第3話 オタクライフの幸せ
音乃は学校から帰る途中、ラミ丘のコミックスを買う為に本屋へ行った。
コミックコーナーでは「アニメ絶賛放送中!」というポップと共に、「ラミレスの丘」のコミックスが山積みにされていた。
「やっぱり今注目の漫画なんだー」
音乃は自分が買おうとしている漫画がこんなにも注目されているということに嬉しくなった。
ラミ丘のコミックスをまとめて9冊分を手に持つと、ふと雑誌コーナーが目に入った。
表紙に大きく「ラミレスの丘特集」と書かれており、ロシウスの大きなアニメ絵が入った表紙だ。つまりアニメ雑誌というものである。
「この雑誌、ラミ丘について特集されてるの!?」
音乃は9冊分のコミックスを抱えながらその雑誌に釘付けになった。
アニメについての情報はスマートフォンやパソコンといったインターネット端末から公式サイトが見れるために、それで十分だと思っていたが、雑誌にはキャストインタビューといった出演声優のインタビュー記事が載っていると表紙に描かれているのだ。公式サイトにない情報がアニメ雑誌には載っている。
「よ、読みたい……!」
音乃は即座にそのアニメ雑誌を手に取った。
今まで買うことのなかったアニメ雑誌を購入することになったのだ。
さらに雑誌コーナーにあったのは、「アニメ絶賛放送中!」という表示とロシウスの原作イラストが表紙になっている月刊少年フライデーだ。
「こ、これを買えばラミ丘の新しい話が読めるのね……!」
現在読めるのは発売しているコミックスの範囲だが、その雑誌には連載中の原作漫画が掲載しているのだ。
そして原作の続きを読みたいがあまり、今までは買ったことのなかった『ラミ丘』が連載している週刊少年フライデーも購入することにした。
両手いっぱいに九冊分のコミックスと値段の高い雑誌を二冊も抱えてレジに持っていった。
ただでさえコミックス九冊分でも相当な額だというのに、それに加えて高いアニメ雑誌まで買うとなるとかなりの出費だ。
紙袋に商品が入れてもらい、手渡しされる。その重さはかなりのものだ。
「家まで持って帰るのに重い……けどこれでラミ丘を存分に楽しめる!」
音乃は重さも気にせず、家に帰れば読める嬉しさで頑張って家に帰った。
家に帰って部屋にこもり、アニメ雑誌を読んでみた。
ラミ丘の特集ページには見開きにキャラクターのアニメ絵が描かれていた。
一話をイメージした、ロシウスが旅立つシーンの描きおろしページだ
文字の部分にはスタッフインタビューとキャラクター紹介にストーリー解説が掲載している。
さらに付録にはラミ丘のピンナップまでもが付いている。
「このピンナップかっこいい! 切り取って部屋に貼っちゃおう!」
アニメ雑誌にはさらに主題歌CDが発売という記事も載っていた。
「オープニングもエンディングもいい曲だし、いつでも聴きたいな」
主題歌も何度も聞きたくて、さっそく中学時代にお年玉を貯めて買ったiPodにラミストのOPED主題歌を購入していつでも聴けるようにした。
そしてさらに、本屋で購入したラミストが連載している月刊少年フライデーを読んだ。
「ええ、最新話ってこんな展開になってるんだ!」
雑誌の連載分はまだコミックスに収録されていない部分が数話あるために、コミックス最新刊である九巻よりも先の話なのだ。
「でも、いい。まだアニメになってない分も面白い!」
コミックスでまだ読んでない部分の話は飛ぶものの、アニメではまだ放送されてない範囲を先に読むことで先の未来を見ている気分で面白くなった。
コミックスを全巻買い、アニメ雑誌を購入し、さらには連載雑誌で最新話を読む、あっという間に音乃はラミ丘の世界にどっぷりだ。
翌日、登校して生徒玄関で会った綾香にそのことを話す。
「綾香、ラミ丘最新話ってね!」
学校やLINEでは友人とラミ丘について語り合うのが楽しい。好きなアニメを友人と共有できることで、一層楽しさが増す。
「音乃ってすっかりラミ丘にお熱だね」
「うん。綾香がコミックス貸してくれたおかげだよ!」
ある意味自分をここまで夢中にさせてくれた綾香にも感謝だ。
テンションが上がるあまり、音乃はついはしゃいでしまった。
「でさー、ロシウスってね……」
音乃が教室に入ろうとしたその時だ、
「きゃっ」
教室から出て行こうとしたクラスメイトの女子とぶつかった。
「ちょっと、どこ見てるのよ!」
ぶつかった相手はクラスメイトの女子である日村野々花だった
髪は長くつややかで、高級そうなバレッタで髪を止めている。足には黒いタイツをはいていて、制服は上品に着こなし、香水のような匂いを漂わせる。
見た目からは上品さを感じるものの、どこかとげとげしい雰囲気のある女子だ。
入学式の時のクラスの自己紹介で知ってはいたものの、同じクラスでありながらあまり話したことのなかった相手だ。
「ご、ごめんね日村さん」
音乃は謝った。
「ふん、気を付けてちょうだい」
音乃が謝っていても、日村野々花はどこか機嫌が悪そうな態度だった。
そして、音乃の顔を睨みつけると、こう言った。
「あなた、あまり学校でアニメや漫画の話を大声でするものじゃないわよ。女子なのだからもっとおしとやかになりなさい」
日村野々花は、性格としてはツンツンした部分がある。
「本当に、ごめんね」
音乃が再び謝ると、日村野々花は「ふん」と言いながら教室を出て行った。
「音乃、気にしない方がいいよ」
日村野々花が去っていくと、綾香はそう声をかけた。
「でも、確かに私、ちょっと声大きかったかも。周りのことちゃんと見てなかったからぶつかっちゃったわけだし」
音乃は大好きなアニメの話をすることに夢中になったあまり、周囲に目を配らなかったことを反省した。
「おー、相変わらず日村ってこえーわ」
音乃と日村野々花の一連のやりとりを始終目撃していた、クラスメイトの男子生徒がそう言っていた。
「俺、日村と同じ中学校だったんだけど、日村ってすっげー金持ちなんだぜ。父親が社長なんだとよ」
そのことから、やはり日村野々花はあの口ぶりと態度からお嬢様なのだとわかった。
音乃とは生き方が違う。傲慢なところもそれでかもしれない。
「マジで? なんでこんな普通の高校来たんだろ。それなら私立とかもっとお嬢様学校に通うもんじゃねえの?」
「家の方針なんだとよ。あえて庶民の学校へ行くことで普通の生活をすることを学ぶって」
「あいつ、お嬢様だからなのか知らねーけど、ちょっと生意気だよなあ」
「おしとやかにっていうなら自分だってそんなところにいちいち首突っ込むなよと思えるし」
日村野々花にあまりいい印象を抱いてない男子生徒達は愚痴を言っていた。
日村野々花は普段はクラスの中に仲の良い友人グループといつも一緒にいる。
その為彼女は普段、音乃や綾香とはほぼ絡まない。
日村野々花とつるんでいる友人グループの女子ともろくに話したこともないのだ。
学校とは実に様々な生徒達が同じクラスにいるものだ。
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