あなたとわたしのしゃべりかた。

 突然。祖母から荷物が届いたので電話をする。

「いえねえ、ご近所さんからいっぱいもらっちゃって、でもいっぺんにはあんまり食べられないでしょう??だからちょっとだけご飯にしてあとは渋皮煮にしちゃったのよ。でもね?よく考えたらおじいちゃんも私もそんなには食べられなくてねえ。なんだかかえって申し訳ないんだけれど、あなたが食べてくれたら私もうれしいから送っちゃったのよ、ごめんねえ?あなたなら十分体も動くし、勉強もするし、脳の活性に糖分がいいってもいうしね?半年は日持ちするはずだからちょっとずつ食べて頂戴。おねがいね?じゃあねえ」

といって、祖母は電話を切ってしまった。

 わたし。挨拶しかしてない。

 彼女はめいいっぱい、少しの時間にどれだけの情報量を入れるか頑張る、という喋り方をするので、タイミングを逃すとこうなってしまう。どうしようか。手紙を書いたほうが眼を通してはもらえる。でも。……そうか。

 いそいそと買い物をして、お菓子を作る。

 お礼は素早くないといけないのだから、ぱっと、さっと、材料がそろうものにした。そう、パウンドケーキだ。

 素朴にして、食べ応えがあり、語源だって洒落が効いてる。

 全部同じ重さの材料を、分離させずに混ぜて。オーブンで焼き上げる。というのがベースだけれど。渋皮煮を主役にしたいから、少しだけ砂糖を減らす。“半年持つ”というくらいだから、あの渋皮煮はずいぶんと甘いということだ。実際、一個味見をしたら、くぅっと脳に効くようだった。わたしもちょびちょび食べなくてはいけないな。ちょっとだけイヤミになった体重計をちらりとねめつけた。

 レシピの一割だけ減らした砂糖と、常温のバターをじっくりじっくり練り上げる。

ざり、ざり、というおとがさりさりさりと柔らかくなると、たまごを加える頃合い。分離しないように、少しずつ、しかし確実に、たまごなるものをまぜあわせる。不思議な食材。水と油をまぜあわせる。豊かな風味。主役にも、何かのパートナーにもなれる存在。その卵に私の気持ちもまぜていく。

 さきにふるっていた薄力粉をさっくりと入れる。だまにならないよう、でも粘りが出ないように簡単に。お菓子はレシピに忠実である方が必ず美味しくなるからよい。誠意とか、聞こえたとおり、みたとおりにやっていくことで、美味しいお菓子になる。まあ、今回お砂糖は不真面目な量なんだけれど、渋皮煮でトントンだから手打ちになってくれればいいな。

 パウンド型。紙製のは洗い物が減るからいい。焼いたままをプレゼントもしやすい。今回は殊更もってこいだ。小ぶりの型を二つ。底が隠れるくらいに少しだけ混ぜあがった生地を流し込んだら、渋皮煮を一直線に前へならえさせていく。本当に大ぶりだ、皮付きの時はどんなにか大きかったんだろう、そんな皮をむくのは一苦労だったろうな、と思う。この下処理程重労働はない。硬くて、危なくて、でも食べられるのはほんの一口。一つ、一つを確かめるように並べて。あとは、残りの生地も流し込んで、焼くだけ。

 待ち時間のうちに、片付けと、メッセージカードに一言だけ書いておく。美味しい渋皮煮をありがとう。パウンドケーキを送ります。すこしずつ、きってたべてね。

 喋り方は正反対だと思う。でも、たぶん、この喋り方なら通じるはずだから。

 きっとまた、矢継ぎ早の電話がくるだろう。

 

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