ゴールキーパー

彼が光に消えていってすぐに、宙に浮いていたリートレや押さえつけられていたリベロ、そして壁に張り付いていたフォッサが解放される。


「ゲホッゲホッ……私のとっておき、使っちゃったよぉぉ……」

リベロはその場に座り込む。


「……私も能力に必要な水が、かなり減った、もうあんまり戦えないかも。ごめん」


リートレは申し訳なさそうに言う。


「……少々痛むが、何とか無事だ。しかし……」


フォッサは折れた自分の剣を見る。


「これでは戦いようがないな……」


「実技キツいって聞いてたけど、まさかここまでとは、思わなかったよ」


リベロはそう言うと、フラフラしながら立ち上がる。


「皆さん、ごめんなさい。私が拐われたせいで、こんな事になってしまって……」


アルは俯きながら謝る。


「気にしないで下さい、僕達は仲間じゃないですか!」


「そうだぞ、アル。それにまだ負けたわけじゃ無い、ゴールを目指すぞ」


フォッサはそう言うと折れた剣を鞘に戻し歩き出す。


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迷路を進んでいる途中、ゼノはふと疑問に思う。


「そう言えば、他のチームはどうなったんだろう」


「確かに、さっきから誰とも会わないですね……」


アルも首を傾げる。


「もしかすると……」


フォッサが何か思いついたように口を開く。


「さっき私たちはあの重力使いに襲われた、理由は分からないが裂け目に帰って行った。だが、もし、それが試験の一環なら?」


フォッサの発言に皆が息を飲む。


「他のチームはもう既に他の刺客によって壊滅させられたかもしれないって事ですか?」


フォッサは頷く。


「でも、ゴールしたチームもいるはずだよね?」


リベロが明るい声で言う、しかしフォッサは苦い顔をする。


「だが、1つ気になることがある、それは総合試験官が言っていた『ゴールキーパー』私の考えが正しければ、恐らく奴らは……」


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〜脱出ポイントA〜


「うーん、まだ1回も刀、抜いてへんのになぁ」


軍用コートの上から青色の着物を羽織ったエセ関西弁を話す男が倒れている複数人の受験生達の中心で刀を触る。


「実力のない奴ァは、現場じゃ死ぬでー……」


〜脱出ポイントB〜


「今年の受験生は質が悪いわね……私の能力は戦闘向きじゃないのに……」


黒いロングヘアーの女性がそう呟く、彼女の周りには複数の受験生達が水に濡れて倒れている。


「数人は逃がちゃった、けど……まあこの位なら大丈夫……よね、多分」


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『D3ィイイイ??』


ゼノ以外が声を合わせて言う。


「えっと……D3って、なんですか?」


「……お前、ほんと、何も知らないんだな必要な学科の勉強しかしてなかったのか?」


フォッサが呆れた口調で言う。


「はい!D3の事なら私が説明するよ!」


リベロが手を挙げながらぴょんぴょんする。


D3、それは異世界統制官を雇用している異世界間を繋ぐ機関、異世界統制機構通称、OCOの幹部、3人の事を指す。


OCO内で最高の権限を与えられ、組織の実質的運営を行っている集団であり。


保守者と呼ばれている。


「保守者(Defender)で3人だからD3……なんですかね」


「たぶんそう、んで3人の名前は……」


リベロは力説する


【光の保守者「ルーメン」】


【大地の保守者「テラ」】


【水の保守者「マリナ」】


「あれ、テラって……」


「あぁ、今回の総合試験官だ、そして保守者という点とわざわざゴールキーパーと言った点、無関係だとは思えない」


フォッサが言う。


彼の言葉には妙な説得力がある。


「もし、本当にD3がゴールキーパーをしているとしたら、さっきのユビキタスさんよりも強敵と戦うって事ですよね?」


ゼノは冷や汗をかきながら聞く。


「だろうな、だがこの消耗具合だ」


フォッサは剣を触りながら答える。


「正直、今の私たちでは勝てるかどうか……」


「そうだねぇ、私の能力使うにしてもなぁ……」


アルとリベロも暗い顔をしながら話す。


「……僕に、任せてもらえませんか」


ゼノが真剣な表情で呟く。


「ゼノさん……」


アルが心配そうな目で見る。


「僕に、考えがあります」


彼は拳を強く握りしめていた。


「私は、賛成」


リートレが即答する。


「……確かに、私達にはアイデアも無いし、さっきのユビキタスわ最終的に追い払ったのものゼノだったしね、私も賛成だよ」


リベロも同意する。


「私も、ゼノさんを信じます」


アルも賛同した。


「わかった、頼めるだろうか」


フォッサも頭を下げながら頼む。


「僕に任せてください!」


ゼノは笑顔で答えた。


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〜脱出ポイントC〜


ゼノは開けたドーム状の場所に到達した。


そこは森のような場所で、中央の草原に一人の女性が静かに佇んでいた。


「ようやく、来ましたか……おや一人なのですね」


「貴方が、D3の大地の保守者テラさんですか?」


「よくご存知で」


彼女はそう言うと、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


ゼノ以外のメンバーは草むらの中に息を潜めていた。


「『皆さんは、2回目の音が鳴ったら出口に進んで下さい』だ、そうです」


アルが小声で伝える


「しかし、それではゼノが……」


フォッサが食い下がる。


「大丈夫、何か考えがあるんだよ」


リベロが小声で言う。


「ならばいいんだが……」


フォッサは心配そうに言って前を見る。


「ゼノさん……でしたね?」


テラは微笑みながら話しかける。


「はい」


「先程の戦闘、拝見させていただきました。ユビキタスをどうやって説得したのか是非詳しく聞きたいものです」


テラはメガネの位置を直す


「そうですか……」


ゼノは自身の腰に手を回す


「しかし、残念な事に今回は面接をするつもりでここにいるわけではありません。私はD3の一人、大地の保守者テラ、あなたが本当に統制官に足る人間か、試させて頂きます」


テラはそう言い放つ同時に、ゼノは腰に取り付けていたリベロの爆音グレネードを2つテラに向かって放り投げる。


「……あら」


1つはテラの目の前に、もう1つは明後日の方向へ飛んでいってしまった。


テラは驚きながらも、瞬時に地面から土の壁を出現させ爆発を防ぐ。


壁は崩れるが、その間にゼノは彼女の横を通り過ぎ出口に向かう。


「……逃がすとお思いですか?『鋼緑コウリョク』」


テラは右手を地面につけると、地中からツタが凄まじい速度で成長し、ゼノの腕に絡まる。


「ずっと誰も来なかったので、退屈していたんですよ!」


ゼノは腕をツタごと引きちぎろうとするが、全く動かない。


「無駄ですよ、この植物の強度は鉄を遥かに凌駕します」


テラはコートの下から取り出したのか、大鎌を構えていた。


「安心して下さい、生命いのちまでは取りません」


彼女はそう言って大鎌の背を振り下ろそうとする。


その時、 バァァァアアン!! テラの後の方で大きな音が鳴り響く。


「まだ他の仲間が……?」


テラは思わず音の鳴った方を見る。


その隙を狙い、ゼノはフォッサから貰ったナイフを引き抜く、すると音を感じ取ったフォッサが素早く呟く。


「『星光の剣』」


その瞬間ナイフに緑色の光が纏われ、ゼノはツタを切断し、出口と思われる方向に走り出す。


『皆さん!今です!!』


テレパシーを確認した仲間も草むらから飛び出し、出口に一直線走り出す。


「おや…これは、一本取られましたね……」


テラはそう言うと大鎌を肩に載せて目を瞑る。


フォッサ達はゴール目前に差し掛かる。


「こんな、簡単に逃げ切れると思いましたか?」


テラが目を見開くと同時にゴールは巨大なツタで塞がれて行く。


「皆!食いしばって!」


リートレがそう言った瞬間彼女の腰に着いていた水筒から水が吹き出し、彼女の肌を伝い、皆を覆い、その後ジェットのように吹き出す推進力で皆をゴールに滑り込ませたのだ。


ただ、一人を除いて、

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