第15話 機巧技師とサクラの真実
それからは怒涛の日々だった。
コクピット周りの設計を中心に、頭部パーツや装甲の鋳造も並行して行っていく。
機巧人形の操作方法は、魔核そのものに操縦者本人の動きのイメージを伝え、魔力導線を伝って、その命令を全身に行き渡らせるといったものだ。
そのため、操縦桿のようなものは存在せず、操縦者はシートに座って、魔核に手をかざすようなスタイルになる。
重要なのは、操縦者の保護、つまり安全性であり、それを決定づけるのが、胴体装甲だった。
今回、装甲材として主に使用するのは、あのラウンドタートルの甲羅だ。
魔物素材の中でも、硬度的には中級上位辺りに位置するこれを寄り合わせ、必要な形に加工していく。
元々が亀の甲羅そのものなため、多少不格好ではあるが、低レベルの魔物から取得できる装甲材料として、これほど上質なものはないだろう。
加えて、二次装甲として、とある金属を使う。
その金属とは、あのミノタウロスが持っていた棍棒だ。
魔核以外の肉体素材は、完全に焼失してしまったが、ミノタウロスが持っていた棍棒だけはほとんどそのまま残った。
持ち帰って調べてみたところ、この棍棒の素材は、"魔鉄"と呼ばれるものだった。
いわゆる魔法金属と呼ばれるものの一種で、魔力との親和性が非常に高い材質である。
金属という性質から加工性も高く、硬度的にも、ラウンドタートルの甲羅より優れている。
ただし、棍棒一本から摂れる量がそれほどでもなく、全身を覆うほどは確保できなかった。
そのためコクピット周りを中心に、二次装甲材として活用すると共に、金属として加工が比較的容易な点を活かして、甲羅だけではカバーしきれない、関節部の保護などに活用することとなった。
もっとも、容易とは言ったが、魔鉄を使ってパーツを鋳造しようとすると、どうしても炉の出力が必要となり、また、成形に関しても、それなりの技術を要求される。
かなりの資金と時間を取られることを覚悟していた僕だったが、その問題は意外なほどあっさりと解決した。
エルヴィーラさんである。
モントカルテの魔導士達は、地水火風など、様々な属性の魔法に習熟している。
一人が習得できる魔法の属性は一つまでと決まっており、エルヴィーラさんのそれは、モントカルテ人にもあまりいない"火"だった。
火を高度なレベルで自在に操れるエルヴィーラさんは、金属を溶かし、再形成するという作業を、いとも簡単にやってのけた。
そのおかげで、大型の炉を借りる必要もなく、急ピッチで、作業を進め続けることができたというわけだ。
いや、本当にエルヴィーラ様々である。
しきりに、褒めていたら、当の本人は、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
さて、そんなこんなで瞬く間に1週間が過ぎ、僕らの機巧人形は、随分"らしい"姿へと近づいていた。
最後の休日となる今日は、いよいよ起動実験となる。
これが上手くいれば、あとは、操縦者と機体の動きをアジャストしていく作業に入る。
ゴールが近づいてきたことで、僕はこれまでの作業の疲れも忘れるほど、テンションが上がっていた。
「さぁ、いよいよだ!!」
僕が両の拳を握って、瞳を輝かせていると、なんだかエルヴィーラさんも嬉しそうに微笑んでいた。
さて、あとは、操縦者となるサクラ君の準備が整えば、万事オッケーだ。
機巧人形の操縦者となる冒険者には、特に特別な技能といったものは必要ない。
強いて言えば、その戦闘技術だろう。
機巧人形は、操縦者のイメージをダイレクトに動きに反映させる。
つまるところ、より高等な戦闘イメージを持てる者の方が強いということであり、それは、おおよそ冒険者の素の実力と比例すると言っていい。
そして、サクラ君の実力は、同学年はおろか、学園全体においても、おそらくトップクラス。
その高い実力を試合で存分に発揮できるようになれば、本選出場だって、夢じゃない。
「すまない。待たせたな」
ワクワクしながら、機体を眺めていると、背中越しにサクラ君に声をかけられた。
「あっ、サクラ君!! …………って」
嬉々として振り向いた僕。
その目に飛び込んできたサクラ君の姿に、僕は絶句した。
機巧人形の操縦に際して、最も邪魔となるのは、魔力的なノイズだ。
魔力の流れに不純な要素が入り込むことで、時に機巧人形は大きくスペックを落とすことだってある。
だから、機巧人形に乗る操縦者は、普通の服ではなく、肌にピタリと張り付いたような、
そんなわけで、サクラ君にも、学園の購買でも売っている一番スタンダードな白の
冒険者とは思えないほどに、細くしなやかな腰、意外と張り出した腰回り、そして、何より。
「……あまりじろじろ見るな」
若干不機嫌そうにしながら、胸元を隠すサクラ君。
そうやって隠された方が、なんだか逆に、その
え、あ、いや、その……。
「サクラ君、女の子だったの……!?」
「男だと言った覚えはないが」
そう言いつつも、サクラ君は何とも言えない顔で、頬を掻いた。
「え、でも、この前抱きしめられた時は……」
ミノタウロスを倒して、安堵から僕を抱きしめてくれたサクラ君。
でも、その時は、あの女性的なふくらみの感覚なんて、まったく無かった。
「普段は、さらしでつぶしている。い、今は、お前が、下に何もつけるな、と言うから……」
あ、うん、ごめん。下着も魔力のノイズになっちゃうことがあるから。
いや、でも、待って。
エルヴィーラさんは、全然驚いてないぞ。
も、もしかして、気づいてなかったのは、僕だけ……?
まあ、性別が機巧人形の操縦に関係あるわけじゃないし、別に、それほど気にすることでもないか。
「とりあえず、不都合がないなら、さっそく起動実験を始めようか」
「ほう」
サクラ君が、どこかホッとしたように腕を降ろした。
「やはりお前は、信頼に足る男だ。前のあいつらとは違う」
「ん、何か言った?」
「いや、俺も、ワクワクしてるって、そう思っていただけだ」
なんだか、嬉しそうなサクラ君の笑顔。
どうやら、彼……あ、いや、彼女か。彼女も、この機巧人形を操縦するのを楽しみにしているようだ。
"彼"が"彼女"であったのには、多少驚いたが、今は、とにかく起動実験が成功することを祈るとしよう。
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