第6話 機巧技師、魔術を知る
「いっそこのまま6層まで降りて、ボスを狩らないか?」
「えっ?」
「お前が魔道具でサポートをしてくれるなら、俺は、このダンジョン程度のボスなら、狩れる自信がある」
真剣なまなざしで、拳をグッと握りしめるサクラ君。
ボス狩り……考えたこともなかった。
なにせ、ボスという存在は、ベテランの冒険者がチームを組んで、ようやくまともに攻略ができるといった代物だ。
これまで、ソロで細々と素材を集めていた僕にとっては、そんな発想すら出てこなかった。
でも……。
今までの戦闘でのサクラ君の強さを思い返す。
彼ほどの技量があれば、あるいはボスとの直接戦闘というのも可能なのかもしれない。
それに、ここは、ネリヤカナヤ島にあるダンジョンの中でも、それほど高難易度というわけでもない。
他の上級のダンジョンに比較すれば、ボスの強さも、かなり控えめといっても良いだろう。
そこまで判断すると、僕は思案顔を上げた。
「サクラ君がそう言うなら……。エルヴィーラさんはどう?」
僕が尋ねると、エルヴィーラさんは、また、目をぱちくりとさせて、こくこくと頷いた。
「そうか、じゃあ、行こう」
そして、また、ずんずんと進んで行くサクラ君。
僕とエルヴィーラさんは、慌ててその背中についていく。
4層を下り、5層に到達しても、サクラ君は相変わらずだ。
速攻で、魔物を狩り、僕に素材を提供してくれる。
下るほどに、魔物も強さを増しているはずなのに、まったく、それを感じさせない。
いや、だが、良く見れば、上層の時と違って、なんだか攻撃する度に手足が光っているように見える。
「サクラ君のそれって……もしかして、魔法?」
「魔法ではない。"魔術"だ」
そう訂正したサクラ君は、僕らにもわかるように拳に仄かに紅い光を纏って見せた。
「身体能力を強化する魔術を使って、攻撃力を上げている」
「す、凄い……そんなことまでできちゃうんだ……!!」
「俺の流派の者は、皆、当たり前にやっていることだ」
「へぇ……」
なんだか感心してしまう。
冒険者というと、皆、我流の戦闘方法を持っているのかと思っていたけれど、サクラ君は何か体系的な武術を学んでいるらしい。
「ち、ちなみになんだけど、魔法と魔術って何か違いがあるの?」
「この前必修の授業でも説明されていただろう」
「あはは、恥ずかしながら、最近は授業中、ほとんど寝ちゃってたんで……」
何せ、ほぼほぼ機巧人形の整備に、構いっきりだったから、授業を真面目に聞いてる余裕すらなかった。
ふぅ、と嘆息しながらも、サクラ君は、仕方ないとばかりに口を開いた。
「魔法と言うのは、魔導士が使うものだ。大気に満ちる
「うんうん」
魔道具や魔機の製作も行う僕だ。
さすがに、魔法の原理自体はそれなりには理解している。
「対して、魔術は
「体内にある魔力を直接色々な形に変えられるってこと?」
「ああ、だが、
「いや、それでも、凄いよ!!」
つまり、効果は大きいが、使える場面については、限定的だということ。
それを使わずに魔法に似た効果を発揮できるということは、汎用性の面で、大きなアドバンテージだと言ってよい。
そう言えば、冒険者達の自由国家ジュノンは、他の国々と違い、広大な国土の中に、様々な環境の土地があると聞く。
だから、こういった
むくむくと魔術についての知的好奇心が湧いてきた僕が、次の質問をしようとしたその時だった。
サクラ君が足を止めた。
「着いたようだ」
会話に夢中になっていた僕は、進行方向へと視線を向ける。
道の先に、巨大なドームのような空間が広がっていた。
いわゆるボスフロアというやつだ。
「ここにボスがいるはずだ」
「う、うん」
ソロでは戦う気なんて全く起こらなかった僕だけど、さすがに、ここのボスがどんなやつかぐらいは聞き及んでいる。
ごくりと唾を飲み込むと、僕は、槌の柄を握る手に力を込めた。
「基本的に、俺は一人で戦う。危なそうな場面だけ、サポートしてくれればいい」
「わ、わかった」
僕と同様に、エルヴィーラさんもこくりと頷く。
さあ、ボスとの戦いだ。
サクラ君の邪魔にならないようにしつつ、しっかりとサポートができるようにしよう。
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