第5話 よろしくな!

-side リック-




『なかなか見事な魔法だったな。

 感謝するぜ!』



 バッ……!!俺と父上は咄嗟に身構える。

 こっちも伊達に今まで脳筋共に鍛えられてない。音があったら、とりあえず構えてるふりをするという行為は、お手のものになっていた。

 そんな事はほとんど起こらないから、なんの役にも立つ事はないって思っていたこの動作が初めて役になった瞬間である。

 一人で感動していたのは内緒だ。



「誰だ!?」



 父上が本気の殺気を放つ。

 おお……こっわ。



『俺様は風の精霊シルフだぜ!』

「……なっ!……シルフ様ですと!?

 これは、失礼いたしました。」

『いきなり出て来たのはこちらだからな。

 驚くのも無理はないぜ。

 それより、そこの少年。大感謝だぜ。』



 そう言って、シルフは姿を表す。

 身長は100cmくらいだろうか…?

 銀色の短髪に、藍色の目。背中には銀色の美しい羽が生えている美しい少年の姿だった。一見するとただの美少年だが、浮いていることから、人間ではない事が分かった。



「おお……絵本で見たシルフ様そのものだな。噂に違わぬ美しさ。」

「しかし、風の精霊シルフ様は数百年前、突然姿を消したと伝えられているのですが。

 まさか実在していたとは。」

『ああ。それなんだがな。実はそこのお前より、ずっと前の当主に悪戯しようとしている最中に、アクシデントがあってだな。

 ずっと、この部屋に閉じ込められていたぜ。

 それを、そこの少年が解放してくれた。

 感謝しているぜ!』

「え……!?いやいや。別にそんなこと…。」

『あはは……お前、随分弱気な奴だな。

 面白い。気に入った!そこの少年!お前に褒美を与える。何がいい?』

「……何ができるんですか?」

『そうだなー。……俺の特別な加護を与える事とエリク草50枚、お前はどっちを選ぶ?』

「なっ!!リック……。」



 エリク草といえば、幻の秘薬、エリクサーの原料となる材料だ。それ単体でも、万能薬になる幻の高級品である。

 戦闘での負傷者が多いシュタイン公爵家には、喉から出るほど欲しい薬草だ。

 もちろん、50枚あれば一部を売ってお金に変える事で、うちの財政難を立て直す事もできるだろう。故に、父上がさっきからこちらを睨んでくるが……。



「シルフ様の特別な加護の方でお願いします。」



 そりゃね。そっちを選んだ方が自分のためだし、それに……。

 って、父上がガックリと項垂れてしまった。ごめんって。



『なぜだ?エリク草を手に入れれば、一生食いっぱぐれはないだろう?』

「エリク草はとても貴重だけど、所詮は草だ。

 だけど、シルフ様の特別な加護は一期一会の出会だからです。」

『…………。』

「…………。」



 場に静寂が訪れる。シルフが俺をじっと見つめてきたので。俺は真っ直ぐに見返す。



『………。ふむ!合格だ!流石、俺が見込んだだけのことはある。加護を与えよう!』

「よっしゃ!」



 やっぱりね。

 特別な存在から出題される2択はなんらかの試練だと相場が決まっていると思ったんだ。

 それ抜きにしても、精霊の加護と薬草だったら……ねえ。

 目先の利益か、長期的な利益かどっちを取ると聞かれていたのと同じだったのだろう。



『こっちへ来い。

 “我、精霊王シルフは汝との間に契約を結ぶ。その名は従魔契約。汝の名は?”』

「……!!“我の名はリック・シュタイン”」



 光が俺たちを包んだ。今のは……。



「ななな…。シルフ様。今のは従魔契約の文言ではないですか…!!」



 父上が驚きの声をあげる。



『あははっ……!!まあまあ、今はそんなことはどうでも良いじゃねえか。

 それはそうと、お前にはこれを渡そう。

 これからお世話になる前金だぜ。エリク草だ。使い道はよく考える事だな!』

「おお……。ありがたや。ありがたや。」



 シルフはそう言うと、エリク草50枚父上に渡す。良かった。試練に合格するためとはいえ、父上には悪いことしたしな。



『……って、あれ?そうか。今気づいたけど、お前の魔法は戦闘向きではないんだな。

 この家では珍しく。』

「そ、そうなんです。だから、俺の従魔になっても……。」

『仕方ない。だったら、俺の力の一部を分け与えてやるぜ!』

「へ?」



 シルフがそう言うと、俺の中に何かが流れ込んでいる気がした。

 これは、風魔法のやり方……?



「[ウィンド]」



 ビュオッ。俺がそう唱えると、手のひらサイズの竜巻が出た。初級風魔法[ウィンド]は風を吹かす魔法だ。

 この世界の人は全員、基本属性の火、水、風、土魔法は使えるので、一応、俺も元々風魔法は使えていたが、威力が全然違うな。

 一般人が使うのとは訳が違う。それこそ、スキル持ちの魔法使い並みの威力だ。




「おお……!!なんということか……!!

 シルフ様。ありがたや、ありがたや。」



 うちの領地は風魔法の研究が盛んなため、シルフ信仰が盛んだ。したがって、俺たちにとって彼は神みたいなもの。

 そして、神の軌跡のような事を実際にやってのけた。だから、父上がこういう反応をしてしまうのも仕方がない。



『俺様は風魔法を取り仕切る精霊だからな。

 これくらい余裕だぜ。』

「うう……。これで、家族全員で戦闘に参加できます。なんとお礼を言ったら良いか。

 感無量でございます。うう……。」



 え……?待て待て。もしかして、父上がありがたがっていたのって、そういう理由か?

 たしかに、俺も風魔法を使えるようになったと言う事は、そういう事を意味するけれども……。

 


「泣くほど嬉しかったのか……。」

「当然だろう!俺が何度、何度息子たちと楽しく魔物狩りをする事を夢見たことか…!!

 それはもう、最高だ……!!」



 お、おうふ。突然の不意打ち熱血。流石にこれには俺も終始ドン引きである。



『……ま、まあ。こいつの事は、一旦おいとくとして……。改めて、感謝する。

 それと、よろしくな!主人!』

「ああ。よろしく頼む。シルフ様。」



 まだまだ、やるべき事は沢山あるけど、とりあえず、心強い味方が出来て良かったな。





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