第12話 二次創作って楽しい


「明日には閲覧数伸びてるのかな。ちゃんと読んでくれた人いるかな」

 果たして読んでくれる人はいるのか。ドキドキしつつも眠りについた。


翌日。朝、目覚めると、音乃はさっそくスマホからピクシブのダッシュボードを見ることにした。ここを見ればアップロードした瞬間からこの時間までの反応を見ることができる。

「あの小説、どれだけの人が読んだのかなー」

 音乃はワクワクしながら、スマホからピクシブにアクセスしてダッシュボードを見た。

 そして、初めての作品の閲覧数を見た。

「閲覧数58! すでにそれだけの人が見てくれたんだ!」

 音乃は興奮した。今まで小説を書いたことのない自分の作品を読んでくれた人がいたことに、それだけでも感動ものだ。自分の作品が読まれている、と。

 ラミ丘は旬ジャンルだけあって、新作小説というだけで結構読まれるのだ。

 書き手としても新参な音乃の作品でも、原作人気な分、読む人はそこそこいたのである。


その日から音乃は毎日、朝起きればすぐにピクシブのダッシュボードをスマホで見ることが習慣になった。

初めての小説をアップロードした日から数日が流れた。

「今日は閲覧数+18だ」

ピクシブに小説をアップロードしてはみたものの、閲覧数は伸びるものの、この時点ではまだ内容がよかったと評価する「いいね」やブックマークといったものもつかなかった。

「閲覧数ってこんなものなのかな、ブクマももらえないなあ。やっぱり絵じゃないと見てもらえないのかな?」

絵や漫画は一瞬で目を通すことはできるが、小説は文章をじっくり文章を読まなくてはならない。そうなると元々の閲覧数があまり伸びないものなもかもしれない。

 ましてや今まで熟練の書き手をしていたわけでもない、二次創作自体初めての音乃はアミロシ界隈では新参でしかない。

ツイッターでたまにやりとりをする人はいても、ピクシブでは新参ゆえに音乃をピクシブで知る者はいないのである。

「いや、すでに昨日よりも18人も多くの人が見てくれたんだから……ちゃんと読まれてる」

 小説は絵や漫画よりもさらに読む人がぐっと少ない。活字媒体は読むのに時間がかかるからだ。それだけ読む人も限りがあるものはただでさえ読んでもらえる確率はぐっと下がるのだ。

 二次創作における小説は、その作品が好きな者しか見ないかもしれない、という心配すらある。その為に、絵や漫画ほども注目されないのでは、と。

「いや、評価がもらえないなんて関係ないよね……私が書きたかった話、読みたかった話を完成させた時点で満足なんだから」

二次創作はあくまでも自己満足である。自分のイメージするストーリーが形になった時点ですでに満足だという考え方もあるのだ。

二次創作は評価をもらうことよりも、「自分がこんな話を読みたい」と思うものを描き上げて、それが完成した時点でも満足と思うものだともいう。

つまり、評価をもらうことが目的なのではなく、自分が読みたい話を完成させた時点で自己満足ができればいい、という考えもある。

「私が書きたい話を書けたんだから、これで目標も達成……できたんだ、きっと」

 音乃はそう思うことにした。

 

 しかしさらにそれから数日経過してもブックマークと「いいね」が一度もつかないことに不安も感じる。

 音乃が小説をアップロードしてから一週間経っても、それでもなかなかそれらも付かないままで、相変わらず反応もなかった。

「もしかして、私の書いた話がつまらないとか思われてないかなあ……。このキャラはこんなこと言わないとか思われてないか心配」

二次創作はそうやって人によっては自分のイメージしたキャラ像が違う、もしくは好きなキャラをそんな風にいじらないでほしい、と思う者もいるのである。

つまり、読む人によって受け取り方が違えば、それだけで自分にはこの作品が合わなかった、いまいちだったとも思われる。

 そういったことを思われていないかと音乃は心配でたまらなかった。

「いや、違うんだ……きっとそんなことは思われてないはず……」

 音乃は答えの見えない不安に押しつぶされそうになった。

 もしかして自分の話がつまらないから見てもらえないのではないかと。

 名前の知られていない新参文字書きの作品とは、それ以前からついている読者もいない為に、読んでもらえることはなおさら難しいのだ。

「私の書いた話……おかしいとか思われてないよね……?」

 音乃は数日間を不安で過ごすことになる。



 さらに数日が経ち、今日も音乃は朝起きてすぐに、いつも通りスマホでピクシブのダッシュボードを確認することにした。

「どうせ今日もいつもと変わらないよね……」

 そう言い聞かせながら、音乃はピクシブにアクセスする。

すると、通知欄に何やら通知が付いていた。ベルのマークに赤い数字がついている。

「え、何? なんの通知?」

 初めて見たその通知に音乃は何だろうか、と思った。

 これまでに広告の通知が来たことはあったが、今日もそれらなのだろうか、と思った。

音乃は通知をタップしてみる。

すると、そこにはこう表示されていた。

「「親友の形」が1ブックマークされました」

「「親友の形」が1いいね! されました」

音乃はその画面を見た時、驚いた。

「え、え!? これって………」

 音乃は初めて見た通知に驚きを隠せなかった。

「私の作品が、初めてブクマされた!? さらに「いいね!」も!?」

 音乃はもはや衝撃を受けた。ピクシブでこんな反応は初めてだった。

「ちゃんと読んでくれた人がいたんだ!」

 初めてついたブックマーク、そしていいねに興奮した。

「いいね」とは「この話を面白かった」と伝える為のシステムだ。

「これ、私の作品読んで面白いと思った人がいるってことだよね! それに気に入ってくれた人がいたんだ!」

 自分の小説がブックマークされる、それはそれだけ自分の作品を見て、反応してくれた人がいたということだ。

「やっったあ! やったあ! 頑張って書いてよかったあ!!!」

たとえそれが一つだけでも、初めてブックマークをもらえた音乃には一瞬で今まで苦労して時間をかけた執筆の苦労よりもその嬉しさの方が上回った。

書き出そうとして、いきなりつまずいたあの時のことの苦しみや、小説を初めて書き上げたこと、苦労して話を考え執筆したこと、それらの苦労よりもこのことがまさにそれらを覆すほどの喜びなのだ。

「無駄じゃ……なかったんだ……本当に……よかった……」

 音乃は嬉しさのあまり、涙まで出そうだった。

「よかった……ちゃんと読んでくれた人がいたんだ……しかも面白いと思ってくれて……嬉しいよお!」

 朝からの喜びに、音乃はその日一日、もはや幸福感でいっぱいだった。

 例えそれがいいね!とブックマークが1つだけだとしても、それでも自分の作品に反応されたことに感動だった。 


さらに音乃はその日以降も、毎日ピクシブのダッシュボードを必ず確認した。

 その度に閲覧数は伸びていた。

「今日は+11、順調に増えてる」

小説はアップして日が浅いうちよりも、時間が経つほど徐々に閲覧数が伸びていくのだ。

初めは全然伸びなくても、日が経つほどに読まれていくのである。

毎日確認するごとに増える閲覧数に、音乃はどんどん幸福に満たされて行った。


 そしてやはり朝目が覚めると、すぐにスマホで日課であるピクシブを確認する。

 するとまたもや通知が入っていた。

「また!?」

 音乃は通知をタップした。

「2人以上のユーザーが「親友の形」をブックマークしました」

「2人以上のユーザーが「親友の形」にいいね!しました」

 音乃は興奮した。またもや反応してくれた人がいたのだ。

「やった! 2回目のいいね! ブクマだ!」

 音乃は閲覧数が伸びていくだけではなく、さらに反応があったことに喜んだ。

「ん?」

 すると、音乃は通知がさらに下にもう一つあることに気が付いた。

「ヨンマルさんがコメントしました」

 初めて見るその通知に音乃は「え!?」と声を上げた。

「コメント……? 今日はコメントも!?」

 音乃にとっては初めてのコメントだった。

 恐る恐るコメントを確認する。そこにはこう書かれていた。

「このお話、すっごくよかったです。ロシウスがアミエルにお菓子を作ってあげるとか、本当にお前ら親友だ! って感じがしました」

 そのコメントを見て、ほんの短いコメントの文章だが音乃はまたもや震えた。

「う、嬉しい―! コメントにこんなこと書かれるなんて! まさに私が表現したかったのそれー!」

まさに自分がそのつもりで書いた話から音乃がこの話で表現したかった部分を受け取ってくれた人がいたことにも感激だ。

 いいねにブクマだけでなく。初めてのコメント、感想。

自分の作品をちゃんと読んでもらえるということがなんとも嬉しかった。

「やっぱり小説書いてみてよかったああ! こんなに嬉しい経験できるなんて! あの苦労も無駄じゃなかった!」

 もはや音乃にとっては執筆していた時の苦労よりもこの反応の喜びが上になっていた。

 自分の思い描いた世界が形になること、数日かけて苦労して書き上げた時の達成感、それをアップロードした時のやり切った感、さらに閲覧数が伸びていくほどに「自分の作品が同じアミロシ好きの人に読まれている」という嬉しさに、ブックマークがつけば自分の作品を気に入った人がいたということが形でわかる。

ストーリーを考えることも大変で、執筆をして書き上げることも大変だが、その苦労すらも上回る嬉しさだ。

 納得のいく出来のものが完成した時は達成感と満足感と解放感と幸福感でいっぱいになる。

 まさにこんなに楽しくてやりがいのあることはない、と。


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