第12話 機巧技師、学園の成り立ちを語る

 ネリヤカナヤ島立学園は、単位制の学校だ。

 必修授業は午前中に行われ、選択授業は午後からとなる。

 卒業までの3年間で必要な単位数というのも、それほど多いということもなく、基本的には落伍者の出ないシステムになっている。

 というのも、それは、この学園の創立の経緯に端を発する。

 元々、この島は、3つの国が領有権を巡って争っていたという経緯がある。

 1つ目は、僕の故郷チェルノアーヴ。北方の雪国であり、多くの技師達が住む技術大国。

 2つ目は、エルヴィーラさんの故郷モントカルテ。魔法を使う貴族達が住む国であり、女系国家でもある。

 3つ目は、サクラ君の故郷ジュノン。武に長けた冒険者達が活躍する土地であり、厳密には1つの国ではなく、多くの地方を包括した自由連合とでもいったものだ。

 およそ100年ほど前に、ちょうど同じくらいのタイミングで、この島を発見した三国は、島の有する豊富な資源に目をつけ、互いに領有権を主張し合った。

 しかし、話し合いは平行線が続き、およそ30年もの間、それぞれの国の牽制し合いが続いた。

 そんな島の領有権を巡る醜い争いに、終止符を打ったのが、3人の少年少女達だった。

 3人の少年少女が、島に元々あった2体の石像をモチーフに作り上げた世界で初めての機巧人形ガランドール、それは、それぞれの国の人々に衝撃を与えた。

 当時は、魔素マナを動力に動く機械──魔機なんかもほとんど存在しなかった時代だ。

 そんな中で、人の姿を模した大型メカが動いている姿を見たのだから、その驚きは計り知れない。

 とにもかくにも、3つの国の技術が合わさって作られた機巧人形の姿を目の当たりにした人々は、お互いで争うよりも、力を合わせた方が、よりそれぞれの国を発展させられる可能性に気づくこととなる。

 かくして、三国の共同統治という形に落ち着いたネリヤカナヤ島では、機巧人形ガランドールが平和と友好の象徴として扱われ、今でも技術力の研鑽のために、毎年学生同士による機巧決闘が行われているというわけなのだ。

 そして、そんな最初の機巧人形を作った3人のうちの1人がこの学園の初代学園長であるコーグ=C=スコーマルだ。

 彼が作った「不自由な自由を謳歌せよ」という校訓から、学生たちは、多くの"自由"を与えられ、それゆえに何をして良いのか自分で考えなければならないという"不自由"をも与えられた。

 だから、学園という体を為しつつも、校則や時間的な制約はかなり緩い。

 僕らのようにトライメイツを組んで機巧人形の製作に熱意を燃やしている者もいれば、冒険者や魔導士で集まって、毎日のようにダンジョン攻略に行っている者もいる。

 そうかと思えば、街で商売をしてみたり、あるいは、魔道具や魔機作りに精を出し、商店に売りに行ったりなど、本当に色々な生活スタイルの学生たちがひしめいているのだ。 

 つまるところ、この島にやってきた学生に求められているのは、自ら考え、自ら動くこと、これに尽きる。

 話が長くなったが、そんな自由の中で、機巧人形作りを選んだ僕は、午前の授業を終えると、そそくさと工房へとやってきたというわけだった。


「よし、こんなところかな」


 エルヴィーラさんに魔導式を刻んでもらった魔核から魔力導線を伸ばし、フレームの胸部へと取り付ける。

 そこからまるで血管や神経のように、全身に導線を張り巡らせていくと、いよいよこれで、動力と駆動系のおおまかなところは完成といったところだ。


「凄いな。これ、もう動かせるのか?」

「まだ、コクピット周りができてないからね。動かすには、もう少しかかるかな」


 とはいえ、形としては、随分完成に近づいてきた。

 週末を目途にコクピット周りを完成させれば、機体登録だけならできるところまでもっていけるかもしれない。

 ただ、自前の素材だけでは、精密部品を多用するコクピット周りを完成させることは不可能だ。


「必要なパーツを街に買いに行かないと」

「荷物持ちくらいなら付き合う」


 サクラ君がそう言うと、エルヴィーラさんも、こくこくと頷いた。


「ありがとう2人とも」


 こうして、昼下がり、僕達は、港へパーツの買い出しに出かけることになったのだった。

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