《編》鱗

「ガッ……」


ゼノは出口を塞いだツタに背中を強く打ちつけ、苦しそうな声を上げる。

「戦闘不能……終わりですね」


テラはゼノの首筋に大鎌を当てる。


「……ま……だだ」


ゼノは苦悶の表情を浮かべながらナイフを握り締める。


するとナイフから不思議な青色の光が溢れる。


テラはそれをみて驚きの声をあげる。


「これは……!?」


彼女はそう叫ぶと大鎌でナイフを弾き飛ば《せない》。

《大鎌は弾かれる》


「やはり、《編集》……!?」


テラはゼノを驚きの表情で見つめる。


「権限は無いはずッ!?」


ゼノはツタの壁に背中を付ける《と、すり抜ける》

そして、ゼノは出口の地面にぶつかる。


「アダっ……!」


「何なんですか、あなたはっ!?この時間で3回も《改変》を……」


テラは驚きの声を上げる

ゼノはツタ越しにテラの顔を見て言う。


「僕は……わからないです」

ゼノは息を整えて立ち上がる。


「ただ……」

「ただ?」


テラは怪しげな目つきで見る。


「これで、試験は終わりですよね」


ゼノは少し微笑みながら言う。


「えぇ……そうです。ゼノ」


テラはどこか悔しそうに答える。


「……失礼します」


ゼノはそう言って仲間達へ向かってヨロヨロと歩き出したのだった。

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〜試験官室〜

「《編集》による、《修正》を感知、間違い無く、ゼノが行使したのは《編集》の力です」


試験官の一人がユビキタスに報告する。


「本当に《編集》だったとは、驚きだな」


ユビキタスは両腕を組みながら言う。


「しかし、あの少年は何者なのでしょう?権限も無いのに、この短時間で3回の《編集》を連発して行使しています」


試験官は資料をユビキタスに渡しながら言う。


「……ああ、異質だ」


ユビキタスは考え込む。


「そして、これは……?」


彼はそう言いながらゼノのチームの受験票を静かに眺める。

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「ボロボロだが、何とかなったな。大丈夫か?」


フォッサがゼノの肩を持つ。


「ありがとうございます……」


ゼノが申し訳なさそうに言う。


「構わない、それにしても名案だったな」


フォッサが誇らしげな笑顔で言う。


「あれは、皆さんの力が合わさって成功した作戦ですよ……」


ゼノは照れくさそうに頭を掻きながら言うが身体の節々が痛むようだ。


「謙遜しないっ!ゼノがいなきゃ私達はテラさんに勝てなかった!」


リートレがゼノの背中をバンッと叩く。


「痛い……」

「それにしても、ゼノさん。ずっと能力を隠してたのは一本取るためだったんですね!?」


アルが興奮気味に尋ねる。


「あー……そう、だね」


あれは本当に僕の力なのだろうか、何か違うような、どちらかと言うと僕の『力』では無くこの世界に元からある『力』のような感じがする。


何故だろう。


そう思いながら、通路を歩いて行くと、最初の集合場所に出る。


そこには、ユビキタスが立っていて、全員の顔色が変わる。


(まだあるのか……!?)


しかし、そんな考えは彼の拍手によってかき消される。


「お疲れ様、無事合格だ」


「よ、良かったぁあああ……」


アルは安心したのか、声を上げてその場に座り込んだ。


他の皆もホッとした様子で腰を落としていた。


「かなり怪我しているようだな、治療しよう。こちらへ」

「ワワッ!!」


ユビキタスは能力を使い、全員を浮かせて医療室へ運ぶと、ベットに1人ずつ乗せる。


「ドクター!」


ユビキタスが呼ぶとバタバタと奥の方から物音が聞こえてくる。


「はい!はい!はい!ただいま!ただいま!!」


ドクターと呼ばれた茶髪のポニーテールに赤十字の髪飾りをつけ、ジーンズに黄緑色のパーカーの上から白衣を羽織った女性がフラスコと杖を持ちながら勢いよく飛び出してきた。


「やあ!私はアルス・マグナ。みんなはドクターって呼んでる……んだっけ?」


彼女はユビキタスの方をむく。


「安心しろ。少々変人だが、腕は確かだ」

「なァっ!?誰が変人だってェ!?」


彼女はユビキタスに掴みかかり服を引ってユビキタスを揺さぶろうとするがビクともしない。


「……お前以外にいるか?アホ」


ユビキタスは能力で引き寄せたバインダーで彼女の手を払い除ける。


「うわぁぁん!!酷いィイイーッ!!!アホじゃないもん!天才だもぉおおおん!」


彼女は泣き叫びながらベッドで横になっているいるゼノ達の方へ逃げる。


「はぁ……元気だな……」


ユビキタスは呆れた表情を浮かべため息を吐いた。


「お!君が噂のゼノ君かー……ふぅ〜ン?」


ドクターはまじまじとゼノの顔を見つめる。


「……何ですか?」


ゼノは照れ臭そうに顔をそむける。


「別にぃ〜?フゥ〜〜〜ン?」


彼女はニヤリと笑いながら言う。


(この人は苦手かもしれない)


「おい!早く治療を!」


ユビキタスがドクターに怒鳴ると、ドクターは


「はいはい……んー、この程度ならこっちで充分だね」


と言って杖を振り上げる。


すると、体中にあった傷や痛みが引いて行く。


「すごい……」

「どうだい!?これが私の『魔法』さ!」

「ありがとうございます」


ゼノが礼を言う。


「いいってことよォ!その代わり……」

「代わりに……?」


ゼノは首を傾げる。


「今度一緒にお茶しなさ…アダっ!」


ユビキタスが凄い顔でバインダーの角でドクターの頭を叩く。


「何言ってるんだ貴様は……?バカなのか?死ぬのか?それとも両方かァ???」


バインダーの角でドクターの頭をグリグリする。


「痛いっ!痛いよォ〜……もうちょっと優しくしてよ〜……私女だよォ……?」


ドクターは涙目で頭を抑える。


「静かに」

「はひぃ……」


ユビキタスが一喝すると、彼女はしゅんとなって大人しく引き下がった。


「はぁ……全くコイツはいつもこうなんだ……気を抜くとあいつのペースに巻き込まれて全部持ってかれる……」


ユビキタスは呆れてため息をつく。


「えっと……」


ゼノは困ったように言う。


「あぁ、悪いな。疲れたなら、しばらくはここで休んでてもいいぞ」


「ありがとうございます、じゃあお言葉に甘えて……」


そう言うと、ゼノは目を閉じて静かに眠りについてしまった。

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