第14話 機巧技師、かつての仲間と遭遇する
「ふむ、さすがに魔核となると、なかなかの大金になったな」
「まあ、
とはいえ、コクピット周りだけなら、これだけ軍資金があれば、なんとかなるだろう。
メイキンさんの店で、ついでに、いくつかパーツを購入すると、僕らはコンテナストリートを歩き回って、方々で様々なパーツを掻き集めた。
前のトライメイツにいた頃も、散々通った店ばかりだ。
パーツの系統によって、どこで買えば最安値かは、頭にほぼほぼインプットされている。
あらかたの買い物を終えると、僕達は、港のベンチで一息ついた。
「ふぅ、ようやく終わりか」
「うん、ありがとう。サクラ君、エルヴィーラさん」
2人がいたおかげで、荷物を運ぶ手も十分に足りた。
あとは、学校の工房まで運び込めば、買い物ミッションもクリアだ。
近くにあった露店で売っていたアイスクリームを頬張りながら、僕達は遥か目の前に広がる海原を眺めた。
ジュノン行きの船だろう。純白のマストを輝かせながら、青い海をゆっくりと進んで行く。
腹もくちくなったことだし、常夏のこの島の気候も相まって、なんだかこのまま瞼を閉じてしまいそうだ。
いや、いかんいかん。これから、工房に帰ったら、今日中に最低限のコクピット周りを仕上げるのだ。
もう参加登録の期限まで、あと10日ほどしかない。
それまでに、レギュレーションを通過できるだけの機体に仕上げなければ、今年の
そんなことになったら、せっかく僕らに最後の機会を与えてくれたゼフィリア先生にも申し訳が立たない。
最後のひと欠片を口に放り込むと、僕は、よしっ、と立ち上がった。
「さあ、じゃあ、食べ終わったら、そろそろ……」
「おい、てめぇ、ビスじゃねぇか」
唐突に声をかけられ、びくりと振り返る。
そこに立っていたのは、あまり会いたくはなかった相手──僕の元トライメイツの2人だった。
筋骨隆々の男の方がマクラン、お団子頭の高飛車そうな女の方がルチック。
デートでもしていたのか、妙にべたべたと引っ付いた2人は、僕の方へと汚らしいものでも眺めるような視線を送っていた。
「や、やぁ、久しぶり……」
「久しぶり、じゃねぇよ」
マクランは、不機嫌そうに顔を歪める。
「てめぇ、他所でトライメイツを組んだらしいじゃねぇか。そいつらがそのメンバーか」
「あ、えっと……うん」
ベンチに座るサクラ君とエルヴィーラさんの姿を見て、鼻を鳴らすマクラン。
どうやら、チームを放逐された僕が、すぐさま、新しいトライメイツを組んだ事がお気に召さないらしい。
「よく、こんな役立たずを拾ってやったもんだぜ。俺なら金を積まれてもお断りだが」
「そうね。お姉ちゃんから受け継いだ私の
「あ、あはは……」
笑ってやり過ごそうかと思ったが、2人の物言いにひどく腹を立てた人物がいた。
サクラ君だ。
彼は、あからさまに顔に嫌悪感を滲ませながら、立ち上がる。
「以前、何があったのは知らないが、随分な物言いだな」
「やだ。イケメン……」
「おい、ルチック」
サクラ君の顔を見て、一瞬、見惚れたようになったルチックを、マクランが睨む。
「事実を言ったまでだ。こいつは何の役にも立たなかった」
「本当にそうか? 聞けば、お前たちは、機巧人形の整備に何の手も貸さなかったという。それが事実ならば、本当に役立たずだったのはどちらかな?」
「ケンカを売ってやがんのか。てめぇ?」
マクランとサクラ君が冒険者同士でにらみ合う。
あわわ、なんだか、一触即発な雰囲気になってきた。
と、その時だった。
「ねぇ、マー君」
「あぁ? なんだ、ルチック」
ルチックが何かしらを耳打ちすると、マクランはニヤリと微笑んだ。
「おい、ビス。どうせなら、俺達と機巧決闘をしようじゃねぇか」
「えっ……?」
腕を組み意外な提案をするマクラン。
だが、そのにんまりとした表情から、彼の魂胆がすぐに読み取れた。
簡単に
予選期間は9カ月。その間に、任意の相手との機巧決闘を成立させ、勝利数を稼ぐことになる。
そして、予選期間が終わった段階で、勝ち星の多かったトライメイツが本選へと進めるというシステムだ。
僕がトライメイツを抜けた時から変化がないとすれば、彼ら"ウォルプタス"の戦績は2勝1敗。
1敗が足枷となり、本選に進めるかどうかは、微妙なラインだ。
でも、3勝していれば、ほぼ確実に本選へと進める。
だから、白星を稼ぐためにも、確実に自分たちよりも下と見ている僕達との機巧決闘を提案したというわけなのだろう。
「どちらが役立たずだったか、それではっきりわかるっていうもんだ」
「なるほどな。いいだろう」
「えっ、ちょ、サクラ君!?」
売り言葉に買い言葉というやつだろうか。
サクラ君は一も二もなくマクランの提案に応じていた。
「言質を取ったぜ。もう、お前らは、逃げられねぇ」
「逃げるつもりなどない。ビスが有能な機巧技師であるということ、お前達に思い知らせてやろう」
「ふんっ。腹の立つ奴だぜ。まあ、せいぜい今のうちに吠えておくといいぜ。うちに新しく入った機巧技師は、2年生の先輩で、去年の大会でもベスト8まで残った実績がある男だ。お前と言うお荷物がいなくなった新生ウォルプタスに死角はねぇ」
「決闘の申請はしといてあげるわ。そうね……10日後、今から10日後の午後14時、学園の決闘場でどうかしら」
「いいだろう」
サクラ君がそう答えると、マクランとルチックは顔を見合わせて、にやりと微笑んだ。
「せいぜい、首を洗って待っていやがれ。お前らの機巧人形、魔核までズタズタに引き裂いてやる」
「お前達こそ、今のうちから負けた言い訳を考えておくことだ。恥を晒してから考えたのでは遅いからな」
サクラ君の憎まれ口に、眉間に皺をよせながらも、マクランとルチックは、鼻を鳴らしながら、その場を去っていった。
「ちょ、サクラ君、いきなり機巧決闘だなんて……」
「すまんな。お前がバカにされているのがどうしても我慢できなかった」
何気に、サクラ君は僕の事を高く評価してくれているらしい。
そのことをありがたく思うと同時に、ちょっとしたプレッシャーにも感じる。
10日後か……。ギリギリ登録は間に合うだろうが、戦える状態に持っていこうとすると、今以上にお尻に火をつけて頑張らないといけない。
「短絡的だったか?」
「ううん、むしろ、僕も覚悟が決まったよ」
10日以内に、それなりの性能の機巧人形を完成させ、僕を追放した元トライメイツを倒す。
これ以上ないほどの目標だ。
それに、僕は、相手の機巧人形については熟知している。
製作期間の短さというハンデはあっても、付け入るスキは十分にあるはずだ。
見ると、なんだか、エルヴィーラさんも、両手を強く握りしめていた。
どうやら、彼女もマクラン達に態度に憤っていてくれたらしい。
気持ちは一つ、とばかりに、僕達は頷き合った。
「よしっ! さっそくコクピット周りを完成させよう!」
購入した荷物の山を持つと、僕らは、学園への長い坂道を額に汗を滲ませながら、走り上ったのだった。
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