鍵保管庫

「じゃじゃーん!ここは『鍵保管庫キールーム』異世界に行くための『鍵』がたっっっくさんしまってあるんだよ!」


シエナがそう言って両手を広げる場所はまるで巨人の図書館のように積み上げられた棚にカードキーの様な物が大量に吊るされて収納されていた。もちろん直接入ることは出来ずにガラスで覆われていた。


「すごい数だ……」


ゼノは圧倒されながらもガラス越しにその棚を見渡す。


「でも、なんで『鍵』が必要なのかな!?ワープしちゃえば良いのに!」


シエナが大声でそう言う。


「異世界に行くための『鍵』正しくは『クラーウィス』は、いわば地図、この無限の可能性が存在する『狭間の宇宙パラレルユニバース』を安全に進むためのルートを記録してる媒体ッス……それが無いとこの船から安全に目的地へ出る事はできないッス……」


後ろから声が聞こえ、振り返るとそこにはヴェティよりは短い髪を後ろで纏めOCOの制服の上からカーキのカーディガンを着てメガネを掛けたのゼノと同い年ぐらいの男が紙のコーヒーカップを片手に立っていた。


「いや、すいません……なんでもないッス……いや本当、ごめんなさい」


そう言って彼は横を早足で通り過ぎようとしたその瞬間。


「うわぁ!?」


何も無いのに……コケた……?


「ちょっ!大丈夫ですか?!」


ゼノが慌てて駆け寄る。


「はい……平気ッス……慣れてますから……あ、」


彼は床に広がるコーヒーを静かに、そして哀愁漂う背中で見つめる。


「あ、あの、立てますか?」


ゼノが手を差し出すと、


「ありがとうッス……」


と言って手を握り立ち上がる。


「本当にすみませんでした……自分ドジで……よく転ぶんッス……」


「そ、そうなんですね……」


なんだか凄い申し訳なくなってきた。


「……えっと、自分はスキエンティア二等官……ッス」


頭を掻きながら言う。


その時、「あ!こんなとこに居たんですね!部長ーー!!」


と遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえた。


「ちょっ!?リベロ三等官、あんまりそれで呼ばないで欲しいッス……プレッシャーが……」


スキエンティアは頭を掻きながら目を逸らして言う。


「「リベロ(さん)!!」」


ゼノとアルが驚いで叫ぶ。


「ゼノ!?アル!?」


リベロも拍子抜けした顔で叫ぶ。


「あれ?リベロ三等官、お2人とも知り合いなんッスか……?」


スキエンティアが尋ねる。


「はい!私たち、試験で同じチームだったんです!」


リベロが答える。


「それより……部長って……?」


ゼノが聞く。部長と言えばユビキタスクラスの実力者という事なのだろうか。


「あぁ……それは前任者がちょっと訳ありで臨時でぼくが就任したッス……あぁ……なんでぼくが……技術開発部部長なんて大役を……」


スキエンティアは頭を抱える。


すごい負のオーラを漂わせているスキエンティアだったが、ふと、こちらを向くとそのオーラが消えた。


「それであなた達はどうしてここにいるッスか?今は……」


ベチャッ……


何かが落ちる音がする。


「今、また何かこぼれ……」音の方を見ると、そこには黒いゲル状の塊がコーヒーの水溜まりを吸い取っていた。


「キャ!?」


リベロは悲鳴を上げながらスキエンティアの後ろに隠れる。


「……これ、なんですか?」


ゼノは恐る恐る指を指す。


「これは……!?もうここまで来てたッス!!」


スキエンティアは素早く腰に手を回し小瓶に入った鉱石のような石を水溜まりにぶちまけ


「『オーバークロック』!」


と呟く。


すると、瞬間鉱石が赤く光だし、水溜まりはみるみると蒸発していった。


「なにが起きたんですか!?」


ゼノは驚きながら問う。


「これはあの能力の妨害ができる石ッス、でも、次来たらもう限界ッスね……」


スキエンティアは黒く崩れ落ちて行く鉱石を見て言うと、端末を取り出す。


「とにかく、リベロ三等官も含めて事態が収まるまで別のエリアに移動するッス」


そう言うとスキエンティアは『鍵』が保管されている棚からそれを取り出す為のキーパッドへ急いで行くと、ガラス越しに心配げな表情で鍵を見ると、表情が一瞬で変わる。


「さっきはデコイだった……!?」


鍵が保管されている棚に人型のスライムのような物が鍵を回収して回っていた。


「ああぁ……まずいッス!!『鍵』が!」


その瞬間、天井のダクトが蹴り破られ、1人の男が飛び降りて来る。


「ヴェティ!!?」


シエナが驚きの表情で叫ぶ。


刹那、ヴェティはスライムを片手に持っていたナイフで切り裂き、持っていた鍵を全て奪い、棚にしがみつく。


「お前みたいな野郎を俺はずっと駆除して来たんだよ……ゲル野郎」


そう言いながら鍵を腰のホルダーに着けた後、再びスライムに向かってナイフを構え飛んで行く。


しかし、スライムは近くにあった鍵を1つ回収するとダクトに凄まじまい勢いで消えていく。


『クソ……ゼノ、アル、シエナ『門』へ先回りしてくれ』


ヴェティの声がアルの能力越しに聞こえる。


「了解!」


ゼノは返事をし、ガラス越しにこちらを見るヴェティに敬礼するとヴェティは小さく頷くと、ダクトに潜り込んで行った。


「行こう!」


ゼノの声を聞くとアルとシエナは頷いて言う。


「『門』はこっちッス!!リベロ三等官はぼくと来てほしいッス!!」


スキエンティアが走り出しながら叫ぶ。


「はい!部長!!」


リベロもそれに続く。


「僕たちも急ごう」


「はい!!」


「行くよーー!!」


3人はスキエンティアの指した方へ駆け出した。


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