失態

翌日、サランがゼノをいつものように起こしに来ることは無かった。


そして、朝食も昼食もサランは姿を見せなかった。


ゼノは、昨日の事を思い出す度に胸が締め付けられるような気持ちになる。


「僕がもっと強ければ……あんな事にはならなかったかもしれないのに」


そう呟き、日が傾く街を歩いていると突然路地裏に引きずり込まれる。


「うわっ!!」


「静かにしろ」


そこには、全身黒いマントに身を包んだ男がいた。


「な、なんですか!」


「お前ゼノだな?」


「そうですけど……あなたは?」


「……OCO中央司令部のスイッチ2等官だ」


ゼノはハッとする。


「助けに来てくれたんですか!?」


「静かに!」


「す、すみません」


「はぁ……ったく。とりあえずお前、宿取ってるんだろ?そこで話そう」


「はい」


ゼノはスイッチを連れて宿屋に向かった。


ーーー


「……」


「……」


ベットの上に座るゼノと黒髪で紫色のジト目のどこか自信の漂う男、スイッチの間にはなんとも言えない空気感が漂っていた。


「さて、色々聞きたいことがあるが……まずは、これを」


そう言ってスイッチはゼノにカードを投げ渡す。


「これは、僕のIDカード!」


「あと、この世界の『鍵』もな」


そう言うとスイッチは腰に着いている鍵をゼノにチラッと見せる。


「……ちょっと待って下さい」


ゼノは洞窟で拾ったOCOの刻印の無い鍵を取り出す。


「これは……!何処で見つけた?」


「洞窟の中で見つけました」


「そうか……よくやった。お手柄だな」


「あの……どういうことですか?」


「……こんな状況だ、今から話すことは極秘事項だ。誰にも言わないと約束できるか?」


「はい、勿論です」


「よし、まずは過激派分離主義集団『ディヴィデ』についてだ━━」


2年前、OCO内から一部の統制官が一斉蜂起しOCOの一部を占拠した。彼らの主張は『直ちに異世界と異世界を切り離しあるべき姿に戻せ』というものだった。


しかし、その主張が認められることは無く、彼らは保安部によって鎮圧される筈だった。


「筈だった……?」


ゼノは怪訝な表情で聞く。


「D3を知ってるだろ?OCOの最高幹部で最高クラスの能力者なんだが、アレは元々D4、4人だったんだよ」


光の保守者・ルーメン


水の保守者・マリナ


地の保守者・テラ


そして、炎の保守者・サラマンドラ


サラマンドラは占拠した集団を鎮圧する筈だったのだが、彼はその命令を無視。占拠した集団と共に盗み出した原本の鍵を使用して異世界へと逃亡。


そして反OCO組織『ディヴィデ』を結成し、OCOの所持する鍵の盗難、任務の妨害、システムへの不正アクセスなどを行う危険な組織となり今もその目標を達成すべく暗躍している。


「そして、この鍵は恐らくディヴィデが盗んだ物から作ったコピー品だろうな……待てよ」


そう言うとスイッチは無刻印の鍵を丁寧にポーチの中にしまおうとする。


「これは詳しく調べておこう、何かわかるかもしれない。構わないな?」


「はい」


少し勝手な人だと感じたがその気持ちを飲み込む。


「……にしても、その服装と装備よく揃えたな」


スイッチはゼノの姿をまじまじと見る。


「現地の服装に合わせ、目立たないようにする。キチンと統制官のイロハは学んだみたいだな」


「えっと、これは……サランさんが」


そうゼノが呟いた時スイッチの目付きが変わる。


「今、サランと言ったか?」


「はい、サランさんが選んで、お金までくれまして……」


「そうか……」


スイッチは黙り込み、しばらくしてから口を開く。


「まさかとは思うが、ダスティネス・マーカ・サランじゃ無いよな?」


「いえ、そのサランさんです」


ゼノがそう言うとスイッチは鬼の形相で椅子から立ち上がりゼノに詰め寄る。


「なんて事をしてくれたんだ!!ゼノ!」

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