<ルシアルート> 四章 秘密の共有者

 そうしてルシアさんから貰ったお金をもって翌日王国魔法研究所へと向かい情報料を渡して魔法を解く方法を教えてもらった。


家に帰ってきた私達はフレンさんにそのことを説明すると彼がそれならできそうだと言って魔法を発動させた。でも、その後の展開は驚くことばかりで、フレンさんが本当は隣国の王子様で、何者かに命を狙われて魔法をかけられたって教えてくれて。だけどしばらくの間は動かない方が安全だからもう暫くこの家で居候させてもらいたいのだと。何か隠しているなとは思っていたけれど、事情が分かってスッキリした。


そうしてしばらくの間は私や姉もいつも通りの生活をする事となり、姉は仕事探しに、私はルシアさんに頼んで借りてもらっていた大量の本を返すため王立図書館へとやってくる。


「あら、フィアナじゃないの。今日はどうしたの?」


「あ、アニータさん」


彼女はアニータさんこの図書館の館長さんで私もよくお世話になっている。ここにある本は全て読破しているという噂があるくらい本の事についてとっても詳しい人だ。


「今日は本を返しに来たんです」


「あぁ、この前ルシアが貸してくれと言っていた本の事ね。それで、何か分かったことがあった?」


私の言葉に納得するとそう言って尋ねる。


「それが伝説や伝書ばかりで役に立ちそうなことはあまり書いてなくて……」


「あら、そう……やっぱりね。私も魔法や魔法使いについての本を読んだことがあったらそうじゃないかとは思っていたわ。一般には貸し出されていない本とかになら載っているかもしれないけれど、それを貸し出すことはできないからごめんなさいね」


私の言葉にアニータさんがやっぱりねと言った感じに話す。


「いいえ。他に方法がないか探してみます」


「熱心なのは良い事だけれどあんまりルシアを心配させることのないようにね。彼貴女の事となると周りが見えなくなるくらい心配するから」


アニータさんの言葉に私は苦笑してしまった。ルシアさんが過保護すぎるんだよね。


「昔から心配症でしたからね。でも、私だってもう昔みたいに熱を出したりしないのに、何時まで心配されるんだか」


「いつまでたっても可愛いからじゃないかしら。だからどうしても貴女の事を心配してしまうんだと思うわ。まぁ、私から見ても少し……いやかなり過保護な気もしなくもないけれどね」


彼女も苦笑すると私から本を受け取る。


「こんなにたくさんの本持ってくるの大変だったでしょう」


「いえ、このくらいはいつもの事なので慣れてますから」


大量の本の山を整理しながらアニータさんが言う。私は昔からたくさん本を借りていたのでこの量を持ち運びするくらいの腕力は付いているから大丈夫なのに。


「貴女は大丈夫でもルシアが心配するから、これからは大量の本を借りたら彼に頼んで持って帰ってもらったらいいんじゃないかしら」


「そんな、ルシアさんだってお仕事があって大変なのにそんなこと頼むなんて出来ませんよ」


主幹のお仕事で忙しい彼を頼るなんてできないと私が言うとアニータさんが小さく笑う。


「ふふ、違うわ。頼ってあげたほうのが喜ぶわよ」


「そうでしょうか?」


「えぇ。だからこれからは何かあったら頼ってみたら。彼ならいろいろと役に立つかもしれないから」


本当にそうなら今すぐ頼りたいくらいだ。フレンさんの事をルシアさんに話せれるなら話して助けてもらいたい。だけどいくらルシアさんがしっかりしているといっても一国の王子が命を狙われているのだ、なるべくなら関わらない方が良いのだろう。もし下手に手伝ったりなんかしたらルシアさんまで命を狙われかねない。そんな危険な目に合わせたくない。だから私達だけで何とか解決しないといけないのだ。


「それでは、今日は本を返しに来ただけですのでこれで失礼します」


「ペンダントの謎が早く解ける日が来ることを願ってるわ」


「有り難う御座います」


アニータさんの言葉に私はあいまいに返事をした。ペンダントの事を調べるよりももっと危険な事を調べなきゃいけないことになってるなんて言えないものね。


そうして図書館を後にした私は家へと向けて歩いて行った。


家へと帰ってくると姉とフレンさんが深刻な顔をして待ち構えていて何かあったのかと思い尋ねると、最近この辺りをうろつく怪しい人影が目撃されているという話をルチアさんから聞いたのだと話してくれて、もしかしたらそれはフレンさんの命を狙う人物と繫がっているかもしれないということらしい。


「元の姿に戻った以上。探知魔法を使われてしまえばこの家にいることは特定されてしまうだろう。その前に何とか手を打たなくては」


「どうすればいいの?」


「おい、ティア、フィアナ。いるんだろう? ……入るぞ」


「っ! 今の声はルシアさん」


話し合いに夢中になっていて気付けなかったルシアさんの声にようやく気付いた時は遅くて、彼はもうすでにリビングの扉を開けようとしていた。


「あ、待って! いまそっちに行くから」


「何を慌てて――っ!? フレン……お前が何でここに?」


姉が慌てて声をあげ立ち上がり扉へと向かうが無情にもそれは開かれ彼は中へと入ってきてしまう。そうしてフレンさんの姿を見ると明らかに驚いていた。


「……知られてしまっては仕方ないな。ルシア、実は……」


フレンさんへと私達が視線を送ると彼は仕方ないといった感じにルシアさんに事情を説明する。


「なるほど、先王が亡くなったのを知ってザールブルブに向けて船に乗ったが、お前が乗っていた船が細工され事故に合い、さらに何者かに死に至る魔法をかけられたがそれが失敗に終わり動物に姿を変えられたところをティアとフィアナに助けられた……ということか。ペンダントの事を調べているにしては変だとは思っていた。魔法や魔法使いについての本には有力な情報は載っていないからな」


「今まで黙っていてごめん」


納得した様子で頷くルシアさんに私は謝った。ずっと彼に嘘をつき続けていたんだから謝っても足りないくらいだ。


「いや、事情が事情なだけにこれはうかつに人に話すべきではないからな」


「ルシアに知られてしまった以上は今日から秘密の共有者として俺達に協力してもらう」


フレンさんの言葉に彼は分かっているといった感じに頷く。


「王宮の方で俺もそれとなくお前を殺そうとした黒幕について調べてみよう。お前は今すぐにここを出て王宮に来い。別邸に住めるよう俺が手を回しておいてやる。ルキアに頼んで護衛の兵士も配置する」


「いや、俺はここにいる。いやな予感しかしないんだ。別邸にいたらこの国にも何か災いが起こりそうで……」


ルシアさんの言葉にフレンさんがそう言って深刻な顔で黙り込む。


「分かった。だが、何時までもここにはいられないだろう。この辺りにあやしい奴がうろついているという情報もある。それが黒幕が放った暗殺者の可能性もあるだろう。相手に見つかる前にこちらから仕掛けた方が良い。何か起こったらすぐに俺に知らせろ。いいな」


「あぁ。分かった」


話し合いが終わるとルシアさんは私達へと顔を向ける。


「今の話のせいですっかり忘れてしまうところだったが、お前達の両親からまた手紙が送られてきた」


「有り難う……え?」


「どうしたの?」


手紙を読んだ姉が驚いた顔をする。なんて書かれてあったんだろう。


「お母さんとお父さん近いうちにこっちに帰ってこれるかもしれないんだって。なんでも友人に会うからそのついでに私達の顔を見ていきたいって書いてあるのよ」


「お母さん達が帰って来るの? ど、どうしよう……すごく久々に再会するから私のこと覚えていてくれているかな」


お母さんとお父さんが帰って来る。嬉しいけれど忘れられていたらどうしようって心配になる。あ、それからフレンさんの事も紹介しないといけないんだよね。


「それじゃあ、俺は宮殿に戻り早速調べてみる。フレンはあまり出歩くな。何か情報を調べるならティアとフィアナに協力してもらえ」


「あぁ、分かっている」


ルシアさんがそれだけ言うと王宮へと戻って行った。それから私達はお母さんとお父さんが帰って来るという嬉しさにはしゃいでいるとフレンさんから今まで聞きそびれていたが両親は何をしていてどうして家を空けているのかと尋ねられる。


それに答えているとあっという間に時間は過ぎていき夕飯を食べてその日は眠りにつく。


「ティア、フィアナ。いるか? ……入るぞ」


「ルシア。それにルキアもどうしたの」


翌日朝も早いうちから玄関から声が聞こえてきてルシアさんとルキアさんがリビングへと入ってきた。ルキアさんはフレンさんの顔を見ると驚いていたが途端に笑顔になり彼へと飛びつき生きていて良かったと言ってしっかりと握手を交わす。後から聞いた話だがフレンさんとルシアさんとルキアさんは友人同士だったらしい。これでフレンさんが前にルシアさんの言葉なら信頼できるって言っていた理由もわかったし、出会った当初はルシアさんのこと知り合いに似ているってはぐらかしていたけれど本当はちゃんとわかっていたんだね。ただ私達にまだ本当の事教えられなかったから黙っていたんだ。いっぺんに謎が解けてスッキリした。


「黒幕につながるかもしれない情報を手に入れた。王国魔法研究所で働いているヒルダの所に最近見かけない男が度々会いに行っているらしい。それもお前が行方不明になってから直ぐの事だ。ヒルダという女がこの町に来たのもほぼ同じ時期。これはどうもおかしいと思わないか」


「ヒルダって……この前私達に情報を教えてくれた女の子もヒルダって名前よね。まさか同じ人?」


ルシアさん早速情報を持ってきてくれるなんて王宮で働いているだけはあって流石よね。でもヒルダさんてこの前の人が? もしルシアさんの言う通りなのだとしたら彼女はフレンさんの命を狙っている黒幕とつながりがあるってこと。


あのおとなしそうな人がそんな恐ろしいことをやっているなんて想像がつかないけれど、ルシアさんが言うのだから間違いはないのだろう。


そうして私達はルシアさんの考えで相手が仕掛けてくる前にこっちから会いに行こうということになりフレンさんと私と姉の三人で王国魔法研究所の中へと向かい、ルシアさんとルキアさんは何かあった時のために施設の外で待機することとなった。


その後私達は慌てて外へと駆けだす。ヒルダさんの所に度々会いに行っていた人がレオンさんで、二人は確実に何か知っている感じだった。だけど話を聞きだす前にレオンさんが持っていた小瓶が投げつけられ中から白い煙が起ち込めたのだ。煙が治まるとそこに二人の姿はなくだからあわてて外に駆けだしてきたのだけれど、そこには状況がつかめなくて驚いた顔のルシアさんとルキアさんしかいなかった。


「中から人が出てこなかったか?」


「ここでずっとお前達の帰りを待っていたが誰も出てこなかったぞ」


「え? それじゃあ二人はまだ中にいるってこと?」


フレンさんの言葉にルシアさんが答える。あの一瞬の隙を付いて外に逃げ出したのだと思っていたのだけれど、まさか研究所の奥へと逃げて行ってしまったのだろうか? どちらにしてもこれ以上の深追いをすることはできなくて私達は一度家へと戻る。


「こちらが仕掛けたのだから相手が俺の命を狙ってこの家に来る可能性はある」


「それを待ち伏せするってわけだな」


フレンさんの言葉にルキアさんが頷く。私達はいつヒルダさんとレオンさんが襲ってきてもいいように身構えていたのだけれど夕方になっても夜になっても一向に現れる事が無くて仕方ないのでこの日は交代で仮眠をとることとなった。


*****


≪オルドラ王国の路地裏≫ (共通ルート 分岐点)


「せっかくのチャンスだったのに、どうして逃げたりなんかしたの?」


「あの場で騒ぎを起こせばすぐにオルドラ王国の兵士につかまると思ったからさ。ヒルダは気付いていなかったみたいだけれど、外に王国の関係者が二人もいた。何か騒ぎがあればすぐに駆け付けられて面倒な事になっていたと思ってね」


レオンへと向けてヒルダが怒鳴ると彼がそう言って説明する。


「それにしても……あの子達どうして王子と一緒にいたのかしら?」


「確かに変だよな……って、あぁっ!」


考え深げに呟いた言葉にレオンも首をひねったがあることを思い至り大きな声をあげる。


「ひっ……び、びっくりした。いきなり大声上げないでよ」


「あの子達がヒルダに聞いてきた言葉だよ。なんでそんなこと知りたがるんだろうって思っていたけど……」


大声にびっくりした様子でヒルダが言うとレオンがそう言って説明する。


「確かに変だとは思っていたのよね。一般人が魔法の失敗で動物に姿が変わった人を戻す方法を知りたがるなんて……って、まさか?」


「ね、納得しただろう。きっと王子は動物に姿が変わっていたんだ。そりゃどこを探しても死体も何も見つかるはずもないし、探知魔法に反応するはずもない。動物に姿が変わっていたんならあの人達だって見つけられるはずもない。そういうことだったんだ」


ヒルダもはっとした顔になるとそういうことかと納得する。レオンがそう言うと考えるように彼女を見た。


「これからどうする?」


「王子が生きていたのならば消すしかないわ。それがあの人の命令なんですもの」


彼の言葉に彼女は静かな口調でそう告げる。


「だけど、そう簡単に王子だけ消せるのか? 夕方王子の後を追ったら王国騎士と王宮の関係者が側にいたんだぜ」


「考えがあるの。上手くいけば王子だけ消し去ることができるはずよ」


レオンの言葉にヒルダが言うと不敵に笑い耳打ちする。その言葉に彼は驚いたがにやりと笑い了承した。

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