25 世界中から、森林が、なくなる。

 「海がなくなった、空が灰色になった!?」

 僕は、背筋が凍る感覚を憶えた。




 恐ろしい、自然を破壊したのだ。




 偉大な、僕たちの大切な、海を殺したのだ。




 「どうしたの、真っ青だね、後悔しているのかい?」

 破滅ちゃんは、僕の顔を覗き込んで、僕の心の全てを知り尽くしているかのような確信に満ちた表情で、きいた。




 ブルブル、ブルブル




 身体が震える。




 恐ろしい。




 「海が死ぬと、どうなると思う?」

 破滅ちゃんは、問いかけた。




 海がなくなった―、途轍もなく、おそろしいのだけはわかる。




 「わからない。」

 僕は、ブルブルと震えた。




 「ふふ、かわいい、コワいの?」

 破滅ちゃんは、微笑んだ。




 「海がなくなるとね、地球は、気候変動が起こって大変なことになるわ、雨も降らなくなるし、空気は薄くなる、寒暖差が激しくなって、人が住めるような星ではなくなるわ。」

 海の恵みは、尋常ではなかったのだ。




 僕は、大量に人を殺すよりも、街を破壊するよりも、ずっと、おそろしい、ことをしてしまったのである。




 「美しかった青い空もなくなちゃった―。」

 僕は、涙を流した。




 「地球以外の惑星は、到底、人や生物が住める場所ではないのよ。少しずつ、住みにくくなっていくでしょうね。月や火星のように。」

 破滅ちゃんは、地球の行く末を、楽しみそうに、ウキウキしている。




 「おそろしくないのか?」

 僕は、尋ねた。




 「ええ。だって、地球は生きてるもの。殺さないとね。」

 破滅ちゃんは、冷淡に言った。




 「酷いよ。全部殺したら、無だよ。寂しいよ。」

 僕は、俯いた。




 「君が殺ったんだろ? いいじゃないか、全部破壊してやろうよ。」

 破滅ちゃんは、僕を、唆した。




 「破壊するよ。終わらせるためにね。」

 僕は、震えが止まらなかった。




 「へえ、破壊くん、自然に畏怖を憶えてるんだね。」

 破滅ちゃんは、呟いた。




 「畏怖?」

 僕は、ききかえした。




 「ええ。ありがたいものとか、どうしようもない災厄は、畏れられるのよ。」

 破滅ちゃんは、答えた。




 僕は、畏怖していたのだ。




 圧倒的な存在であった、海を地球から消し去ったことで、偉大さを知り、恐怖していたのだ。




「いまのあなたも、畏れられる側よ。」

 破滅ちゃんは、続けた。




 「科学が発展してから、人類は、畏れなくなったわね。だって、真実がわかってしまうのだもの。」

 破滅ちゃんは、笑った。




 「真実?」

 僕は、首を傾げた。




 「ええ。神だと思っていたものが、ただの現象でしかないことが、わかっていったのよ。」

 破滅ちゃんは、答えた。




 「ふえ。人類は、凄いです。」

 僕は、唸った。

 



 「海は偉大だろ? 海がなければ、地球で生命が、進化、繁栄することは、なかった。つまり、世界滅亡へ、近づいたということだ、喜ばしいことではないか。」

 喜ばしいかはわからない。




 ただ、虚しさと、無常を感じていた。




 「次第に、森は枯れ、地球は砂漠となり、生き物の殆どは絶滅するよ。」

 破滅ちゃんは、淡々と話した。




 「ひ、酷い。」

 僕は、反応した。




 「え?まだまだ、だよ。気候変動まで、時間がある。先に、森を全部、燃やして、焼き尽くして、更地にしないとねえ。」

 破滅ちゃんは、残忍な笑みを浮かべた。




 「ま、まさか。」

 厭な予感がした。




 「ええ。君には、肉海爆弾になって貰いまして、森と山を消し炭にしてもらうわよ。」

 破滅ちゃんは、穏やかで、慈悲深い表情を僕へ向けた。




 「嬉しいでしょ?」

 破滅ちゃんは、近づいて、僕の顔を斜め右横から、覗き込んだ。




 かわいい。




 美しい






 「破滅ちゃん、僕やるよ。」

 僕は、決意し、やることにした。




 「うんうん。かわいいねえ。破壊くんは、よしよし。」

 破滅ちゃんは、僕の頭を撫でて、微笑んだ。



 「ついてきて、破壊くん。」




 ギラーン




 シュラララララ




 破滅ちゃんは、黒い焔の翼を背中に宿し、空を飛んだ。




 「わかった。」




 シュルルルルル




 白い翼の焔を背中に宿し、破滅ちゃんの後をついて、飛んでいく。




 「森がみえるだろ?」

 破滅ちゃんは、森林を、見下ろして、指をさした。




 辺り一面、広い森で、埋め尽くされていた。




 「降りてみようか?」

 破滅ちゃんは、森へ降りて行った。




 「森林は、生き物にとって、なくてはならないものだ。」

 破滅ちゃんは、森林の木々を、触り、上を見上げた。




 木々からの木漏れ日が、気持ちい。




 虫や、動物の鳴き声が時より、きこえる。




 「森なくなれば、どうなるだろうねえ。」

 破滅ちゃんは、二ヤりと笑った。




 「どうなるの?」

 僕は、おそる、おそる、たずねた。




 「さあね。やってみよお。」

 破滅ちゃんは、右手を握って、高く上げた。




 ガオ、ガオ、ガオン




 「鳴き声?」

 僕は、危険を察知して、身構えた。




 ガオン、ガオ。




 「で、でかい。」

 巨大な、熊がいた。




 「大熊さんだねえ。」

 破滅ちゃんは、熊を、みて、楽しそうに、笑った。




 「破壊くん、殺れるよね?」

 破滅ちゃんは、僕の顔を、右横から、ギラりと、輝く、大きな瞳で、覗きみた。




 目が合う。




 狂暴で、美しい、目。




 癒される。




 「やるよ。」

 僕は、返事した。




 「よし、いいこだ。」

 破滅ちゃんは、優しく微笑んだ。



 うああああああああああああああああ




 「ごめんよおおお。」

 僕は、熊に向かって、走る。




 右ストレートで、心臓目掛けて殴る。




 グサッ




 右腕が、熊の胸を貫通し、突き抜ける。




 ガオォォォォ、ォオ




 悲痛な、泣き声が、森中に響き渡った。




 バタン




 熊は、地面に倒れた。




 血が流れ出し、地面が、血の色で、染まる。




 「ウォーミングアップには、なっただろ。」

 破滅ちゃんは、ニチャりと、笑った。




 「ウォーミングアップって、まさか―。」

 厭な予感がする。




 「ええ。勿論、肉海爆弾のお時間でちゅよ。」

 破滅ちゃんは、目を細め、口角を上げた。




 粉々にされるのだ。




 分裂させられ、複製しなくてはならない。




 痛く、苦しい。




 爆弾ミサイルにされるのだ。




 ひええ、おそろしい。




 「かわいい、かわいい、破壊くんだから、もおっと、いたぶって、あげないとね。嬉しいでしょ?」

 破滅ちゃんは、興奮した様子で、僕の方へ、近づいてきた。




 胸から、胸から、小さなハンマーを取り出した。




 「小さいけれど、重くて、硬くて、痛い素材で、出来てるよぉ。ふふふ。5757t、ハンマーだよお。」

 破滅ちゃんは、軽々と、5757tあるハンマーを右手で、握って、持って、僕の方へ、近づく。




 「じゃ、死んでね、かわいい、かわいい、破壊くん。」




 ガン、ガン、ガン




 グチョり




 頭から、1発、2発、3発と、やられた。




 ハンマーは、頭を破壊し、貫通し、股を、突き抜けた。




 裂け目から、脳や、内臓が飛び出し、潰れている。




 ガンガンガンガンガンガン




 左右、太ももの付け根と、膝関節、足首を、ハンマーで叩きつけられ、千切れた。




ガン、ガン、ガン




 ガン、ガン、ガン―




 何度も、何度も、死んで、潰れた僕の肉体を、ハンマーで打ち付ける。




 鈍く、重い、強烈な痛みが、全身を襲う。




 首は、千切れ、肩は、千切れ、関節も、手首も、もう、千切れて、バラバラになっていた。




 バラバラになっても、ハンマーの音は鳴りやまない。




 ガン、ガン、ガン―




 ずっしりと、重い音が、森中に、響き渡る。




 跡形もなくなっていた。




 地面には、ハンマーでたたいた所に、大きな穴がたくさん、できていた。



 

 僕は、塵になった。




 「うん。いい感じに、潰せたね。」

 破滅ちゃんは、満足そうに、頷いた。




 「おーい。ボケっとしてないで、はやく、複製しろよお。」

 破滅ちゃんは、僕に、呼びかける。




 催促する。




 「塵ごと、燃やしちゃうぞぉ。3 2―。」

 破滅ちゃんは、急に、カウントダウンをはじめた。




 待ってくれ。




 破滅ちゃん、マズいよ。




 はやく、複製再生しないと。




 グリョンリョン、ニュニュニュ、グニョ




 一斉に、粉々となっていた、僕たちは複製し、70億体程度に増えた。




 森が、僕で、埋め尽くされる。




 「ふふ。いっぱい、産まれまちたねえ。これから、死んでもらいまちゅからねえ。」

 破滅ちゃんは、優しく目を細め、おだやかな笑みを浮かべる。




 シャラララーン




 破滅ちゃんは、複製し、70億体に増えた。




 胸から、大きなミサイル用の筒を取り出す。




 「入ってね。もう、慣れてきたでしょ?」

 破滅ちゃんは、かわいくウィンクして、僕を眺めた。



 

 「はい。」

 僕は、破滅ちゃんの指示通り、じぶんから、ミサイル用の筒に潜っていった。




  ボチャ、ボチャ、ボチャ。




 お馴染みの、液体燃料と、爆弾を、ミサイルに投入され、溺れて死んだ。




 「蓋閉めるぞ。」

 破滅ちゃんは、筒に蓋をした。




 「よいしょっと。」

 破滅ちゃんは、胸から、発射台を、取り出すと、僕を取り付けた。




 「行くぞ、破壊くん肉海爆撃ミサイル 3 2 1―」

 破滅ちゃんは、カウントダウンしはじめた。





 「ゼロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」




 ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウ、ドリュリュリュリュリュリュリュ―




 発射して、勢いよく、70億体の僕を乗せた、ミサイルが、飛んでいく。

 



 「世界中の森林を、壊滅させろおおおおお。」

 破滅ちゃんは、叫んだ。




 ドッカーンノドンドン




 世界中の森林という森林に、飛んで、爆発していく。




 バッコーンノバッコンバッコン




 ボウ、ボウ、ボワアアア




 森の木々は、倒れ、焔があがる。



 ボウ、ボウ、ボワアアアノ、モクモク、モクク―




 樹齢、数百年の木も、死んでいく、燃えていく。




 黒い煙が、空に上がり、真っ暗な空になった。




 熱い。




 森が、泣いている。




 火に強い木も、ミサイルで、粉々に潰れ、粉末となり、燃える。




 高さ100m近い木々も、倒れ、火事となる。




 「ギャオオオオおおおおおお。」

 森に棲んでいる動物たちの、悲痛な泣き声。




 響き渡る、悲鳴。




 涙が、流れてくる。




 僕は、侵略者だ、略奪者だ。




 「凄いわ、破壊くん。いい景色ねえ。」

 破滅ちゃんは、森林や木々の生い茂る山々が、燃え盛っている様子を、空から、みて、愉快に、満足した様子で、笑っていた。




 赤い炎が、あちこちで、上がっている。




 僕も、火に焼かれ、塵となり、宙を舞っていた。




 火は、3日3晩、ずっと、燃え続け、世界中の森林を、灰にした。


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