第13話 機巧技師、資金を調達する
やってきたのはネリヤカナヤの港町だ。
周囲を海で囲まれたこの島には、大小いくらかの港が存在する。
そんな中でも、最も大きな港が、このネリヤ港だ。
対岸にあるカナヤ港が、主に、漁船など、島内における海上活動の拠点であるのに対し、こちらの港は、交易を主としている。
つまるところ、物流の中継地点であり、必然、様々な店が連なる巨大な港となっている。
ここなら、それなりの対価を払えば、機巧人形作りに必要なパーツは、ほぼほぼ揃えることができる。
「それなりの対価があればの話しだがな」
サクラ君が腕を組みながら唸る。
基本貧乏学生の僕には、当然お金などない。
冒険者であり、何の後ろ盾もないサクラ君も同様だろう。
貴族令嬢であるエルヴィーラさんなら、もしかしたら、実家から融通してもらえる可能性もあるが、貴族だからといって裕福だとも限らない。
それに、仮に金持ちだったとしても、それに頼るのは、なんとなく違う気がした。
機巧人形作りは、自らの力で為してこそ、意味があるものだと僕は思う。
だからこそ、それに必要な資金集めだって、自分達の力でやってやるのだ。
そんなわけで、パーツの購入の前に、僕らは、港の西側へとやってきていた。
そこには、四角い箱のような店々が、軒を連ねている。
ネリヤ港名物、コンテナストリート。
積み荷の輸送用のコンテナをそのまま店舗へと改装したコンテナショップが連なるこの一角には、ジャンク品を扱っている店も多く、中には冒険者がダンジョンで手に入れた戦利品を買い取ってくれるような店もある。
僕は、迷いなくストリートを歩くと、とある一軒のコンテナショップの前へと辿り着いた。
それは、以前から僕が懇意にさせてもらっている、いわゆる"なんでも屋"だ。
店主が目利きで、適切な値段で魔物素材や魔道具の買取をしてくれるし、時には、なかなか手に入らないようなレアなパーツを融通してくれることもある。
店主の性格が、ちょっと個性的過ぎるのが玉に瑕だが、ここより信頼できる店を、僕は知らない。
開けっ放しの扉をくぐると、ところ狭しと様々な物品が並べられたそこには、誰の姿もなかった。
「留守か?」
「いや、たぶん、奥にいるよ。メイキンさーん!」
「はいはーい♪」
店の奥に向かって声をかけると、ヌッと大きな影が、店舗へと入ってきた。
「なっ……!?」
「!?」
サクラ君とエルヴィーラさんの顔が引き攣る。
うん、僕も初めはそんな反応したなぁ。
なにせ、店主が、筋肉ムキムキな上に、メイド服を着た女装おじさんなのだから。
「あらぁ、ちょっとご無沙汰じゃないのビスちゃん~♪」
「久しぶりです。メイキンさん」
「もう~♪ あんまり来ないとお姉さん、寂しいじゃない~♪」
「すみません。ちょっと色々あったもので」
そのたくましい胸に抱きしめられる僕。
うん、最初は戸惑ったものだが、これはメイキンさんの挨拶みたいなものだ。
素直に受け入れれば、やがて、過ぎ去る。
「あら、今日はお友達も一緒なのねぇ~♪ 2人とも、なかなかキュートじゃない~♪」
値踏みをするような視線をサクラ君とエルヴィーラさんに向けるメイキンさん。
異様な迫力にサクラ君が2歩後ずさり、エルヴィーラさんが、わなわなと震えていた。
大丈夫だよ。悪い人でないし、何回か会ってると慣れるから。
「で、今日は何の御用かしら~?」
「買い取って欲しいものがあるんです」
言いながら、僕はカウンターの上に、カバンから出したそれを置いた。
「へぇ……魔核じゃないの♪」
メイキンさんが舌なめずりをする。
そう、僕が持って来たのは魔物の心臓部であるところの魔核だ。
もちろん、ミノタウロスの魔核ではない。
あれは一抱え程もあるし、何より、機巧人形の転換炉として活躍してもらわなければならない。
今回持って来たのは、あのサーベルヴァイパーの魔核だ。
ミノタウロスほどではないが、それなりの大きさで、魔素の吸収率やエネルギー変換効率も悪くない。
「この大きさだとサーベルヴァイパーってところかしら♪」
「さすがメイキンさん。正解です」
「んふふ、相場で言うと、これくらいかしらね」
メイキンさんが指を3本立てる。
ふむ、30万ガバスか。
「状態が良かったら、もう一声いただけません?」
「そう言うと思ったわよ。ちょっと待ってなさい♪」
メイキンさんは、カウンターの隅に置かれていた魔機からチューブを伸ばし、魔核へと引っ付けた。
すると、魔核がじんわりと紫色に光り出す。
あれは、魔核の性能を図るための計測器だ。
吸収率や変換効率も含め、様々な性能を計ることができる。
「さすがねぇ。仕方ない。あと、5万出すわ♪」
「やったぁ!」
どうやら、魔核の性能は、メイキンさんのお眼鏡に叶ったらしい。
「ついでに、他にも細々とした魔物素材があるんですが……」
「はいはい、それらも含めて、全部で40万ガバス。それで手を打つわ♪」
「さすが、メイキンさん。話がわかる」
「だいたいビスちゃんのやりそうなことはわかってるからね。それに、品質については、まず、間違いないものをいつも持ってきてくれてるし♪」
そんなわけで、他にも、持ってきていた魔物素材を売り捌き、僕らは40万ガバスの収入を得ることに成功したのだった。
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