね。貴女をこんな目に合わせるつもりはなかったの」
驚く私へとヒルダさんが申し訳ないと謝って来る。そもそもどうして二人もここにいるのだろうか?
「フレン王子だけ狙って連れ去る予定だったのだけれど、それが失敗しちゃって貴女に睡眠薬が入った薬を浴びせてしまったの。フレン王子が途中で目覚めて抵抗されないために強力に作ってしまったものだから、効き目が切れるのにも時間がかかってしまうからわたしが急いで目覚めの薬を作って貴女に飲ませたのよ」
私が状況を掴めていないとヒルダさんが説明してくれる。私達が動物達に驚いて混乱している間にフレンさんだけを眠らせて連れ去る予定だったらしい。あのうさぎもヒルダさんが魔法で変身した姿だったそうだ。そしてもう私達と敵対する気はないのだと教えてくれた。
「フィアナが眠っている間にこいつらから情報を聞き出した。まだ状況がつかめていないだろうが聞いてくれるか」
「はい」
ルシアさんの言葉に私は頷く。話によるとフレンさんの命を狙ったのはザールブルブの女王様で女王の命を受けたカーネルさんの指示で二人はオルドラにやってきたのだとか。そして女王は禁断の古代魔法を復活させて世界と戦争を起こすつもりなのだと。手始めにこの国が狙われているらしい。交友関係を結んでるのに何で? って思ったけれどどうやらこの国がフレン王子を殺そうとし暗躍したという建前で友好関係を裏切ったとして戦争を起こす気なのだそうだ。
「そ、それでこれからどうする気ですか?」
「俺はルシアと共に女王を止めに行こうと思う。ヒルダとレオンとルキアには別で古代魔法を封印する魔法を知っている人物を探しに行ってもらうことになっている。それで、ティアとフィアナは危ないからここに残れ」
「私は逃げないよ。ここまで関わったんだもの最後まで付き合わせて」
「私も一緒に行く。ここまできて私だけ残るなんてできないもん」
姉の言葉に私も決意を込めて話す。
「……分かった。なら二人の好きにすればいい。それで、どうするんだ?」
「私はルシアさんについていくよ。離れ離れになって心配で気をもむより側に一緒にいる方が良いから」
私達が譲らないと分かって折れてくれたフレンさんの言葉に、私はとっさにそう声に出して宣言していた。
「それなら私も――」
「ちょっと待って。ティアはわたし達と一緒に来てもらいたいの。その封印の魔法を扱える人は舞を踊っていた。だから踊り子である貴女なら封印の魔法を覚えることができるかもしれないから」
姉も私達と一緒に行くと言いかけてヒルダさんに止められる。
「分かった。なら私はヒルダ達と行動するね」
「それじゃあ、準備が出来次第早いとこここから出て行った方が良いと思うぜ。外にはカーネルが放った刺客がうろうろしてるからさ」
姉が頷いたのを確認するとレオンさんがそう言って促す。ヒルダさん達は町の外へ、私達は万全の準備を整えて転移魔法を使いオルドラ国宮殿の別館へと向かっていった。
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