試験会場

「……」


アルが無言のまま固まる。


まずい、怪しまれてるか?いや、よく考えてみれば受験者なのに会場を知らないのは怪しすぎるッ!?


「えっと……」


これは疑われてるよなぁ、どうしよう。もしかしたらこのままさっきの警備部とか言うのに突き出されたり……


「やっぱりそうですよね!ここら辺通路とか複雑で迷いやすいですよね!わかりますっ!」



アルはぱぁぁぁあっとした笑顔を向ける。



か、かわいい……僕は女の子に弱いという事実を静かに噛み締める。


「そ、そうですよ。迷子になっちゃって、」


「そうですよねー、私も最初の頃は本当に大変でした」


「あはは……」


「案内します!試験会場はこっちです!」



とりあえず僕は彼女に案内して貰いながら廊下をしばらく歩いて行くと、開けた場所に出る。


そこは大きな建物の中に町を作ったかのような場所だった。


植物や芝生などもあり、先程の殺風景な空間とのギャップに驚く。



「すごい……」


「ここは私もよく来ます!植物が多くて人もいっぱい居るのでお話も出来ますし……」



そして、周りを見ると僕達と同じ受験者であろう人達が談笑したりしている。



「ここで待っててください!準備を済ませてきます!」



そう言ってアルは走って人混みに消えていった。



「やあ、君も受験者かい?」



僕は隣にいた藍色のマントを羽織り、ゴーグルを着けているせいで瞳が見えない男に声をかけられる。



「は、はい……あの、あなたは?」


「ああ、急に失礼。僕のコールサインはフォッサ。君と同じく採用試験を受けに来たものだ」



そう言って彼は笑顔で手を差し出す。



「えっと、ゼノです、よろしくお願いします」



僕は彼の手を握り握手をする。



「ところで君は……この試験何をするのか知っているかい?」


「えー……と、」



知っているはずがない。


そもそもこの世界に転生してきたばかりなのだから。



「知らないのか!?冗談だろ?じゃあ君はどうやって筆記試験を……?」


「それは……」


「お待たせしました!!」



僕がボロを出しそうになった時、丁度アルが戻ってきた。



ナイスタイミングだ。



「彼女は……?」

フォサが尋ねる。



「ああ、えっと……」


「私はアルビトリウムです!アルと呼んでください!」



アルは元気に自己紹介をして頭を下げる。



「そうか、私はフォッサ。よろしく」



そう言うとフォッサは右手を出す。



「はい!よろしくお願いします!」



アルは嬉しそうに笑顔で答える。



その時、1人の女性がステージ上に登壇する。

その女性はベージュ色のコートを羽織り、コートと同じ髪色でミディアムヘアーに黒いリボンを2つ付け前髪を編み込んでいて、銀縁の丸メガネをかけた知的な女性だった。



「それでは、受験生の皆様説明を始めさせていただきます」



彼女の声が広い会場内に響き渡る。



「いよいよだな……」



フォッサはそう呟くと、ステージに向かって歩き始める。


ゼノも急いでその後を追いかけ、アルも続く。



「まずは、自己紹介からさせていただきます。異世界統制官採用試験の総合試験官を務めさせていただきます、テラと申します」



彼女はそう言うと軽くお辞儀をする。



「早速ですが、試験内容についての説明をさせて頂きたいと思います。これから皆さんにはグループに分かれて行動してもらいます」



そう言うと、彼女は手元にある資料をペラリとめくる。



「まずは5人組のグループを作って下さい。お互いの能力等の情報を公開していただいても構いません。又、コールサインでのやり取りをお願いいたします。それでは始めて下さい」



すると、周りにいる人達が次々と動き始めていく。


どうやら、知り合い同士で集まっているよう。


なんか苦手だな、このシチュエーション。



「フォッサさん……一緒に」



と、左を見るとフォッサは既に人混みに紛れたのか、居なくなってしまっていた。



「アルさん、とりあえず組みま……」



残念ながら右にアルは居なかった。





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