第10話 とんとん拍子

-side リック-




「先代の領主様。--ベルモンド様と私の父は王立学園時代からの友人だったのですが、彼は非常に優秀な戦士であると同時に、優れた商人でした。

 彼の領地改革おかげで、元々、非常に貧しかった土地は、他の領地と比べ悪くないレベルになりました。」

「そんな事が……。」



 ほー。うちの領地はずっと、代官に任せっきりだと思っていたけど、昔はそうでも無かったみたいだ。

 おそらく、領地経営が得意では無い先祖とそうではない先祖がいたのだろう。



「これは、勘ですが、リック様にも、その才覚がおありだと私は思っています。

 もし、商売で成功できる能力を周りに知らしめる事が出来たのならば、議会で議員の多くを味方につけ、貴方に権力を集中させる事も出来るはずです。」

「えっ。いやいや、何もそこまで。

 第一、次期領主は兄上ですし。」

「まあ、そうですね。私としたことが、要らぬことまで話をしてしまいました。

 今は、将来の可能性を広げるために、お店を持ちませんか?」



 うーん……、俺のためを思ってくれているのは伝わるけど、こういう話の流れで引き受けるのは……微妙だなあ。



「悪いけど一旦考えさせ……」

「いいえ!リック様!やりましょう!

 絶対やった方がいいです!」

「え?えっ?」


 

 断ろうとしたら、突然、ライが興奮気味に割り込んできた。



「ベン様は大商会であるラベン商会の前会長でございます。人並外れた、人を見る目がある才能をお持ちです。

 その会長が、リック様の実力を高く評価して、勧めたたというなら、是非受けるべきです!」

「え……でも……。」

「でも、ではありません。リック様。あなたは公爵家の人間とはいえ、4男。

 家から追い出される事は多分ないですが、そうは言っても、平民になる可能性の方が高いです。念のため、自分で収入を得るという事を子供のうちから学んでおく必要はあると思います。」

「う……たしかに。」

「大丈夫です。店舗経営のサポートできる人材はいくらでも用意いたします。あなたは自由にやればいいのです。環境は整えますから。」

「ライがそこまで言うなら……やってみる。」

「ええ。」



 ライは変人ではあるが、官僚もしていたキラキラ青年だけあって、実力は本物だ。

 彼がこの家に来てから、家の雰囲気は随分変わった。今みたいに、やった方が良いことなどをはっきり言ってくれるし、逆にしてはいけない事についても丁寧に教えてくれる。……本当に俺には勿体ない執事である。

 なんか、認めたくは無いけど。



「では、善は急げと言いますし、早速、貸し出し中の店舗の土地をご用意致しましょう。」

「えっ。もう?あっ、ありがとうございます。」



 流石商人。仕事が早い。

 エリーさんが持ってきた物件から、いくつか候補を選ぶ。



「ここか、ここか……ここですね。」

「そうですね……。むむ……?リック様。

 この物件の貸し出し主。おそらく、貴方のお父様だと思います。」

「本当だ。」



 見ると、公爵領の一等地の物件が父上の名前だった。物件の貸し出しは代表的な貴族の収入源の一つである。



「交渉してみれば、もしかしたら安い値段で貸し出してくれるかもしれませんよ。」

「たしかに。家に帰って確かめてみるか。

 ベンさん。今回はお店の店舗は保留って事で、お願いします。登録だけ済ませてという感じで。」

「かしこまりました。」





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





 その後、家に帰り、父上ではなく、母上におねだりしてみた。うちの家では、父親よりも母親の方が権力があるからである。

 普通に父親よりも母親の方が怖い。彼女のスキルは腕力強化という武力系スキルである。ガクガクブルブル……。



「母上……、貸し出していたお店を格安で借りたいのですが。」

「あら?その物件ね。いいわよ。まだ、この前の褒美をあげていなかったものね。

 無料で使って、好きにしても良いわ。」

「えっ!?本当に!?やった〜!」



 まさかの、一等地を賃貸無料で貸してもらえるという、とんでもないことが起きた。

 やはり、持つべきものは、最強母ちゃんである。ガクガクブルブル……。




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