第一章 留学準備編

1.ギブです、英語ざんまい

「……であるから、皆本日より馨英きょうえい女学園の一員として――」

 やっば、寝てた。よだれ出てないやんな? 不自然に見えないよう、髪を耳へかけるついでに確認する。よかった、大丈夫そう。

 どうして、校長先生ってどこも話長いん? 遠回しだって、直接的だってどう話そうが、どうせ眠くなるんやから……こうズバッとスッキリ端的に言ってほしいわ。

 

 まさかの半分寝こけてたおかげで、入学式はあっという間に終わった。

 教室へ移動中。無事おなじクラスに受かったいこまちゃんから、ブレザーの裾をちょこっと引っぱられる。いや、女子同士でもきゅんとしちゃうくらいかわいいけどさ。言いたいことは、かわいいことじゃないんやろ?

「カッシー、さっき寝てたやろ?」

 ほらやっぱり。ええそうですが何か。名前順だと隣やもんね。見えてる……ちゃうな、ガッツリ見てたなきっと。ハハッ。

 いこまちゃんかわいいのに、かわいいからか? ものすごくしてるもん。中学んときもめっちゃイジられたし。しばらくイジられるわな、これ。頬が引きつるのを止められない。そんな引きつった頬すらイジられながら、一年間も過ごさない教室へ戻った。


 中学のおさらいも何もなくはじまった勉強。中学の勉強は『土台』だからできて当たり前で、そのあたりは何も問題ないんだ・け・ど……英語むず⁉︎ なんで、一年から英語4つもあるん? しかも、内2つなんて日本語皆無て。いや、国際科やから英語しか話さん授業あってもいいけどさ。留学するから日常会話でいるんやろうし。

 でも、だからと言って! 別にむずかしい英語がやりたくて入ったんじゃないんやけど……。しかたないか。気持ち的には、英語ちょっと話せて異文化の研究系がしたかったのになあー。高校じゃあ、やっぱりにむずかしい英語ができる方がいいんやろう。そう言った授業しかないのも事実。だからと言って、留学を辞めたいわけじゃないからやりますが。留学までの我慢だと言い聞かせるしかない。がんばれ、いずみ!

 

 そんな英語事情からか、うちの学校の朝は早い。というか、国際科がみんな早く来るだけ。なんせ高校三年間のうち一年も留学にあてるので、残りの二年で受験勉強をしないといけない。だから、本来中学の復習とともに新しいことを学んでるはずの一年生で、すでに『留学準備』という名の受験勉強だったりする。

 留学準備には間違いないんやけど……大学受験にむけて英検を二級受かる必要があるって言われた時は「あー……」って思ったわ。英語だけを武器に四大目指す科だから、しかたないのかもしれないけどさ。留学前から二級なんて、受けさせないでほしい……ムリか。最初の英検は準二級以上。ホントって何やねん……。何回受けるんよ? おかげで、朝は授業前に小テスト。放課後も英検用の単語テスト。正直、終わらんって。

 いや、入学前から留学行ったら高校生活じゃないのもわかってたし? 留学行きたいからやるけどさ、やりますけどさ。気分的な問題? ちょっとはこう、なんていうかさせっかく『女子高生』になれたからキャッキャッしたかったってのがね。たまぁ~に息抜きと称して、最近仲良くなったたからと駅前のカラオケ行ったりするけどさ。他に遊ぶところもないし、ちょっと遠いから――家帰った方がはやいし。でも、遊びたいし?

 

 と、そんなことを考えていたのも悪いと思いますが。現実逃避がしたくなるのも事実で。

 あ゛あ゛ーっ⁉︎ ムリ! ギブです、ギ・ブ!

「たから〜。ムリぃ。頭パンクするぅ」

「いずみん……」

 あ、そんなかわいそうな子を見る目やめて。いたたまれない。たからに泣きついたうちが悪いけど。物理的に。

「じゃあ、一応聞くけど。何したいん?」

「本読みたい‼︎ ラノベ系! もしくは大声熱唱! あ、ゲームでも可‼︎」

 たからは、しかたない子って感じで構ってくれるからスキ。めっちゃ真剣に考えてくれるし。読み漁るジャンルも合うので、趣味も合う。推しをつくらず、世界観を楽しむ感じがそっくりやし。浅く広くの手を出す感じのオタク感がいっしょやの。見た目は超ギャルっぽいのに。

「んー最近、ラノベ漁りし損ねてるし。今、新しいゲーム出てないしなぁ。カラオケ行く?」

「行きます‼︎ やります! アニソンメドレー!」

 すみません、即答で。だって、ツライの嫌やもん! バイト禁止やから、ストレス発散は遊ぶしかないやろ?


 そんな感じで、英語三昧。時々現実逃避。

 気づいたら、もう冷房入れる季節。梅雨、どこ行った? って勢いで雨が降らず。六月末の今日、ほぼ真夏日の夏日。あっちっちー……溶けると思うんは、うちだけか? 蒸し蒸ししてるから、よけい暑いんか。

 それでも、夏なのにセーターが手放せない……なぎさ姉ちゃんが言ってたのは、本当やったのね。

 京都から通うなぎさには、お姉ちゃんが二人いる。しかも、二人とも馨英きょうえい卒の留学組。そのお姉ちゃんたちは、入試説明会で留学に行った経験を話すために卒業生枠で呼ばれていた。その時個人的に教えてくれたのが、冷房が古すぎて調整できない全空調システムってこと。寒かったら、夏でもセーターオッケーが暗黙のルール。下着透ける対策とかじゃない。めっちゃ寒いんだわ。暑いのダメなのに冷房機器苦手のうち。教室で凍え死ぬところやったわ。ちなみに、五月一日から衣替えです。半袖、フフッ。あっついわ……。

 そんな今日は、NO英語! ヤッホー!

 いや、英語の授業はあるんやけどね? ショボ冷房よりマシの家庭用クーラーがついたプレハブで。廊下からつながってるけれど、後から増築した感満載のプレハブは、少人数授業にもってこいやし。日本語皆無授業は、1クラスを教室とプレハブと空き教室の3つにわけてやってる。一人一人がしっかり英会話できるように。

 その日本語皆無授業があるんやけどね。留学の諸注意を教えてくれるんやって、前回の授業終わりに聞き取った。聞き取りはね、この間の模試でも全国1位出したんよ。そう、聞き取りリスニングね。長文読解? 聞かないで……すでに赤点常連組とだけ、言っとく。だって、おかしない? うちのクラスだけ60で赤点って。他のクラス40やで? ブッブー……。

 で。諸注意とは。

 ニュージーランドは、日本とちがい水にうるさい。節水が基本。洗い物はシンクで水につけて、隣のシンクで洗剤につける。流石に泡まみれではないけれど、そのまま乾燥。気になる人は使う際に拭き取るらしいとか。

 当たり前だけど、湯船につかる文化って海外では少ない。もちろん、ニュージーランドでも湯につかる人は少ない。活火山がある島国だから日本と同じように温泉があるので、入るならそっちへ観光がてら行く人が多いよう。ただ、日本とちがって水着必須やけどね。

 あとは、日本みたいに水道水は飲めないから必ず買うとか。日本のように治安がいいけれど、どの家庭にも拳銃が置いてあるとか――もちろん、護身用。等々。たくさんあるけど、ちょっとずつ授業の合間に教えてくれてたから今日は『確認だけ』みたいやったわ。

 こういう聞くだけなら、しかも文化や家庭事情の話ならめっちゃ好きやねんけどな。カモン英語! ってなるのに。フフフ……。


 あ、そういえば。

 うちのクラスには、そのニュージーランドからの短期留学生がいる。彼女は、もうすぐやってくるセミのうるさい日には帰ってしまう。そんな彼女に、ちょっとでも向こうの文化を聞こうと話しかけていたけれど……あいまいに返されることが多い。日本語勉強しに来てるから日本語で話しかけるけど、わからなそうな言葉は英単語に変えてみたりした。それでも、あいまいに返されることもある――日本語、むずかしいのかな? 片言でもめっちゃ上手に喋ってる方やと思うんやけど。うちが変なこと聞いたかな? あ、待って。うち、嫌われてるとか――あったら、イヤやな。仲良くしたいのに。あとちょっとやし。地味に傷つく!

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