第5話 機巧技師、素材を集める

 ダンジョンは、奥に行けば行くほど、魔物が強くなっていく。

 僕らが、今、挑戦している第6迷宮は、全6層あり、最奥では、ボスと呼ばれる存在が待ち受けている。

 各ダンジョンのボスは、強力な力を有しているが、それに見合うだけの見返りもあり、ボスの身体を構成する素材なんかには、かなり旨味がある。

 特に魔核と呼ばれるボスクラスの魔物だけが持つ器官は、多くの魔素を吸収し、エネルギーに変える転換炉のような役割を持っており、島の生活にはなくてはならないものだ。

 道中の雑魚は、無視して、ボスだけに狙いを絞って、攻略を進める冒険者達もいるほどだ。

 とはいえ、僕らは、トライメイツを組んだばかりの学生、さすがに、ボスの攻略までをするつもりはない。

 僕らが目指すのは、4層。そこには、機巧人形ガランドールの駆動系と装甲材の素となる、とある魔物が生息しているのだ。

 そこに向かって、僕らは、2層、3層とダンジョンを進む。


「……いいのかな。こんなに楽で」


 思わず、そんな言葉が口から出るほどに、行程は順調だ。

 というか、僕とエルヴィーラさんは、何もしていない。

 だって……。


「はっ!! せいっ!!」


 サクラ君の拳が、次々と襲い来る魔物の腹に風穴を開け、頭を叩き割る。

 もうずっとこんな調子だった。

 この人、強すぎるし、速すぎる。

 僕らが戦闘態勢に入る前に、魔物と会敵し、一息に倒してしまうサクラ君のおかげで、一回も槌を振るうことなく、ここまでやって来れてしまっていた。

 冒険者が、一緒に探索してくれるとこんなに楽なものなのか。さっきから感動しっぱなしだ。

 なにせ、これまでは、基本、整備に使う資材集めは、僕1人の担当で、毎回死ぬ思いで、ダンジョンに潜っていたわけで……。

 拍子抜けするほどに、トントン拍子で攻略が進んでいっている現状に、もはや理解が追い付かないほどだ。

 と、また、一瞬で、敵を蹴散らしてきたサクラ君が、肩にかかった長い髪を払った。

 その動作だけで、なんだか、キラキラと輝くものが、彼の周りに舞っているように錯覚する。

 強い上に美形……いや、本当に、いろいろできすぎた人だ。

 本気で、なぜ、この人が追い出されたのかわからない。


「これは、素材になるか?」


 と、呆然と眺めていた僕に、サクラ君が、周囲の確認を促した。

 彼の周囲には、様々な魔物の死体が転がっている。


「うん、こいつの頭の器官はコクピット周りに使えるんだ。あとは、これと、これも使える……。これは、素材にはならないけど、市場には売れそうだし」


 僕は、使えそうな素材を、万能ハンマー"マルチプルインパクト"の一部を変形させたナイフで、切り出していく。


「凄いな、そのハンマー」

「いろいろ便利な工具が詰まってるんだ。よし、こんなもんかな」


 解体が済めば、あとは、収納だ。

 僕は、収納用の魔道具を取り出すと、解体した素材を、その中へと吸い込ませた。

 魔素マナというエネルギーが充満しているこの島の中では、それを媒介にして、物品の"転送"という現象が比較的簡単に行える。

 この魔道具を通せば、島内の指定した場所へと、取得した素材を送ることができるのだ。

 僕のような機巧技師は、大量の資材を運ぶ機会が多いため、多少高価でも、この魔道具だけは、必ず持つようにしている……まあ、本当は買取できる資金はなくて、レンタルなんだけど。

 順調に素材集めをしながら、進んで行くと、僕らはやがて4層へとたどり着いた。

 4層には、湖のような場所が広がっており、目的の魔物は、そこを住処としている。

 サクラ君に魔物を蹴散らしてもらいながら進んで行くと、やがて、僕らは、その湖へとたどり着いた。


「ここか、目的の湖というのは」

「うん」


 周囲を見回す。奴らは、今の時間は水の中にいるようだ。ちょうどいい。

 僕はあらかじめ用意していた、とある魔道具をポケットから取り出す。

 ほんのボールほどの大きさのこれは、僕が自作した電撃玉とでもいった魔道具だ。

 |魔素〈マナ〉を雷のエネルギーに変換して球状に加工したもので、スイッチを押して投げれば、雷の魔法と同様の効果を得ることができる。

 おもむろに、スイッチを押すと、僕は、それを湖に向かって投擲した。

 水面に触れた途端、バチバチと音を立てて、電撃が水中へと走った。

 数秒後、ぷかぁ、と何かが浮かび上がってくる。

 それは、亀だ。

 亀型の魔物、ラウンドタートル。

 僕の目的の魔物とはこいつのことだ。

 電撃玉一発では、気絶させるのでやっとだが、こうやって腹を上にして浮かび上がってきたところを一突きすれば、いちころだ。


「さて、じゃあ、さっさと止めを」

「いや、さて、じゃない」


 サクラ君が、胡乱気な顔で僕を見ている。


「なんだ、今の魔道具は? あんなもの見たことがないぞ」

「自作なんだ。結構便利だよ」

「自作……だと? いつも、こんな狩りをしているのか?」

「うん」


 なにせ、一人で狩りをすることばかりだったから、どうしても、道具に頼らざるを得なかったんだよね。

 冒険者のように、身一つで戦えなくて、お恥ずかしい限りだけど。


「サクラ君にも、手伝ってもらってよいかな。はい、ナイフ」

「あ、ああ……」


 そんなわけで、水面に腹を出したラウンドタートルに止めを刺し、陸に集めていく。

 電撃玉を使えば、近くに潜っていた魔物はほぼ全滅だ。

 あらかた解体を終えると、かなりの量の素材が確保できた。

 これだけあれば、十分すぎるほどだろう。


「なあ、お前」

「ん? 何、サクラ君」

「まだ、同じ魔道具を持っているのか?」

「え、うん、あと2,3個は」


 実際、道中もサクラ君が全ての魔物を蹴散らしてくれていたので、普段よりも、電撃玉をかなり温存できている。


「だったら、1つ提案がある」

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