第14話 地獄の訓練について

-side リック-




 スタンピートが発生している近くの町まで飛んできた。

 早く、下に降りたい。--けど、降りたら降りたで、対応に追われて大変そうだ。

 どちらにしても、面倒なことになりそうだなあなあと、考えていると、『さっさと降りるぞ!』と言ったシルフが魔法を解き、自然と下に下ろされた。

 とりあえず、父上が後から来るから戦場にはいなければいけないだろう……そう思い、丁度立ち入り禁止の所に立っている門番に話をかける事にした。



「こんにちは。門番さん。ここの町の騎士団のトップの方はいらっしゃいますか?」

「なんだ?坊主達。早く逃げなさい。

 あの迫り来る魔物達が見えないのか?

 大丈夫だ。あんな魔物達、おじさん達がすぐにやっつけるから。」

「いえ……、その。」

「大丈夫だ。おじさん達。強そうだろ?

 安心して欲しい。」

「いえ……。疑っているわけでは。

 その……。」

「こう見えても、俺たちは元々、公爵家で働いていた事もあるんだ。あの地獄の訓練を耐え抜いてきたんだ。

 あの人たちの訓練に比べたら、スタンピートは命の危険もそこまでではないし、気楽なものなんだよ。」

「……。ですよね。その気持ち、俺もとてもよく分かります。あの俺……、こういう者なんですけど。」

「なっ……!!しっ……失礼いたしました!」



 涙ぐましい被害者報告を受けてから、俺が家紋の入った身分証を提示すると、慌てた門番さんは、すぐに偉い人を呼びに行った。

 すぐに、偉そうな人がやってくる。



「これはこれは……。来ていただき、ありがとうございます。思った以上に早かったですね。私はジェフと申します。この町の騎士団の責任者です。」

「はじめまして。リック=シュタインと申します。隣にいるのがシルフ。さっそくですが、戦況の報告を。」

「ななな……!リック様とシルフ様ですと!

 まさか、この目でお目にかかれるとは。

 --失礼。話題の方々にお会いできて、ついつい興奮してしまいました。」

「あはは……。大丈夫です。」



 俺の世間の評価ってそんな感じなんだ。

 家族の中で、俺だけクラフトスキル持ちで、もっと、酷い評価をされていたと思っていたから、意外と好意的に受け止められていて、良かったな。



「戦況は、まだ動いていない感じですね。

 公爵家の援軍がくるまでは冒険者と騎士団が力を合わせて、前線を維持していると言う感じです。負傷者はいますが、ポーションで治る程度。死者はいません。」

「そうですか。良かった……。」

「ですが、予算削減のせいで、騎士団が弱体化したことにより、この町のメイン戦力は冒険者になっています。

 先々の事を考えると、この機会に、予算を増やしていただきたいものです。」

「なるほど。--やはりそうですか。」



 どうやら、町の代官が不正をしていた事は間違いないらしい。ここにも、公爵家の被害者で苦労させられている人が一人。



「やはり……、というと?」

「実はこの町の代官が、不正会計をしていたようなのです。……まあ、詳細は終わってからでいいでしょう。

 それより、俺はどうしたら良いですか?

 父上からは戦えと言われているので、ある程度は、魔物を倒しておきたいのですが。」

「……。そうですね。でしたら、魔法で前線を援護していただきたいですね。私もご一緒させてください。リック様に万が一の事があったら大変ですから。」

「良いのですか?責任者が現場を離れて。」

「大丈夫です。優秀な部下がいますし。

 それより、リック様の身に何かある方が怖いですから。後で、色々と。

 また、地獄の訓練の受け直しとか言われた日には、立ち直れないかもしれません。」

「そ……そうですよね。ではお言葉に甘えて。ありがとうございます。」



 そういうわけで、俺は騎士団長と一緒に、魔法で前線を援護する事になった。





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