第14話 野々花の小説って面白い!
学校の教室で野々花の姿を毎日見るが、それでも野々花は音乃に話しかけようとせず、互いの友人達と一緒にいる。今が音乃と勝負中ということも感じさせない、いつも通りだ。
きっと学校では平穏を保っているものの、家では新作小説を執筆しているのだろう。
音乃も負けてはいられなかった。
家に帰り、音乃はテーマを決める為にネタ探しとしてラミ丘のコミックスを読み返した。
本当はアニメ本編も見たいところだが、アニメは一話につき約23分の再生時間だ。
映像でストーリーが進むアニメはどうしても視聴に時間がかかってしまう。
しかし漫画であれば、絵と文字を読み進めるだけなので短時間で本編の復習ができるというわけだ。なのでこういった時間のない時には原作漫画を読み返すしかないのである。
「やっぱり最初の旅立ちのところと、アミエル登場の回は面白いなあ」
音乃にとってはこの二人は兄弟のような親友同士という関係が好きだった。
しかし、野々花はこのキャラの関係を「ライバルとして対立して見ている」と言っていた。
確かにロシウスとアミエルの関係は、先輩後輩関係でもあり、そうともとれるのだ。
そこでふと、気になったことがあった。
「そういえば、野々花ってどんな小説書いてるんだろう?」
野々花がこの作品と、ロシウスとアミエルというキャラの関係に抱いているイメージ。
それは音乃の解釈とは違うが、ならばそれをどう創作に生かしているというのか。
音乃は野々花の作品をまだ読んだことはなかった。
あくまでも野々花がアップした作品のタイトルとブクマいいね数をチェックしただけだ。
小説はイラストや漫画のように一瞬で目を通すことができない。活字媒体で読むのに時間がかかるのだ。その為に音乃はまだ野々花の小説の中身を読んだことはなかった。
「ちょっと、読んでみようかな」
勝負をするのであれば、相手の作品を読んでおくことも手だ。相手の力量を知っておくことで、より自分もそれを超えなければならないというやる気に繋がる。
音乃は早速、野々花のピクシブプロフィール画面にアクセスした。
「たんぽぽ」というユーザーネームに、複数の小説。もちろんラミ丘のアミロシが多い。
「一応同じジャンルだし、私にも読めるはず。他の人の作品とはまた違う感じなのかな?」
自分の好きなカップリングと同じジャンルであれば、解釈違いでも読むことはできるはずだ。
音乃は早速、野々花の作品を開いた。タイトルは「薔薇と太陽」それを読むことにした。
プロローグから始まり、本編への導入、そして目に入る文章。
すると、音乃はその小説で衝撃を受けた
「え、野々花の小説って……こんな……」
音乃はその小説の文章力に何かを感じた。
『太陽はまるでロシウスの明るさを強調しているようで、日陰はアミエルの気持ちを表しているようであった』
『薔薇園には無数の薔薇が咲いていた。その花びらには朝露がたまり、雫が滴っていた。その香りはまさに人々の心を癒す効果があるだろう』
『生活の為に必要な井戸水を桶に組むと、その水面は太陽の光が反射して宝石のように輝いていた』
『アミエルはロシウスに複雑な感情を抱いていた。それは嫉妬のような感情ともいえるだろう年下ながら自分の先を行くロシウスを見て、自分自身に焦りを感じ』
野々花の文章は非常に読みやすい。
「こんなに、話にのめり込める書き方があるなんて……」
ただ状況を説明しているだけの音乃の小説と違い、背景描写も丁寧だ。比喩表現を使うことで、より一層、その場面をイメージすることができる。あの世界観に合った生活様式もよく再現している。人物の心情を文章で読みやすく表現していることで、人物にも感情移入しやすい。
なおかつ、ただ文章を読んでいるだけで一瞬でその場面がイメージできるほどに、背景描写も丁寧なのだ。さすがは昔から小説を書いていただけあって、野々花の小説の腕はぴか一だ。
「私と、同じ年でこんなの書けるの!? 野々花の小説、レベルが高い!」
読めば読むほど、どんどん内容に惹かれていく。高校生の文章とは思えない。
アミエルからロシウスへ抱いていた嫉妬心のような感情。それを表に出さないように普段はロシウスの前で平常を装うアミエルの心の中の声。
ロシウスが自分を慕っているとしても、本当はライバル意識が強い。そういったものだ。
音乃の作品はほのぼのとした、誰でもが考えられるストーリーだが、野々花の小説はまたそれらとは違う視点で描かれていた。
原作のあの二人の関係を、原作重視でありながらこういう心情もありそうだ、というキャラクターの性格を深く考察している。本編では出てこない部分を考察し、ストーリーにしている。
これは他の王道ストーリーが好きなユーザーと違う視点から二人の関係を描いたという非常に珍しいストーリーをまさに小説という形で表していた。
そして、野々花のその小説にはコメントも複数ついていた。
「このアミエルのライバル心の感情があるからこそ、ロシウスに接する時はあえて年上としての先輩肌なんですね」
「アミエルがロシウスに対して本当はこう思っているので、ロシウスの前では見栄を張ってるともとれますね」
これはまさに原作ファンからしても、「このキャラにもこういった心情がある」という意味で書かれた貴重な話ということになる。
あえて王道のほのぼの路線ではないからこそ、また一風違った作風が楽しめると。
あの2人の関係の解釈が、独自な視点だからこそ、他のユーザーと一風違った物語が書ける。
これはこれで、原作を考察している分、ラミレスの丘という作品への愛が伝わって来る。
「野々花の小説、面白い。確かに王道ともまた違う視点が楽しめる」
これならば野々花があんなにもアミエルとロシウスの関係にこだわっていた理由もわかる気がする。親友ではなく、こういったライバル心もあるのでは、と。
こういった話を書いているからこそ、どうしてもこの二人の関係の解釈が独自なものだったのだろう。
「これなら確かに、ありきたりな王道ストーリーと違ったノリで楽しめる」
他のユーザーが考えるありきたりな話と違い、野々花だけが書ける個性的なストーリーにまた惹かれるユーザーも多いのだろう。
他の小説と解釈が違うからこそ、こういった話もある、と珍しいからこそ、こういった話を読みたいというユーザーにも需要がある。珍しい話だからこそだ。これならそういったユーザーに受けるのでいいねやブクマ数が多いのも納得だ。
「野々花の小説、もっと読みたい。他のも読んでみよう」
音乃はすっかり夢中になり、次々と野々花の小説を読んでいった。
そしてやはりどれも文章が読みやすく、描写や心情の表現も抜群だった。
読めば読むほど、自分が書く小説と全く違う表現や、キャラの心情など、丁寧な描写と文章で音乃の心に響いた。
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