3 はじめて、人を殺す。

 「ねえ、破壊くん。今日は、デートするわよ。」

 破滅ちゃんは、僕の左手をつかんだ。




 「デート?」

 わからない、デートとは―




 「デートって言うのはね、二人でお出掛けする事よ。」

 破滅ちゃんは、笑った。




 「服、着替えないとね。今の君の服じゃ、格好つかないよ。」

 破滅ちゃんは、クローゼットから、高級そうな服を取り出してきた。




 黒のテーラードジャケットに、黒のポロシャツ、黒のテーラードパンツ、黒のローファを取り出す。




 「サイズは大丈夫そうね。」

 破滅ちゃんは、僕に服を、着せ始めた。




 「あたしの昔、着てた服よ。女物だけれど、似合ってるわね。」

 破滅ちゃんは、笑った。




 「ほら、鏡でみてみなよ。」

 破滅ちゃんは、立鏡を指さした。




 「わあ。」

 とても、かっこいい。




 ほんとうに僕なのだろうか―。




 いい服だ。




 いつも、裸か、ボロボロのシャツとズボンしか着たことがなかった。




 着心地が、よすぎる、肌が喜んでいるのがわかる。




 「喜んでもらえてるみたいで、よかったわ。」

 破滅ちゃんは、微笑んだ。




 「行きましょ?」

 破滅ちゃんは、玄関の、黒色の格子で仕切られたガラス戸を開けた。




 ガチャ




 広い、庭に出る。




 外から、破滅ちゃんの豪邸をみる。




 天井の高さが、9mほどの27階建てで、地下は、8階まであるらしかった。




 僕は、まだ、一階のリビングと、お風呂しか知らない。




 庭から、外の出入り口の、ロートアイアンの葉っぱや、クローバー、花、茎の柄に作られた、鉄の扉を開いて、広い道に出る。



 

 「手を繋ぎましょ?」

 破滅ちゃんは、僕の左手を、右手で、繋いだ。




 道を歩いていく。




 都会だ。




 高層ビルやショッピングモール、服屋や、飲食店、書店、商業施設が立ち並んでいる。




 小さな、10歳にも満たないであろう、兄妹かと思われる子供が道を歩いていてすれ違った。




 ブシュウ




 破滅ちゃんは、男の子のお兄ちゃんの首を右手で、シュパっと切り落とした。




 ???




 破滅ちゃん?




 男の子の頭が吹き飛び、血が噴き出す。




 「お兄ちゃん?きゃあああああああ。」

 女の子は、叫ぶ。




 「破壊くん、君がこの子を殺るんだ、出来るよね?」

 破滅ちゃんは、天使の柔らかい笑みを浮かべ、僕をみつめた。




 人を殺す?



 

 殺されっぱなしだった僕が?




 殺るのか?




 意図が掴めない、どうして、破滅ちゃんは、急に子供を殺したのか。




 「あたしを失望させないでよね。」

 破滅ちゃんは、ニコリと、笑った。




 破滅ちゃんに失望されるのがコワい。




 唯一、生まれてはじめて僕を人間扱いしてくれた、破滅ちゃん。




 褒められたい、捨てないでほしい。




 「うん、出来るよ。」

 僕は、女の子の方へ近づく。




 殺らなきゃダメなんだ。




 絶対に殺す。




 女の子を殺すことだけを考えていた。




 「ごめんね。」

 僕は、女の子の胸に、右腕を、ぶっ刺していた。




 女の子の胸に穴が開く。




 「え?」

 僕は驚いた。




 僕の、何処に、人の胸を貫通させるほどの、力があるのだろう―




 殺れてしまったのだ。




 はじめて、人を殺った。




 生き物の命を奪うのさえ、はじめてだった。




 僕は、殺生を好まない。




 「よく、できまちたねえ。よしよし、えらい、流石は、あたしの男ねえ。」

 破滅ちゃんは、満面の笑顔で僕の頭をなでなでして、頬を摺り寄せた。




 嬉しかった。




 役に立てた。




 「殺しの才能があるわねえ。見込んだ通りだわ。」

 破滅ちゃんは、僕の耳元で、呟いた。




 「殺すの楽しいねえ?」

 破滅ちゃんは、にこやかに、笑った。




 殺すのは楽しくない。




 気分が悪い。




 「楽しいねえ。よく出来たねえ。」

 破滅ちゃんは、僕の方をじっと、黒いキラキラした目でみつめる。




 「うん。楽しい。」

 僕は、心にもない事を口にしていた。




 殺人が正当化された瞬間だった。




 破滅ちゃんの為だったら、殺してもいい。




 僕の頭の中で、禁じられていた殺生が、解禁された。


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