おもい
「ゼノのチームだったとは……な」
ユビキタスはそう呟く。
「ゼノ!下がって!!『ロックアウト』!!!」
リベロが壁に触れながら叫んだ瞬間、壁を固定してあるであろうボルトが一斉に吹き飛び、ユビキタスは壁の下敷きになる。
はずだった。
倒れたはずの壁はユビキタスの頭上で完全に静止していた。
「なんでぇっ!?」
刹那ユビキタスの頭上の瓦礫が砕けユビキタスの周りをふよふよと浮遊する。
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〜試験官室〜
試験官室では数十人の試験官達がモニターを眺めて各チームを監視していた。
「チームβ-8ユビキタス二等官と遭遇」
試験官の一人が報告を入れる。
「ユビキタスさんですか、可哀想に」
テラは同情するように言う。
「総合試験官!ユビキタス二等官から戦闘許可が要請されました」
試験官が一人がテラに返答の許可を求める。
「許可します。」
「了解」
「本当に大丈夫なんやろな?テラはん」
一人の男が不安げに尋ねる。
彼はカーキの軍用コートの上から青色の着物を羽織りシアン色の鞘に入った日本刀を椅子の横に立てかけていた。
「心配はいりませんよ、ルーメン1等官」
「しかし、相手はあの"ユビキタス"やで?下手したら……」
「そこはセーブできるでしょう、彼も子供ではありません」
それを聞くとルーメンは難しい顔をする。
「“あの子”が関わってるからなぁ……最悪の場合を想定して動かんと……な」
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「悪いが、ここで終わりだ」
ユビキタスはそう言うと同時に無数の瓦礫のを弾丸のようにゼノたちに向けて射出する。
「『ウォータースピヤ』」
リートレがユビキタスの前に立ち塞がり瓦礫を全て砕き切る。
「『反転重力』」
「キャッ!?」
リートレは強制的に空中に浮かび上がられる。
「まずは、一人」
ユビキタスがそう呟く。
「これでも喰らえ!!」
リベロが盾を構え、突撃するが、その場に両膝を着いてしまう。
「『重力増大』」
「グッ…まだまだぁ!!『ロックアウト』!!」
リベロが叫ぶと同時に盾の正面の防弾板が吹き飛びユビキタスの目前へ到達すると同時に、細かく刺されていた全てのボルトが一斉に弾丸のようにばら撒かれる。
しかしそれらは全て空中で止められる。
「それも予想済みっ!!」
リベロがそう叫ぶど同時にボルトが凄まじい光と爆発音を放ちながら爆発する。
「……閃光弾!」
ユビキタスは咄嵯に腕で顔を覆う。
その隙を見て息を潜めていたフォッサが力を振り絞り、凄まじい踏み込みで斬りかかる。
「うおぉぉぉぉ!!!」
しかし、その剣は空中で止められて、そのままへし折られる。
「クソっ!?」
フォッサはゼノの方を見る。
「ゼノ……!」
瞬間フォッサは吹き飛ばされ、壁に凄まじい勢いで叩きつけられる。
「壁と仲良くな」
「クソっ……!」
ユビキタスは静かにこちらを見つめる。
無理だ、僕には能力も自分だけの武器もない。
どうすれば……どうすればいいんだ……逃げるしか無いのか?
その時、脳裏のアルの笑顔が浮かぶ。
「僕は……」
そうだ、ここで逃げたら終わるんだ。
僕はここまで流されて来たけど
僕はもう一度覚悟する
僕は、アルさんと統制官になるんだ!
「……」
ゼノはナイフを引き抜く。
「僕は逃げない、アルさんも見つける」
「……」
「皆で統制官になるんだ!!」
ゼノはユビキタスに突進して行く。
「……お前にあの子の何がわかる?」
ユビキタスは表情を変えずに言う。
「え?」
次の瞬間、ゼノの腹部に強い衝撃が入る。
「ぐぅっぁぁあ!」
そのまま後ろに吹き飛ぶと思ったが、ゼノは空中に打ち上げられ、その場で回転する。
「な……にが………」
回転するゼノの横にユビキタスが立つ
「甘いな、ゼノ」
ユビキタスはそう言いながらゼノを横に蹴飛ばす。
「がはっ!!ゲホッゲホッ……ァァ」
ゼノは壁に激突し床に落ち、血を吐く。口の中が切れたのだろう。
「まだ……」
ゼノはよろめきながらも立ち上がる。
ユビキタスはため息をつく。
「……やれる」
ゼノはそう呟くと、ナイフを構える。
刹那ユビキタスが間合いを詰め、ゼノの頭を掴み、
廊下の端のまで凄まじい速度で移動し、壁に叩きつける。
「がはッァァア!!」
ユビキタスはゼノの頭を離してから言う
「あの子はこの仕事に関わってはならない」
静かにそう言うとゼノに背を向ける
「あの子は何も知らなくて良い、ただ幸せに生きて行けばそれで良いんだ……」
ゼノは背中に向かって叫ぶ
「お前が勝手にアルさんの幸せを決めるな!!!」
ユビキタスは振り返りながら答える。
「お前に俺の気持ちが分かるか?手塩をかけて育てた娘とも言える子が命の危険に晒される不安が!」
「だからって……アルさんの気持ちを無視するなんて間違っている!」
ゼノは頭を抑えながら訴える
「あの子は普通に恋をして、普通の家庭を築き、幸せな人生を送れば良い、それだけで十分なんだ、あの子の為にも……」
「それじゃ、なんでそんな悲しい顔をしているんですか……」
ユビキタスはハッとしたような顔をする。
「それは……ッ!「あなたがアルさんの事を本当に大切に思っているなら、どうしてちゃんと彼女と向き合わないんですか!!」
ユビキタスは俯き、黙り込む。
「……俺はお前のような子供に諭されるほど落ちぶれてはいない」
ユビキタスはそう呟くとゼノを再び浮かせる。
『もう辞めて下さい!!』
脳内に声が響き渡る。
「この声は……」
ユビキタスがそう言って振り返ると、そこにはアルの姿があった。
「クソ……あの閃光弾で能力を切って、」
『ユビキタスさん、これ以上はやめて下さい』
ユビキタスは無言でアルを見つめる。
『私もゼノさん達も諦めません、必ず統制官になります』
ユビキタスは苦々しい表情を浮かべる。
「でも、ユビキタスさん……」
アルはテレパシーでは無く声を出す。
「ユビキタスさんはあの時言ってくれたじゃ無いですか……」
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9年前
猛吹雪が吹き荒れる山をアルは歩いていた。
彼女はその不思議な目と能力を理由に邪神の捨て子として迫害された後に部族から追い出されたのだった。
「山の頂上に行けば……!呪いが解けるって!!」
彼女はそう呟くと更に歩を進める。
「ハァ……!ハァ……!」
その時、彼女の視界がぐらつき、山頂に手を伸ばしたまま倒れてしまう。
その時、1つの人影が吹雪にの中から手を差し伸べる。
アルは震えながらその手を取る、すると唐突に景色が変わり、ユビキタスに抱えられながら廊下を走っていた。
「目を覚ましたか、もう大丈夫だ」
ユビキタスはアルの顔を見ながら言う
「君は自由だ、もう縛られることはもう無い」
「これから何にでもなれるんだ」
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「ユビキタスさん、尊敬してますし私はあなたが大好きです……」
アルは拳を握る
「だから!貴方みたいに昔の私みたいな人を救えるような、同じ所に私も立ちたいんです!」
アルの目には涙が溜まっていた。
「アル……」
ユビキタスは蚊の鳴くような声で呟く。
彼はゆっくりとアルに近づくと抱きしめる。
「……大きくなったな」
そう言って頭を撫でる。
『ユビキタス二等官、時間です。戻りなさい』
ユビキタスの脳内にテラの声が響く。
「了解」
ユビキタスはそう言うと、ゼノに近づき言う。
「ゼノ、その根性は統制官向きかもな」
ユビキタスはそう言うと、同時に空間が裂け、光が漏れる。
「試験はまだ終わってない、最後まで頑張れよ」
ユビキタスはそのまま光の中に消えていった。
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