第6話 王様からの依頼

-side リック-




 俺がシルフと契約した事は、大々的に発表された。家中のみんなが張り切ってしまったらしく、王国中に広まっているらしい。

 家の中でも、今まで、十分すぎるくらい暑苦しかった騎士達の視線がさらに暑苦しくなった。ちょっと雨乞いでもしてこようか。



 と、そんな呑気な事を考えていた時、それは起こった。



「たたた……大変です!リック様!陛下からお茶会の招待状が届きました!!」

「……。はあ??」

「陛下からのお誘いです!王城へ来ないかと。こんな名誉な事ないですよ。」



 まあ、そうだけどさ。お偉いさんとの会話って苦手なんだよな。

 礼儀作法とか、礼儀作法とか。

 だが、それを使用人に言ったところで、困らせるだけだろう。どの道、国王からのお誘いなんて、断れるわけない。

 というわけで、仕方なく肯定する。



「そ、そうだね。」

「そうと決まれば、洋服を作って、礼儀作法の勉強をして。いやー。私も腕が鳴ります。

 心配しなくても、しっかりと、鍛えさせて頂きますからね。」



 大きな屋敷をきれいに維持するためには、お金がかかるものだ。

 我が家でもそうだったが、俺がクラフトスキルで家の大部分を修復でき、屋敷の修繕費を大幅に削減できると分かったので、この度、父上は新たな使用人を複数人雇う事に決めた。

 父上のコネをフルに活用したため、とても優秀な人材が集まったそうだ。



 この執事、ライもそのうちの一人である。

 現在25歳。金髪青眼で王子様のような見た目をしている彼は、伯爵家の3男の生まれで、王立の学校を優秀な成績で卒業したらしい。

 その後は、王城で外務省の官僚として働いていたが、本人の興味分野は軍事や財政の分野だったらしく、うちに転職したという変わり者である。

 もし俺が、転職する前に友達だったらうちへの転職は絶対に止めていた。

 なんでもっと早く知り合えていなかったんだと、とても後悔したのは内緒である。



 しかし、そんな経歴の持ち主だから、礼儀作法は完璧である。

 今回の王様からの招待。断れない以上、彼に礼儀作法の訓練を頼み込むのが、一番最善の策だろうと言える。

 だけど、こう……怖いんだよね。

 こう、ギラギラした目が……。



「ま、まあ。お手柔らかにお願いします。」

「何を言っているんですか?

 お父様にも、お兄様にも、頼まれていますし、ビシバシいきますよ。」



 ぐ……ライはやはり、我々スローライフ派閥の最大の敵である、脳筋派閥とグルだったか。

 ちなみにどちらの派閥も今作ったので、今のところ、スローライフ派閥の会員は俺一人だけれど。



 --って、待て待て。ちょっと、ちょっと……引きずられてる引きずられてる。

 もうこの時点で、嫌な予感しかしないんだが。そ、そんなーー。





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢





 厳しい特訓に気合と根性で耐え、今まで酷かった礼儀作法が多少マシになってきた頃、ついにお茶会の日を迎えた。

 会場である王城の庭に入り、しばらく、シルフと共にお茶を飲みながらゆっくりしていると、王様からお声がかかる。



「やあ。リック君。それと、あなたが風の精霊王シルフ様だな。会えて嬉しいよ。」

「は、はい。」『ああ。』



 赤髪にエメラルドグリーンの目。

 年齢は30代くらいだろうか?

 程よく、鍛え上げた肉体を持ち、カッコいいと形容するのがふさわしい彼は、ここテイラー王国の国王アルフレッド=テイラーその人である。



「まさか、四大精霊のうちの1柱を従えてしまう人間が俺の代で現れるとはな。

 レオから報告を聞いた時は、驚いた。」

「あはは。」



 レオというのは父上の名前である。



「ところで、そんなすごい君に頼みがあってね。」

「なんですか?」

「うちには君と同じ年頃の息子と娘がいるんだけど、仲良くなってくれないかね。

 2人とも病弱でなかなか外に遊びに行けないから、友達がいないんだ。」

「え……もちろんです。」

「やった!ありがとう。

 では、早速頼むよ。どうせ、大人ばかりの場所、君にはつまらないだろう?王城内は自由に行き来して良いから遊んでおいで。」

「あ、あはは。ありがとうございます。」



 そりゃね。さっきから、大人達が好奇心の目を向けてくるので居心地が悪くて仕方ないのは事実だ。とはいえ、それをいうわけにもいかず、笑うしかない。



「俺としては、顔を見れただけでも充分だから、帰りに、息子の部屋に寄ってくれるといいな。娘は今は外出中でね。」

「かしこまりました!」





 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢




 というわけで、早速、王子の部屋の前に来ている。ノックすると、「はいどうぞ。」という声があったので、入る。



「うわっ。」



 入った瞬間、思わず声が出てしまうほどの埃っぽさ。……病弱なのって、絶対これが原因だろ。



「やあ、ゲホッ…!!ゲホッ…!!

 やあ。リック殿。

 私は、第二王子のウィリアム=テイラー。

 こんな形でのご挨拶になってしまい、申し訳ない。」

「いえいえ。ウィリアム様。ベッドに横になって、どうか安静になさってください。」

「ありがとう。」



 さてと、この部屋。どうするべきか。

 とりあえず、長居すると、俺もくしゃみがやばそうな気がするから、やれる事からやっていこう。





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