29 宇宙統合開発人工衛星

「いっ痛っててえ―。」




 痛みに、右目が自然と閉じる。




 「う、うああ。」




 身体が宙に浮いていた。




 「どうして、浮くんだ?」




 不思議に思った。




 身動きが取りにくい。




 ケツが、痛いな。




 「取れちまったか―」




 ケツに手を当てて、確かめる。




 「ったく、酷い様だ。」




 両目を閉じて、首を横に振った。




 いい空気だ。




 「人工衛星の中って、酸素があるんだな。」




 空気を吸った。




 「やってきたか。」




 奥から、美しい女が出てきた。




 「どうも。」




 僕は、頭を下げた。




 「ま、いい。船を壊さないでくれよ。修理が大変なんだ。」




 女は、困り眉で言った。




 「ごめんなさい。」




 僕は、謝った。




 「で、君は、空気がなくて平気なのかい。外の気温は、今400℃だぞ。」




 女は、きいた。




 「化け物ですから。」




 僕は、答えた。




 「知ってるよ。」




 女は、笑った。




 「あたしは、ロボットだ。おまえが、壊した船の部分を治しにきたんだ。空気が抜けていくと困るし、船内の温度も狂ってくるからね。」




 ロボットの女は、人工衛星に空いた穴を、修理しはじめた。




 「ああ、そうだ。ドアがあるだろ。向こうに宇宙飛行士の人たちが君を待ってるから、行くといいよ。」




 ロボットの女の向く先をみると、白く金属室なドアがあった。




 ドアには、03と番号が書かれていた。




 「はい。」




 僕は、ドアノブに右手を当てて、捻った。




 ガチャ。




 ドアの向こうから、光が零れた。




 中に入る。




 人がいた。




 一斉に僕に視線が集まる。



 

 数えると12人いた。




 「お、来たか、少年!。」



  

 金髪碧眼の女が、顔をパッと明るくして、右手をあげた。




 「君のことは、ずっと、衛星からみてたよ。」




 茶髪で、髪の短い筋肉質な男は、二っと笑った。




 「果たして、人類は、どうなることやら―。」




 黒髪細身な男は、額に右手を当て、俯いた。




 人工衛星の中にいる人たちは、僕を歓迎している様子だった。




 コワい。




 目的は、何だろうか。




 地球を破壊しまくった僕を、どうして、歓迎する?




 「君の愛する破滅ちゃん、は来てないみたいだね。」




 茶髪ボブカットの女は、言った。




 「あとで、来ると思います。」




 僕は、答えた。




 「だろうね。」




 茶髪ボブカットの女は、頷いた。




 「どうして、僕を歓迎するんですか?」




 僕は、不信に思って、きいた。




 「だって、どうしようもないじゃない。あなたたちをどうにかできる人類なんて、もう、誰もいないのよ。」



 

 金髪碧眼の女は笑った。




 「できれば、仲良くなりたいわね。一緒に、共存していきたい。」




 金髪碧眼の女は、不安そうに、僕の目を覗き込んだ。




 共存か、考えたこともなかったな。




 「無理だ。」




 僕は、顔を背けて、俯いた。




 「どうして?」



 

 金髪碧眼の女は、首を傾げる。




 他の人たちも、興味深そうに僕をみた。




 「世界を滅ぼすからだ。」




 僕は、口を開いた。




 「まあ!。」




 乗組員たちは、困った様子で、声をあげた。




 「やっぱり、僕たちは滅ぼされるんだね。」




 短い青髪の男は、低い声で、声を出した。




 「ま、暗い話は、置いておいて、取り敢えず、仲良くしようよ。」




 金髪碧眼の女は、笑った。




 「そうよ!。まだ、すぐに殺されるわけじゃあるまいし。」




 茶髪ボブカットの女は、興奮し、恐怖が入り混じった甲高い声で、手を叩いた。




 他の乗組員たちは、僕をみて、少し、何か考えていた。




 僕の方をみて、色々考えているのがわかった。




 「かわいい、少年じゃないか。仲良くやっていけるさ。」




 オレンジショートな髪の男は、ゆっくりと、言葉を選んで、いいきかせるようにして、言った。




 乗組員たちは、お互いに目配せすると、少し場の空気が明るくなった。




 「はははは。」




 笑い声が、響いた。




 「人工衛星の中を案内するわ。ゆっくりしましょうよ。」




 金髪碧眼の女は、機転をきかせて、提案した。




 「はい。お願いします。」




 僕は、答えた。




 「よし!。」




 僕の様子をみて、乗組員たちは、各々、喜びを示した。



 

 明るい雰囲気になっていく。




 「ついてきて。」

 



 金髪碧眼の女は、器用に、壁を蹴ったりしつつ、空間を移動する。




 「無重力には、慣れた?」




 金髪碧眼の女は、後ろを振り返って僕をみた。




 「あららあ。だいぶ、苦戦してるようね。」




 金髪碧眼の女は、中々、移動できない僕をみて、言った。




 まったく、宇宙というのは、動きにくくて、わけがわからん。




 「無重力って?」




 僕は、きいた。




 「ああ、重力の説明は、難しいから、簡潔に言うと、重さがないってことだね。」




 金髪碧眼の女は、答えた。




 「重さがないだって?」




 僕は、目を丸くした。




 「人工衛星の中では、遠心力と地球の重力が釣り合ってんだ。」




 アフロ茶髪の男が、後ろから、声をかけた。




 「へえ…、よくわからないですけれど、ありがとう。」




 僕は、礼を言った。




 「試しに、壁をキックしてみな。」




 黒髪ロングの女は、促した。




 ポーン




 身体が、宙をスーと進む。




 「不思議な感覚だろ?慣性が働いてるんだ。ずっと止まる事なく、同じスピードで、動き続ける。目の前に、壁とかの、物体に止められるか、別の力が加わるまでずっとな。」




 黒髪ロングの女は、笑った。




 氷の上を滑ったり、自転車がスリップした時、に似ている。




 「楽しいでしょ?」




 金髪碧眼の女は、僕の顔を覗き込んだ。




 少し移動すると、扉があった。




 「奥は、研究実験室になってるんだ。入ろう。」




 金髪碧眼の女は、扉を触った。




 「スペースエーアイ 扉を開けて。」




 金髪碧眼の女は、少し大き目の声で、言った。




 誰に向かって言っているのだろうか。




 「畏まりました。研究実験室 第一扉を開けます。」




 どこからともなく、声がきこえる。




 ビシ!ガシャーン。


 


 「スペースエーアイって言う、人工知能が、開けてくれたんだよ。」




 金髪碧眼の女は、笑った。



 

 「便利ですねえ。」




 僕は、感心した様子で、扉の開くのをみていた。




 「面白いでしょ、人工知能。自動でいろんな事ができるようになるのよ。」




 茶髪ボブの女は、僕を微笑ましそうにみた。




 「行きましょ。」




 金髪碧眼の女は、壁を蹴って、扉の向こうに、入っていった。




 中に入る。




 土と植物が、透明な箱の中に入れられている。




 「レタスだ。」




 透明な箱の中で、レタスが、人工的な光を浴びて、育っていた。




 「ジャガイモもある。」




 土の中で、ジャガイモが、育てられている。




 他にも、イネや、もやし、苺、大豆、トマト、サツマイモも育てられていた。




 「食物を育ててるんだよ。」




 オレンジショートな髪をした男は、言った。




 「すごいですね。」




 僕は、土に根を張り、育つ、穀物や、野菜果物を、みた。




 「宇宙じゃ、食い物は、地球から、の救援物資が殆どだ。長時間、滞在や、長距離移動を考えると、食物を宇宙で作るのは、避けては通れない道なんだ。」




 オレンジショートな髪をした男は、説明した。




 「へえ。」




 僕は、感心した。




 「宇宙での、植物の育ち方を研究する事は、重力と植物成長の密接なメカニズムを解明するのにも、欠かせないんだ。」




 オレンジショートな髪の男は、続けた。




 「ほら、食べてみなよ。」




 オレンジショートな髪の男は、僕に、苺を取ると、手渡した。




 大きな苺だ。




 「ありがとうございます。」




 モグモグモグ




 「甘い!美味しいです。」




 僕は、顔を綻ばせた。




 「最初は、味もなく、食べられたものではなかったが、改良を加え、だいぶん、美味しくなったんだ。」




 オレンジショートな髪の男は、嬉しそうに、言った。




 「次は、医療研究室を案内するよ。」




 金髪碧眼の女は、壁を蹴って、移動する。




 「こっちだよ。」




 扉の前に、来た。



 

 入って来たときとは違う扉だ。




 「スベースエーアイ 第二扉を開けて。」




 金髪碧眼の女は、指示した。


 


「畏まりました。」




 中に入る。




 ネズミが入れられた箱が目についた。



 

 次に、顕微鏡や、フラスコ、ビーカー、試験管、コンピュータ類が、あった。




 「ネズミですか?」




 僕は、不思議に思ってきいた。




 「違うよ。ラットだよ。」




 金髪碧眼の女は、否定した。




 「ラット?」




 僕は、ききかえした。




 「実験動物だね。鼠は、医療研究には、最適なんだ。」



 

 金髪碧眼の女は、答えた。




 「人類は、ラットを使って、実験し、ウイルスに対抗する注射や、様々な薬の開発をしてきた。人に使う前に、ラットで十分に実験してから、人へ応用していくんだよ。」




 金髪碧眼の女は、説明した。




 「人類も残酷な生き物なのさ。」




 金髪碧眼の女は、笑った。




 「宇宙では、重力がないために、骨が脆くなりやすい。重力と骨の生成プロセスを、解明するにも、ラットは使われているよ。」




 緑髪ロングでメガネをかけた女は、言った。




 「無重力な宇宙では、筋肉は萎縮し、骨密度が低下する。遠い宇宙を旅するには、克服しないといけない、問題なんだ。」




 緑髪ロングでメガネをかけた女は、話した。




 「大変ですね、人は。」




 僕は、呟いた。




 「君たち、不死身には、縁のない話だろうがね。」




 緑髪ロングでメガネをかけた女は、僕をみて、言った。




 「どう?面白いでしょ、人工衛星の中。」




 金髪碧眼の女は、きいた。




 「はい。知らないことが一杯あります。」




 僕は、笑った。




 「おーい。ご飯できたぞお。」




 人工衛星内に、アナウンスが鳴った。


 


 「ご飯にするか!。宇宙食を食べよう、あと、今日取れた作物で作った炊き立ての米と、じゃがいもをバターで焼いたのがある。」




 金髪碧眼の女は、手を叩いて提案した。




 「いいねえ。」




 乗組員たちは、肯定した。




 「君も、いいよね?」




 金髪碧眼の女は、僕の顔を覗き込んだ。




 大きく青い瞳に曇りはなかった。




 「はい。」




 僕は、頷いた。




 「スペースエーアイ 扉を開けて。」




 金髪碧眼の女は、スペースエーアイに指示を出した。




 入って来た時とは、違う扉が開いた。




 扉をくぐる。




 「よお。もう、ご飯できてるよ。」




 紫ロングヘアの男が、料理を作っていた。




 僕をみつけると、目を合わせた。




 「君が、破壊くんか、ずっと衛星から、みてたよ。」




 紫ロングヘアの男は、二っと笑った。




 「ま、ゆっくりしていきなよ。」




 紫ロングヘアの男は、炊飯器から、ご飯をよそい、レタスとトマトのサラダにドレッシングをかけた。




 「宇宙食は、鶏肉と、味噌汁にしといたよ。」




 紫ロングヘアの男は、オーブンから鶏肉、レンジから、味噌汁の入った、容器を取り出した。




 「食べますか!。」




 金髪碧眼の女は、言った。




 「おいしいわね。君はどう?」




 金髪碧眼の女は、きいた。




 モグ、モグ、モグ―




 「美味しいです。」




 僕は、食べて、飲み込んだ後、答えた。




 「みんなで、食べると、美味しいでしょ?」




 金髪碧眼の女は、笑った。




 乗組員の人たちも、僕を歓迎していた。




 「はい。」




 僕は、頷いた。




 はじめてだ、破滅ちゃん以外の人と、ちゃんとした食事を摂るのは。




 心が、ポカポカして、心地いい。




 クソ、なんで、泣いてるんだ。




 これから、殺さないと、ダメなんだぞ。




 悔しい。




 いい人ばかりだ。




 「どうしたの?」




 金髪碧眼の女は、僕をみて、心配そうにした。




 乗組員たちも、みている。




 「いいや、なんでもないです。いい人たちだなあ、と思って―。」




 僕は、少し俯いて、笑みを浮かべた。




 人の温かみを感じた。




 心地いい。




 バッコーン!




 凄まじい音と、衝撃が人工衛星を、襲った。




 「どうしたんだ!。」



 

 金髪碧眼の女は、焦る様子で、周囲を見渡した。




 「緊急速報 緊急速報 侵入者! 侵入者! 衛星に穴を空けられました! ロボットシステムが、迎撃中です。」




 スペースエーアイから、アナウンスがきこえる。




 「こりゃ、マズいね。」




 金髪碧眼の女は、参った様子で、髪の毛を掻いた。




 ヒュゥゥゥゥ、ゴロン




 「え?。」




 僕は、目を疑った。




 床に、ロボットの女の顔が、転がって来た。




 ゴロ、ゴロ、ゴロ―




 首元の配線や、金属が、抉られている。




 「侵入者です、皆さんどうか、逃げて―。」




 ロボットの女は、消え入りそうな音で、言った。




 「まだ、喋るのか、面白い機械だなあ。」




 破滅ちゃんの声だ。




 「おら、おら、おらああ。」




 ドン、ドン、ドン




 何度も、右足で、ロボットの女の頭を踏みつけた。




 バリ、バリ、ボキ




 壊れて、粉々になった。




 「よう、破壊くん、元気してたか?」




 破滅ちゃんは、僕をみつけると、二っと笑った。




 破滅ちゃん!




 悍ましく、恐ろしいのに、美しい。




 すべてを許してしまいたくなる、笑顔。




 僕は、なんとも言えない気持ちになって、顔を背けた。




 「侵入者! 侵入者!。」




 ロボットの女が、奥から、出てきた。




 「ロボットだ! 何体いるんだろう。」




 僕は、呟いた。




 「12体だよ。」




 金髪碧眼の女は、答えた。




 ガシ!




 ロボットの女たちは、破滅ちゃんを拘束しようと、囲って、押さえつけた。




 「ふうん、よくできたロボットたちだ。」



 

 破滅ちゃんは、余裕の表情をみせた。




 「死ねよ。」




 グルグルグルグリョオオオオンンン




 超高速で、回転して、独楽みたいにグルグル回る破滅ちゃん。




 「竜巻だあああ。吹っ飛べやああ。」




 破滅ちゃんは、両手を横いっぱいに広げ、回転し、ロボットを、抉り、吹き飛ばした。




 ロボットは、破壊され、粉々になった。




 「破壊くん。ポケーとしてないで、殺しなよ。」




 破滅ちゃんは、ニッコリと笑った。




 目は笑っていない。




 「あたしたち、仲良くできないかな?」




 金髪碧眼の女は、足をガクガクとさせながら、前に出た。




 「あら、可愛いお嬢さん。残念ね、死んでもらうわよ。」




 破滅ちゃんは、優しく、金髪碧眼の女の頭を撫でた。




 「ほら、破壊くん、はやく、金髪のお嬢さんを殺して差し上げて。」




 破滅ちゃんは、金髪碧眼の女の首を掴むと、僕へ向かって投げた。




 ビューン、バタン。




 金髪碧眼の女は、僕の目の前に、投げられ、倒れた。




 無重力だというのに、人工衛星の床に、倒れている。




 「あたしに、かかれば、モリモリ重力で、無限なグラビティよ。」




 破滅ちゃんは、腰に手を当てて、無重力を無視して、床を歩いた。




 破滅ちゃんは、無重力の影響で宙を浮かぶ僕の前に来て、顔を近づける。




 「殺って、破壊くん、出来るよね?」




 破滅ちゃんは、優しい微笑みを浮かべる。




 「できないよ。」




 僕は、震えた。




 「情でも、沸いたか?」




 破滅ちゃんは、僕の方をみた。




 情か。




 わからない、ただ、楽しかったのだ。




 知らないこともたくさんあった。




 殺してしまったら、もう、一緒にご飯を食べることも、まだ、知らない事も、わからない儘、終わってしまうのではないか。




 「覚悟を決めてくれ、破壊くん。あたしたちは、役目を果たさないといけない。」




 破滅ちゃんは、涙を流した。




 「壊してみないと、わからないこともある。」




 破滅ちゃんは、続ける。




 僕は、悩んだ。




 酷く、頭が痛かった。




 またか―。




 また、大事なモノを失うのか。




 「ごめん。」




 グサッ!




 金髪碧眼の女の胸に、僕の右手が貫通した。




 「ケホ、ケホ―。」




 金髪碧眼の女は、血反吐を、出す。




 苦しそうに咳き込んでいる。




 ダラリ、ダラア




 胸から血が流れ出て、僕の腕を伝う。



 

 「君たちとは仲良くしたかったな。人類最後の絶望でもあり、希望だったんだ。」




 金髪碧眼の女は、途切れ途切れ息を切らしながら、顔を歪めた。




 「ああ。僕は、僕はああ。」



 

 気が動転した。




 クラクラして、眩暈がする。




 「君は、悪くないよ。ありがとう、出会えてよかった。」



 

 金髪碧眼の女は、力強く笑ってみせた。




 心臓の音が止まった。




 呼吸もない。




 「死んだ。」




 僕は、冷たくなっていく、金髪碧眼の女を肩を抱いていた。




 血が、丸い粒となって、無重力な宙を、ぐるぐると浮かんでいる。




 「仲良くするのは、無理だったのか―。」




 他の乗組員の人たちは、顔を真っ青にして、震えていた。




 「破壊くん、わかってるよね? 全員 殺すんだよ。まだ11人いるよ。」




 破滅ちゃんは、僕の後ろ肩から、両手を回して、前におろして、耳元で、囁いた。




 耳元に当てられる吐息が、僕を刺激する。




 身体中が、溶けそうなくらい熱くなる。



 

 「殺るよ。」




 僕は、決心して、立ち上がった。




 「うああああああああああああああ。」




 グサリノリンリン、グリョンリョンリョン―




 茶髪で筋肉質な男 頭頂部から股にかけて、真っ二になった。




 黒髪で細身な男は、身体中に拳で穴を空けられ、穴人間になって死んだ。




 茶髪ボブな女は、首の左横から、斜めにバッサリと、チョップされて、斬れて、二つに分裂し死んだ。




 短髪青髪の男は、首を、両手に握りつぶされて死んだ。




 黒髪ロングな女は、右手で心臓を取られて死んだ。




 オレンジショートな男は、右手で胴体を真っ二つに斬られて死んだ。




 アフロ茶髪な男は、指を閉じて揃えた手で、縦に2回横に二回斬られ、9等分にされて死んだ。




 パーマがかった赤毛の女は、右手で首を斬られて死んだ。




 緑ロングなメガネの女は、顔面を思いっきり殴られて、首が吹っ飛んで死んだ。




 11人全ての乗組員を、殺した。




 「僕が、殺ったのか―。はは、ふはは。」




 涙が零れてきていた。




 「ごめん。」




 口から謝罪の言葉が、思わず出てしまう。




 乗組員の人たちは、誰一人として僕を、ゴミ扱いしなかった。




 僕を尊重してくれていた。




 気のいい、人たちだったのだ。




 殺される寸前まで、僕と対話をしようとしてきた。




 だのに、僕は、容赦なく、殺したのだ。




 迷いなく、苦しんで死なないように、バッサリと殺った。




 「世界を滅ぼしても、いいことなんて何もないよ。」




 アフロ茶髪の男は、僕を諭していた。




 「君がまだ、知らないたくさんの不思議や、面白い現象があるんだ。滅ぼしてしまったら、わからない儘だよ。」




 緑ロングなメガネの女は、僕を説得しようと、話してくれていた。




 他の乗組員にしても、全員が、僕と、意思疎通を図ろうとしてくれていた。




 「ははは、ふははははは。」




 思わず笑ってしまう。




 手には、ベットリと血が付き、真っ赤になっている。




 返り血が、服を赤く染め、顔にも、付いている。




 無重力な空間に、血と死体が、浮いてぐるぐると廻っていた。




 「もっと、ぐちゃぐちゃにして、誰の遺体かわからなくしないとね。破壊くうん。」




 破滅ちゃんは、僕を右耳を舐めて、背筋を右手で撫でた。




 「はいいい。」



 

 僕は興奮して、身体に熱を感じる。




 グリョンノリョンリョンブシュウ



 

 僕は死体を粉々に切り裂いた。




 宙を浮かぶ死体たちが、肉の粉となって、血と共に無重力を浮いた。




 ギュルルルルルルル




 妙な音がきこえる。




 「おい。まさか、この音は―。」




 寒気が襲ってきた。




 「衛星核爆弾だね。」




 破滅ちゃんは、笑った。




 「マズいよ。」




 僕は、唸った。




 バッコーン!




 ドリュリュリュリュリュリュ―。




 「ひええ。」




 僕は、悲鳴をあげた。




 宇宙統合開発人工衛星は、跡形もなくなくなってしまった。


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