地獄の滑り台

「何だ……ッ!?」


「動くな、下手すりゃ全身氷漬けになる」


ヴェティが振り返るとユビキタスが難しい表情で立っていた。よく見ると足が床にくっ着いているようで全く動けなくなっていたようだ。


「ユビキタスさん!ヴェティさん!大丈夫ですか!?」


「ゼノか、今の所は大丈夫だ。ヴェティあれを渡してくれ」


ヴェティは急いでポーチから注射器のような物を取り出してユビキタスに手渡す。


「何ですこれ……?」ゼノが怪訝そうな顔でそれを見つめているとユビキタスが目線を足下に下ろす。


「ゼノ。説明は後だ、早くこれを氷に垂らしてくれ」


ゼノはそれに頷きながら言われたとうりに液体を垂らすと一瞬で氷が溶け、ヴェティとユビキタス足が自由になる。


「さて、OCO史上最悪の裏切り者の一人が『門』前の廊下に侵入した訳だが……」


ユビキタスは一部が砕けた分厚い扉を見て溜め息を吐く。


「えっと、早く追いかけなくていいですか?」


いつもなら速攻度飛んで行きそうな二人が動かない事を疑問に思い、ゼノがそう聞くとユビキタスが頷く。


「確かに追いかけたい所だが、『門』の区画は正しい手段を踏んで開けないとセキュリティが作動して侵入者は4ミリ四方の肉片になっちまう」


そう言ってその辺に落ちた瓦礫を廊下に投げ込むと一瞬煙を立てると溶けるように消えてしまう。


「な……ッ!?」


その現象を見たゼノは驚きの声をあげる。


「やっぱりな、ピーラータが通った後からセキュリティが作動してる」


「まずは防衛システムを何とかしないといけない訳か」


ヴェティがそう言うとユビキタスは静かに頷く。


「かなりマズイことになりましたね」


ゼノが心配そうに呟くと、ユビキタスとヴェティは顔を見合わせると顔を見合わせて何かを察したように頷き合う。


「ひとまず、ここは撤退しよう」


ヴェティがそう言うとユビキタスはやれやれと言った表情で出口の方へと歩き始めた。


「あのぅ……理由を聞いても?」


ゼノは振り返って問いかけるとユビキタスが答える。


「俺たちじゃ、お手上げだ。無理やり反転重力で防衛システムを防げたとして五秒が限界だ、だから……」


その時部屋全体に衝撃と鈍い音が響き渡る。


「これは……マズい気がするッ!!」


ゼノがそう叫ぶと同時に部屋全体が大きく傾き、ピーラータが作った隙間へと身体が滑り出す。


「部屋自体を傾けて全員始末するつもりか!?みんなどこかに掴まれッ!」


ユビキタスは瞬時に反転重力を出し、ヴェティはナイフを地面に突き刺し、ゼノはエレベーターの出っ張りにバインドを引っ掛けて滑り落ちるのを止める。


「ヒューッ!!そうはさせないぜ?」


ピーラータがいつの間にか彼らの背後を取っていたようで手に持つボタンを一瞬押したかと思うと無数の弾丸を放ってくる。


「『反転重力』ッ!!」


ユビキタスは能力を使い弾丸を全て防ぐが、その代わりにユビキタス自身を支える反転重力が弱まり身体が少しずつ肉片ゾーンへ動き出す。


「ユビキタスさん!バインドッ!!」


ゼノはもう一方の手でユビキタスの片手を縛り、落下を阻止する。


「ゼノ、助かった……」


しかし、次第に勾配がキツくなりゼノは耐えられなくなっていく。


「不味いぞ、これじゃあ二人とも持たない……ッ!!」


ヴェティもナイフを辛そうな顔をして掴みながらそう言う。


「ユビキタスさん!このままだと全員肉片になっちゃいますー!!」


ゼノの両手は既に限界を超えていてプルプルしていた。


すると、ピーラータが笑いながら帽子を取って大袈裟なお辞儀をしながら言う。


「あばよォ!愉快な野郎どもッ!!」


その言葉と同時に一気に弾丸をばら撒くと同時に部屋の勾配が一気に急になりヴェティのナイフが刺さっている瓦礫が崩れ落ち始め、ゼノのバインド絡めているエレベーターの出っ張りがガタンという音と共に落ち始める。

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