仲間
「うぅ……」
ゼノは意識を取り戻し、体を起こす。
全身が痛み、まともに動けない。
どうやら、気絶している間に洞窟内の川の近くまで流されたらしい。
「そうだ、サランさんは!?」
ゼノはサランを探すため、なんとか立ち上がる。
「ぐっ……」
頭を強く打ったせいか、頭痛が酷く吐き気がする。
「わっ……!」
思わずよろけて岩肌にもたれ掛かると、そこに小さな窪みがあり、そこから微かに光のようなものが漏れていた。
「なんだろ」
ゼノはそこに近づき、覗き込む。
「これは……?」
そこには、不思議な模様が描かれた1枚のカードがあった。
「これは……『鍵』?」
ゼノは恐る恐るそれを引き抜くとよく見つめるとあることに気づく。
「OCOの刻印がない……」
この鍵にはあの時見たようなOCOの文字は刻まれていなかった。
ゼノは鍵をベルトに差し込んだ。
「よし、行こう」
ゼノは立ち上がり、出口を目指す。
幸い、激しい水の流れは止まっていた。
「サランさん……大丈夫ですよね」
ゼノは祈るように呟く。
ゼノはサランを探しながら川の流れに沿って歩く。
運良く、外に出ると日が傾いていた。
「まずいな……」
夜になると魔物の活動が活発になる。
早くサランを見つけないと。
「サランさーん!」
ゼノは叫ぶが返事はない。
その時微かに声が聞こえる。
「ゼノ殿ー!いらっしゃいますかー!?」
聞き覚えのない声が聞こえた。
「どなたですかー!?」
「こちらです!お迎えに上がりました!」
「今行きます!」
ゼノは声の方へ駆け出す。
しばらく走ると、そこには軽装の騎士のような格好をした人が待っていた。
「よかった!ご無事だったんですね!」
1人の馬に乗った人物がゼノに話しかける。
「あなたは?」
「我々はダスティネス・マーカ・サラン様の従者のバーリです。ゼノ様が行方不明になったとの事で捜索隊を結成しお探ししておりました」
「そうでしたか、僕は大丈夫です。サランさんは?」
「サラン様もご無事です」
「……良かった」
ゼノは安堵のため息をつく。
その後、従者の馬に乗せられて街へと戻った。
サランとはギルドの酒場で再会した。
「ゼノ……よかった!!」
サランは涙目になりながら抱きついてきた。
「わっ!!」
ゼノは驚いて変な声を出してしまうが、サランの顔を見ると自然と言葉が出てくる。
「サランさん、心配かけてすみません……」
「本当だよ!もう!」
サランは頬を膨らませて怒っている。
「でも、助けに来てくれてありがとうございます」
「まぁ、私も悪かったし……それに」
サランは離れてから涙混じりの笑顔で言う。
「仲間だから……当たり前」
(仲間……)
ゼノは心の中でその言葉はこだまする。
しかし、その時ギルドに初老の男が入ってくる。
「サラン……!無事だったか!本当に良かった!」
男はサランを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。
「お、お父様!!」
サランは父親に抱きしめられると赤面すると同時に慌てた表情となる。
しばらくすると、父親はサランから離れるとゼノの方を向く。
「…して、君が……ゼノ君だね」
淡白として声色でサランの父親はゼノに問いかける。
武器屋の主人の言葉を信じるならサランの父親という事は貴族の筈だ、娘に怪我させたとなると何をされるかわかったものではない。
「は、はい!あ、あ、あの、その……こ、これには事情があってですね……」
サランの父親はゼノに早足で近付く。
ゼノの顔色は真っ青になるとほぼ同時にサランの父親はゼノの前に立つと。
彼は深々と頭を下げる。
「サランがご迷惑をお掛けしました。申し訳ありません」
「えっ……」
ゼノは予想外の出来事に唖然としている。
「娘があなたを危険な目に遭わせてしまった事を深く謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」
ゼノは慌てて答える。
「いえ、元はと言えば僕が黒いスライム探しを手伝って欲しいとお願いしたのが…」
「そういうわけにはいきません。これは領主ではなく親としての責任です」
サランの父親は頭を下げたまま言う。
「今後サランには、このような事がないように厳しく指導します」
「そ、そんな!頭を上げてください」
「いいや、これはけじめです。冒険者も辞めさせます」
サランの父親がそう言うとサランは驚く。
「なっ……!?お父様!それはあんまりです!私は絶対に嫌です!」
「……話は家でしよう。サラン」
サランの父親は厳しい口調で言う。
「ゼノ……」
サランは俯きながら小さく呟く。
2人は護衛に連れられながら先に酒場を出て行った。
「サランさん。僕のせいで……」
ゼノはその場に立ち尽くし、拳を強く握りしめていた。
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