<ルシアルート> 七章 通じ合う想い

 フレンさんが弟のアレンさんと共にザールブルブへと帰っていき全てが終わり私達も日常をようやく取り戻していた頃。ルシアさんとルキアさんが尋ねて来た。


「ルシア、ルキア。今日はどうしたの?」


「オレは特に用事があるわけじゃないんだけど……ルシアがフィアナに話があるっていうからさ」


「私に?」


姉の言葉にルキアさんがそう言ってにやりと笑う。ルシアさんが私に用事があるってことかな? 何の話だろう。


「それで、ティア。ちょっとのあいだフィアナの事ルシアが借りていくけどいいよな?」


「問題ないわよ。ふふ。ルシア頑張ってね」


何で二人ともそんなにニコニコ笑ってるのかな?


「お前達ニヤニヤと気味が悪いぞ。……そういうことだからフィアナ少し付き合え」


「うん。それじぁあお姉ちゃん行ってくるね」


ルシアさんに連れられて私は家を出た。そうして彼について歩く事数分。噴水広場までやって来る。


「……ここで昔あるひとと出会った。その人はとても優しくて俺はその人の事を一瞬で好きになった。俺が大人になったらその人に好きだと伝えられるだろうかと思いながら月日は流れ、ある日その人はもうここには来れないと言ってどこかに旅立ってしまった。それから何十年も経つがその人が俺の前に再び現れることはなかった」


「……」


ルシアさんが話し始めたのは彼が子どもの頃の初恋のお話。どうしてそんな話をしてきたのか分からなくて私は困惑した。


「俺はどこかでずっとその人を探し続けていたのかもしれない。そして……その人と会ったら今度こそ気持ちを伝えようと。だが、俺が探し続けていた人はとても近くにいて、そしていつでも俺はその人の事を守り続けていたんだ。それに気づいたのはこの前お前がヒルダの魔法で倒れてしまった時だ」


「何の話かよく分からないけれど、初恋の失恋のお話ならもう聞きたくないよ」


私を見詰めるルシアさんの瞳から逃げるように顔をそむける。


「フィアナ聞いてくれるか? 俺はずっとお前の事を世話の焼ける妹だと思っていた。だが、いつの間にかその気持ちは変わっていた。驚くほどに俺はお前から目が離せなくなり、お前を護りたいと強く心に誓うようになっていた。……気付いた時には俺は、お前の事を妹ではなく一人の女性として見るようになっていたんだ」


「!?」


ルシアさんの言葉に驚いて彼の方に顔を戻す。そこには真剣な瞳があって私は思わず見つめ返した。


「フィアナ……俺はあの時も、そして今もお前の事が好きだ。だから、お前が大人になったら俺と結婚して欲しいと思っている。勿論主幹の仕事をしている俺の側にいたら寂しい思いもさせることもあると思うが、だが、それ以上にお前を幸せにすると誓う。だから、俺の気持ちの答えを聞かせてくれないか」


「私……ずっとルシアさんはお姉ちゃんのことが好きなんだって思っていた。だからずっと諦めていた。でも、今の話を聞いてとっても嬉しい。ルシアさんが私のこと好きなんだって分かってとっても嬉しいはずなのになんでかな? 涙が出て止まらないんだ」


ルシアさんの言葉が嬉しくて涙が止まらない。私の事を好きだと言ってくれた言葉が聞き間違いなんじゃないかって思う程。これが夢でなくて現実であってほしいと願う程。待ち焦がれた言葉を聞けたことが本当なのか分からなくなってしまったのだ。


「フィアナ……俺はお前を守り続けると約束する。そしてお前を幸せにすると誓う」


「! ……はい」


ルシアさんが跪き私の右手を取るとその中指へと軽くキスを落とす。そして忠誠を誓う騎士のように宣言して微笑む。嬉しくて頬が緩むのを感じながら私は心からの気持ちで返事をした。


こうして私がずっと心に秘めていたルシアさんへの恋心と彼がずっと言えずにいた私への気持ちを伝える事が出来私達の想いは通じ合った。


「まったく。ようやく素直になったか。やれやれ、世話の焼ける兄貴だぜ」


「ふふ。フィアナあんなに嬉しそうに……これは応援していたかいがあったわね」


「貴様等、そこに居るのは初めから分かっているんだぞ。やはり後で別館裏に来い」


ルシアさんがふいに建物の影へと顔を向けたかと思うと眉間にしわを寄せて怒る。


すると建物の影から姉とルキアさんが姿を現し慌てて苦笑いしてごまかす。


後で知った事だが姉もルキアさんもルシアさんが私の事を好きだってことに気付いていたみたいで。二人で何とかして私達をくっつけようとしてルシアさんをけしかけていたらしい。


「それから、フィアナ。そのペンダントの事だが……」


「へ?」


私へと視線を戻したルシアさんが口を開く。ペンダントがどうかしたのだろうか? もしかしてルシアさん何か知っていたりするの?


「今まで言えずにずっと黙っていたが、もうお前に隠し事をするのは止めだ。実は、そのペンダントについ昔ある人から教えてもらったことがある。お前もいつかその知識が役に立つときが来ると思うからよく聞いておけよ」


「う、うん」


まさかルシアさんがこのペンダントの秘密を知っていたなんて。ずっと黙っていたのは何でか分からないけれど私のためなのかも。


「それは時渡りのペンダントというものらしい。魔石がはめ込まれていてその力を使い過去の時間に飛ぶことができるそうだ。過去の時間ならどんな時代でも飛べるらしい。ただし、一日しか過去の時間に干渉できないそうだ。それを過ぎてしまうと時間の迷い人となり時間に取り残され一生時の中を彷徨い続ける事となる。だから扱い方を間違えてはいけないのだと。……あの時彼女がなぜペンダントの話をしたのか俺には分からなかったが、おそらくお前に伝えてくれとそういうことだったのだと思う。そう理解したから、だからお前にこの話をしなくてはいけないと思ったんだ。今まで黙っていたのはお前がなにか面倒な事に巻き込まれないか心配だったからだ。もう終わった事だが実際にザールブルブとの間で面倒な事に巻き込まれていたからな」


「あははっ……で、でも。教えてくれたってことはもう心配ないからだよね」


彼の言葉に私は言う。今まで教えてくれなかったのはやっぱり私の事を思ってだったんだね。


「心配なのはいつまでも変わらない。だが、俺が側で守ってやればそれでいい事だ。そうだろう?」


「! ……うん」


照れた顔でそう言うルシアさんへと私は力強く頷き答える。


「いや~いい光景ね~」


「まったく、もっと早く素直になればよかったものを。ずっと一人で悩んで……ほんとルシアって堅物だよな」


「貴様等、俺を怒らせるのが上手になったな……」


姉とルキアさんがにやにやしながら囁き合う。その声はちゃんと聞こえていたようでルシアさんが眉間にしわを寄せ二人へと近寄っていった。


「おっと、ティア逃げるぞ」


「うん」


「待て! お前達はいつまでたっても変わらずに……こら」


ルキアさんが言うと姉と二人で広場へと向けて駆け出す。その背へと向けてルシアさんが声をかけるが追いかけることはせず私の方へと顔を向けた。


「さて、邪魔者はいなくなったし。今日はこのまま二人でデートでもするか」


「うん。ルシアさんと一緒ならどこでも付いていくよ」


柔らかく微笑み言われた言葉に私は嬉しくて頬が緩むのを感じながら返事をした。



その日は夢心地のままルシアさんのエスコートで私は人生初めてのデートを体験する。


ルシアさんがいくところは全部私が興味のあるところで、私が好きなものがあるところを巡ってくれた。あ、でも動物がいるところには連れて行ってもらえなかったんだ。そこだけはどうしても無理だって言われて、本当に動物嫌いなのは変わらないんだね。その代わりぬいぐるみ屋さんに連れて行ってもらった。私がぬいぐるみを見ていたら「まだまだ子どもだな」って笑われたけれど、いつか素敵な女性になって彼と肩を並べて歩いてみせるんだから。


こうしてあっという間に一日は過ぎていった。


「へ~。そう、ルシアからプロポーズされたの。ふふ、良かったわね」


「アニータさんそんな大きな声で」


翌日、図書館に本を借りに行くとアニータさんにルシアさんから告白されたことを伝える。すると大きな声で言われて慌てて手をばたつかせて止めた。


「あら、ここには今は誰もいないのだから、気にしなくても大丈夫よ。それにしても、ルシアもやっと自分の気持ちに素直になったのね」


「も、もう。お姉ちゃん達と同じこと言うのやめて下さい」


にこやかに微笑み彼女が言うので私は抗議するように言う。


「そ、それよりも! このペンダントの謎がついに解けたんです」


「あら、そうなの?」


私は話題を変えようとペンダントについてを話し始める。アニータさんは驚いていたが優しく微笑む。


「そう、ずっと調べていたものね。謎が解けて良かった。それで、そのペンダントの力を使うことはありそうなのかしら?」


「今のところは使うことはないと思います。過去の時間に飛ぶような用事もないですし」


謎は解けたもののこのペンダントの力を使うことは今のところなさそうなのよね。だからこのペンダントは今まで通り私の首にただぶら下げているだけ。


「そのペンダントを使って過去の時間に飛ぶところも見て見たいけれど、それはまたいつか見せてもらうってことで今日の所は諦めておくわね」


「このペンダントを使うことがあったらお見せしますね」


アニータさんにもいつか見せてあげれると良いな。だけど当分の間はそれが叶いそうにないけれど。


それから私はアニータさんと数分話をすると本を借りて家へと戻って行った。


もうペンダントの事を調べるためではない。小さいころから本を読んでいてすっかり本が大好きになっていたのでこれからは普通に楽しむために借りるのだ。


こうしてフレンさん達がいなくなったオルドラでルシアさんと想いが通じ合った私の生活は特に大きく変わることなく過ぎていくのであった。

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