不幸中の幸い
「こちら保安部、不審な異動反応先で対象を発見」
近未来的な黒いフルアーマーに身を包んだ集団がこれまた近未来的な銃器を、こちらに向けている。
「あ、怪しいものではな……」
「黙れ」
「ハイ……」
そのうち通信をしていた保安部隊の隊長らしき人物が銃口を1ミリもずらさずにヘルメットの上から耳元に二本指を添える。
「はい……はい、了解しました、処分します」
その言葉と共に全員の銃器から何かがチャージされるような音が静かに鳴り響く。
うん、終わった。転生からの死亡RTA世界記録更新だよこれは。
神様、もう一度会いに行きますね……
……
…………
…………?
やるなら早くやって欲しいな
ゆっくりと目を開けると保安部の方々は銃を下げていた。
「あれ?死んだ……?」
「いや、大丈夫か?」
驚いて後ろを振り向くとそこには深緑色のコートを着て、くすんだシアン色のネクタイを着けた黒シャツの男が立っていた。
彼の目にはどこか生気がなく、深い焦げ茶色の髪の毛の手入れもされていないようだった。
「えっと……僕、助かったのですか?」
「そういう事になるな」
そう言うと彼は、手を差し出す。
僕はその手を取り、立ち上がると彼の胸についてるスタッフ証のようなものが目に入る。
「異世界間移動管理部、ユビキタス……」
「よろしく、ところで君は?」
名前、それは物や人に着けるもの。
違うそうじゃない。
僕の名前、
あれ?
名前
名前……
思い出せない。
ぽっかりと穴があいたようなそんな感じだ。
「えっと、それが……あのー」
僕が言いごもってると、ユビキタスは不思議そうな顔をする。
「君、ゼノじゃないのか?受験票に書いてあるが、ここではコールサイン呼び名になるが、大丈夫か?」
受験票?一体何の話を……って、
「ぇぇえええ??」
ユビキタスの前で1枚のカードが浮遊していたのだ
何だこれは、夢か?それとも本当にヤバい世界に転生してしまったのか……わからん、てかこの人何者だし、カード浮いてるし、ここどこ、コールサインって何……うああああああああたまおかしくなる!
「……?あぁ君こういうの無い"世界"から来たのか、驚かせてすまない。これは返すぞ」
彼がそう言うと受験票が僕のシャツの胸ポケットに勝手に入る。
(ほんとになんなんだよ……)
そう思いながらもとりあえずこの男の近くにいたら危ない気がした僕、ゼノ(仮称)は移動することにした。
「で、では僕は試験に行かなくてならないので、失礼しますぅーー……」ススス…
「ゼノ」
「ひゃっい!?」
背中から視線を感じる。
「そっちはメイドカフェの採用試験会場だが、大丈夫か?」
「いやー……はは、トイレこっちかなーって」
「そうか、頑張れよ」
僕は全速力でユビキタスの隣をダッシュで通り過ぎて行く。
「……ラッキーだったな」
そうユビキタスの呟く声が聞こえたような気がするがお構い無しに猛ダッシュで廊下の角を曲がったその時
「うわわっ!」
「わっ!」
デッチーン!!
人にぶつかってハデにコケてしまった……また厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ、ここはサクッと謝って……
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか……」
そこにおでこを抑えながら立っていたのは、真っ白の髪の毛の両サイドを結んだ、エメラルドグリーン色の美しい瞳でこちらを申し訳なさそうに見下ろす美少女だった。
「いい、いえこちらそこ急に飛び出して……!!」
顔ちけぇぇぇえええ……!!!?
その美少女の格好をよく見るとショートパンツとスポブラの上からオリーブ色のマントのような上着を羽織っているだけだったのだ。
なんてこったい……
ゼノは心の中でそう呟きながらゆっくりと立ち上がろうとする。
「す、すいません!心配だったのでつい!」
美少女は急いで顔を引くと、手で額を隠す不思議なポーズを取る。
ゼノが不思議そうな顔をすると
「ああ!えっと……すいません!癖で……つい」
と急いでその手をひっこめる美少女
「えっと……私アルビトリウム、って言います!アルって呼んでください!!」
美少女は顔を少し赤くしながらそう言う。
「ぼ、僕はゼノです。アルさんよろしく」
その言葉聞くと、アルの顔がパァァっと眩しい笑顔に変わる。
「ゼノさん!そうです、アルです!よろしくお願いします!!」
「お、お願いしますゥウウ……」
か、かわえぇ……名前呼んだだけなのにこんな笑顔見れんの、何この世界……
最高じゃん……
「お話は変わりますがゼノさん、貴方も受けるんですね!」
「えっと……なんの事ですか?」
「もちろん、異世界統制官採用試験ですッ!」
ゼノは急いで胸ポケットからカードを取り出す。
『異世界統制官採用試験 受験票 No.17-5963』
『
すううぅぅぅうと息を吸い込み、状況を整理する。
どうやら僕は前の世界で死んだらしい、それで神らしき人物の気まぐれか暇つぶしによって異世界っぽい所になんのスキルも無しに飛ばされた。
挙句の果てには、異世界統制官とかいう得体の知れない仕事?につかせようとしているし……
でも、こんな可愛いくてちょっとばかし目のやり場に困る子にその異世界統制官とやらになれば毎日会えるのなら……
正直、アリだな
僕は覚悟を決めるとアルの瞳を真っ直ぐ見つめ
拳をギュッと握る
そして決意と共に口を開く
「ところで……」
「試験会場ってどこでしたっけ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます