第6話 腐女子覚醒
音乃はツイッターを始めてから、毎日それにどっぷりだ。
毎日のようにツイッターでファンの語りや感想が流れるタイムラインはまさにラミ丘沼にたっぷり浸れた。
自身もラミ丘について語ればいいねやリプライをもらえることは、自分もファンとして認められ、自分もその流れに乗れたようで楽しかった。
ツイッターのフォロワーも順調に増えていき、今では百人を超えていた。
そしてそれだけのタイムラインにラミ丘ファンのツイートが見えると時にはこんなものも見れることがある。
「あ、この人、ラミ丘のイラスト描いてる」
それはいわゆるファンアートと呼ばれるもので、ファンがイラストを描いているものだ。
好きなアニメや漫画といった作品をファンがそれぞれ自分でイラストを描くというものだ。
「みんなうまいなー」
音乃は自分がそういった絵が描けないので、イラストを描ける人々を尊敬した。
子供の頃には漫画の絵を真似して描くことはあったが、小学校高学年にもなると、次第にそういった趣味から離れてしまったために、今はもう漫画のイラストを描くことはできなくなっていたのだ。
そしてツイッターに流れてくるラミ丘イラストは上手い人が多く、美麗なものばかりだ。
「あ、この人、は漫画描いてる」
漫画とはいわゆる二次創作と呼ばれるものだ。
既存のアニメや漫画作品をパロディとして、その世界観やキャラクターを使って絵や漫画を描く、そういった既存の作品のキャラクターを使ってストーリーを作るという二次創作漫画が多い。
もちろん二次創作とは著作権の関係で本来は危険なグレーゾーンである。
漫画やアニメのキャラクターは原作者、つまりそのキャラクターを作った者や製作元に版権がある。それらのキャラクターを使い、ファンが漫画にするということは、厳密ではいいとはされない。やはり版権などの都合では法的には公式が見逃しているということでグレーゾーンなのだ。
ファンの中には二次創作を嫌う者もいる。ファンにとってはあくまでも公式から出た媒体だけが楽しめるもので、それを勝手にファンがキャラクターを使用してイラストや漫画を描くことに嫌悪感を抱く者もいる。
二次創作の中には既存のキャラクターを性的な絵にしたりとファンにとっては公式を汚された、と思う者もいるのだ。
しかし、音乃は二次創作賛成派だった。ファンが描いた漫画でも、好きなキャラのファンによっての個人の表現というものが、ファン同士ではまた楽しいからだ。
「これはアニメ2話の感想と小ネタを漫画にしたやつかー」
アニメ2話で放送された、アミエル登場のシーンのバックではアミエルはこういうポーズで待機していたのでは、という小ネタをギャグにした漫画だった。
そういった小ネタツッコミのような漫画も、キャラクターへ愛溢れる漫画など、二次創作は面白かった。「もしもあのシーンでこうなっていたら」といったifストーリーなどもあり、それぞれのファンの解釈の小話が漫画にされていて、こんな会話もあったかもね、というキャラクター同士の掛け合いを見れるのも楽しい。
音乃は気に入ったイラストや漫画をかたっぱしからいいねを付けてていた
イラストや漫画を描く人、いわゆる「絵描き」と呼ばれるファンのイラストはまるでプロの漫画家かイラストレーターかのように絵がうまい人ばかりなのだ。
音乃はそういったラミ丘の二次創作をしている人々も次々とフォローしていった。
こうしていれば、タイムラインに毎日のようにラミ丘のイラストや漫画が流れてくる。
「自分で絵や漫画が描けるって楽しそう。読むのも楽しい」
音乃は日々流れてくる二次創作を楽しんでいた。
ツイッターの役割とは文字ツイートだけでなく、画像ツイートも面白いものだ。
そうしているうちに、土曜日になった。
休日をどう過ごそうかと悩む時もあるが、今の音乃にとって学校が休みの日とは天国である。
学校が休みな分、思う存分にアニメを見たり、漫画を読んだりすることができる。
音乃は部屋で録画したラミ丘のアニメを見返したり、原作漫画をひたすら読み返して楽しんでいた、
そしてもちろんスマホから常にツイッターを見ることも欠かさない。
いつも通り夜になればタイムラインを開く。今日もファンの語りや感想、イラストや漫画ツイートが流れてくる。
そして音乃はあるツイートが目に入った。
「あれ? 何これ?」
音乃は初めて見るその文字に目が留まった。
「続きはプライベッターで!」
そう表記されたツイートはいつもイラストを見ている絵描きのアカウントだ。
あまりにも美麗なイラストを描く方なので、音乃はそのユーザーをフォローしてイラストを毎日楽しんでいた。
しかし、なぜか今日は「プライベッター」というリンクのアドレスが貼ってあり、そのままタイムライン上で画像を閲覧することができない。
「なんでわざわざクリックしないと見られない仕様にしてるんだろう?」
いつも通りにタイムラインに流せば閲覧できるのに、と思った。一手間かけるのは面倒だ。
しかしそのイラストを閲覧したいが為に、音乃はプライベッターを開いた。
そしてリンク先が開くと音乃はまず驚いた。
「え、なにこれ」
それは初めて見るような雰囲気のイラストだった。
アミエルがロシウスを抱きしめて、キスをしている。
男キャラが男キャラと身体を寄せ合い、しかもキスをしているのだ。
それは今まで普通のイラストしか見たことのない音乃には衝撃的だった。
「な、なんでロシウスとアミエルが……」
男女ではなく、男キャラ同士でこのようなイラストなど今まで見たことがなかったからだ。
普通ならば引くはずの男同士でのこのような行為。
大好きなロシウスとアミエルがなぜかこんなことをしている、と衝撃を受けた。
ホモやゲイ、同性愛いった表現なのかもしれないイラスト。それを大好きなキャラクターで。
「な、なんで……この2人が、こんなことを」
音乃は初めてのシチュエーションのイラストに衝撃を受けた、「はず」だった。
「なんか……これ、何……?」
しかし音乃はなぜかその画面にくぎ付けだった。
大好きなキャラが大好きなキャラ同士で絡んでいる、そんな絵がなぜかドキドキしてたまらなかった。
普通ならば気持ち悪い、と思うかもしれない絵だったが、大好きなキャラ同士がそんなことをしているイラストに音乃はなぜかそういった感情を抱かなかった。
むしろなぜか興奮してしまっていた。
「な、なんなのこの気持ちは」
男キャラが男キャラと愛し合うイラスト、それはまるで禁断の果実のようなものだ。
なんだかとてもいけないものを見てるような気がした。
男同士でこんなことをしているイラストに、何かわからない感情が押し寄せてきた。
「ちょっと、なんか……ドキドキする」
見てはいけない、そんなものがスリルのような緊張感がますます収められなくなった。
刺激なのか、ドキドキというのか、なんともわからない感情だ。
そのフォロワーのプロフィールを見れば、あるサイトへのリンクが貼られていた。
ピクシブというサイトに飛べるリンクだ。
「ピクシブって前に綾香が言ってた。イラストSNSって」
音乃は友人の知識からかろうじてそれを知っていた。
ツイッターがリアルタイムで文章を楽しめるSNSなら、ピクシブはイラスト用のSNSだと。イラストや漫画などを投稿し、ピクシブというサイトでそれらの作品が閲覧できる。
昔でいえばホームページのようなものだろう。現代の絵描きのほとんどはそれを利用して自分の作品を公開している。閲覧者もまたそれを楽しんでいる。
「もしかして、ここを開けばラミ丘のいろんなイラストや漫画がもっとたくさん見れるのかな」
そこはロシウスとアミエルのイラストがツイッターよりもたくさん見れるのかもしれない、という部分が気になった
音乃はそのフォロワープロフィール欄からピクシブを開いた。
しかしそこはまずはアカウントを作成せねば閲覧できないようだ。
普通だったらここで諦めるはずだが、音乃はなぜか高揚感が止まらなかった。
ツイッター以上に二次創作が楽しめる場所なのなら、見てみたい、と興味が沸いた。
「もっといろんなイラストを見たい……。アカウント、作っちゃえ」
すぐに行動に出た音乃は生年月日からメールアドレスといったアカウント作成に必要な情報を入力した。アカウントはすぐに作ることができた。
「これでピクシブが使える!」
音乃は早速初めてのホーム画面に飛んだ。
「わあ」
そこは音乃にとっては初めての世界だった。
大量のイラストが表示されている。現在公開されたばかりの新規イラストのサムネイルが大量に表示され、ツイッター以上にここは実に「絵を描くためのSNS」だ。
「凄い、ツイッターよりもいっぱい絵がある!」
音乃にはピクシブのイラストや漫画の多さに驚愕した。
「ここで「ラミレスの丘」って検索すれば、ラミ丘のイラストが出てくるのかな?」
音乃はさっそく「ラミレスの丘」「ラミ丘」と検索画面に入れてみた。
するとそこには大量のラミ丘のイラストや漫画のサムネイルが表示された。
「すっごーい! こんなにたくさんラミ丘のイラストあるの!?」
ツイッター以上に大量なラミ丘の作品があって、まるでここは天国のようだ。
何百作といった大量のラミ丘二次創作、これは全て見ようとすれば長い時間がかかるだろう。
「どの人も凄く上手なイラストや漫画ばっかり!」
音乃はその興奮が収まらなかった。
音乃はかたっぱしから最新作から過去ログのラミ丘作品をあさる。
「これも! この絵も! この漫画も! 全部ラミ丘だー!」
大好きな作品の二次創作がこんなにある、音乃はかたっぱしからブックマークを付けていく。
そうしているうちに、ラミ丘の作品で気になったタグを見つけた。
「腐向け? ってなんだろう?」
「腐る」という文字で「腐向け」
何が腐っているというのか? しかも腐向けというのが謎だ。誰に向けているというのか。
何かわからないが、音乃はそれをクリックしてみた。そしてまた衝撃が走る。
「え……、さっきのやつみたい。またアミエルとロシウスが……」
そこにはやはり先ほどのようなロシウスとアミエルの男性キャラ同士が好意を向け合っている的な描写を思わせる絵や漫画がいくつかあった。
先ほどのイラストを見た時と同じ感情が沸き立つ。
なぜだかわからないが興奮してしまう気持ち、男同士になぜ、と。
「で、でも、やばい。もっとこういうの見たい!」
音乃はなぜかそういった絵が気持ち悪いと思うよりももっと見たいという感情に抑えられなくなった。まるで見てはいけないものを見てしまっているようなスリル。その危険な感情がまるにブレーキがかからなくかった。
今までに見たことのない数々の同性愛を匂わせるそういったイラストに次から次へと見たくなった。
そして「腐向け」のタグがつけられている作品はどれもそういった男同士のイラストや漫画ばかりだった。
音乃はピクシブ閲覧に夢中になった。少しだけ、のつもりが見れば見るほどにどんどん抑えられなくなる。明日が休みなのをいいことに、音乃は夢中になった。
それは時間を忘れてしまいそうになるくらいに。
音乃はひたすらピクシブを見ることで夜という時間すらも忘れてしまった。
「もっと、もっと……見たい」
音乃はとにかくピクシブのそういったイラストを見ることがやめられなくなった。
そのまま幾度の時間が流れ、ふと気が付けば、部屋の窓の外は徐々に明るくなりつつあり、雀の泣き声が聞こえた。
「もうこんな時間!?」
時計を見れば、時刻は午前五時を指していた。つまり朝になったのである。あろうことか音乃は夜通しでピクシブ巡りに夢中になってしまっていたのだ。
今までにかつてない興奮、それが止まらなかった。
時を忘れてしまうほどに夢中になってしまったのだ。
「もう寝なきゃ!」
そして慌てて布団に入って睡眠をとった。
その後も日曜日は一旦休息を取り、昼まで睡眠をとったのちに再びピクシブ閲覧に夢中になった。
ひたすらアミエルとロシウス、大好きなキャラ同士が愛を語り合っている作品を見て、それが収まらない。
きっとホモや同性愛といった教育によくないものを見ているという罪悪感はあった。
こんな話、家族にもだが、友人にも誰にも言うことができないだろう。
音乃はなぜか自分の中で新しい道へ禁断の道へと足を踏み込んでしまった気がした。まるで見てはいけないものを見てしまった自分はいけないことだと。こんなこと、決して自分以外に知られてはいけないと。
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