第2話 勉強前の儀式
-side リック-
気合と根性の脳筋家族のことはこの際、一旦置いておこう。
ともかく、大事なのは努力次第で幸せになれるということである。
とはいえまだ10歳の子供の体では出来ることは限られている。そう思って、まずは勉強し始めることにした。
そんなのはいいから、腕立て伏せをしようとか言ってきた父上と兄上を押さえて、ゆっくりする時間を気合いで確保した。
目には目を気合いには気合を。決して俺は家族と一緒で脳筋というわけではない……はずである。
さっきも使用人がナイスファイトって言ってきたしな。頑張って戦っただけである。
それはそれとして、こうして“10歳ガキの将来のためにお勉強計画”は始まりを告げたのだった。
しかしその前にだ。
俺には重要な任務がある。とある儀式だ。
そう……お片付けである。
いやあ……ね。この行動、してしまうのは本当に仕方ないと思う。
決して、決して現実逃避をしているわけではない。効率的に勉強するための重要な儀式だ。
脳筋家族の中で唯一まともな俺がいうのだから間違いないだろう。
……ツッコミ不在の恐怖とか言うなよ?我が家にはこれを突っ込んでくれる頭のキレが良い人間はいないのだから(確信)。
それにしても、さっきから、俺は誰に言い訳しているんだろうか?と思いながらも順調に片付けていく。
物を片付ける時にまず大事なことは捨てることである。そのため、沢山の木箱を用意した。この世界にビニール袋がないからである。
科学の発達は魔法によって遅れているようだ。この世界のことはよく分からないが、体感的には産業革命前のヨーロッパくらいの感じだと思う。
実家の建物の雰囲気もそんな感じである。
前世の記憶を思い出した俺からすると……超絶不便である。
まずこの無駄に高そうな机。たしかに、おしゃれだけど普通に勉強机の方がいい。
本棚もアンティークのものは使いにくい。
カラーボックスにガラスの扉付いているような物がいい。
ゴミ箱も足でレバー踏むとパカパカ蓋が開くタイプのものがいいし……何より部屋の雰囲気がどことなく、どんよりとしている。
お洒落ではあるが……、清潔感はないよなあ。使い勝手も良くないし。
その時、ふと、思いつく。
「俺が授かったのはクラフトスキル。そうだよ!だったら、自分で作ればよくない!?」
戦闘スキルを授うとばかり思っていた俺は、物を作るという発想に今の今まで全く思い至っていなかった。
もっと、別の片付け方もできるかもしれない。これは……やり直さなきゃな。
こうして本来、勉強する筈だった時間はどんどん過ぎていく。
「後で調べてみたけど、クラフトスキルはハズレじゃなくて、物作り界隈だと結構優秀なスキルらしいし、使ってみるか。」
クラフトスキルはドワーフに多い鍛治系スキルや建築系スキルに比べ、物を一から作るよりは修理系のスキルである。
この屋敷の屋根やお風呂が壊れた時、修理に来てくれるのは、うちお抱えのクラフトスキル持ちの修理の人達だ。
貴族にとって、快適な生活に欠かせないのがクラフトスキル持ちの人材を囲い込むことらしい。
そのため、貴族と専属契約を結んでいる場合も多いみたいだ。
だから、最悪うちで雇って貰えば、食いっぱぐれないし、そもそもがクラフトスキルを持っている時点で食いっぱぐれる事はほとんどないらしい。
もちろん、しっかりとスキルの使い方を勉強していればではあるが。
だが、どうせなら修理をするだけではなく、もっと上を目指したい。
というのも、クラフトスキルは相応の技量と発想力はいるが、結構なんでもできるスキルなので、物作りでお金持ちになれる可能性があるスキルである。
実際過去に紙の製法を発明して商業ギルドに登録し、巨万の富を得た人物もいたそうだ。
もしそういうものが一つでも作ることができれば……、うちの領地ももっと栄えてこのボロボ……伝統ある由緒正しき屋敷を立て直す事ができるのではないかと思う。
「よし!そうと決まれば、早速スキルを使ってみるか!」
こうして、どんどん勉強時間は減っていく……。
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